認証マフラーの販売数は250cc以下で7割!

コロナ禍でもマフラーは爆売れ! なのにニューモデル用マフラーが発売されない意外な理由とは? …〈多事走論〉from Nom

コロナ禍にあって再びバイクが注目されるという現象が起きていて、アフターマーケットのカスタム用マフラーも原付二種(125cc以下)用を中心に“爆売れ”と言っていいレベルで好調なセールスを続けているといいます。ですが、そのわりには最新モデル用マフラーの発売情報が希薄であることにお気づきでしょうか。それには、やはりコロナ禍を起因とした意外な理由がありました。


●文:Nom(埜邑博道) ●取材協力: JMCAアールズ・ギアwebike

バイクがもういちど関心を持たれる存在になっている

ご存知の方も多いと思いますが、新型コロナ感染症の流行にともなって密にならずに「個」で移動できる、あるいはひとりでも楽しめるバイクに注目が集まっています。

通勤・通学電車の混雑を避けるため、折からのアウトドアブームもあってキャンプを楽しむためのツールとして注目された、リモートワークなどで時間に余裕ができたため教習所に通って免許を取得する人が増えた、などなどその理由はさまざまに報道されています。

しかしボクは、実はもっと単純なことで、上記のようなことが重なっていままで見えていなかったバイクがそれまでバイクに無関心だった人の目に「見える」存在になったのではと思っています。

よく例えにするのですが、自分に子供ができるまではほとんど目に入らなかった子供の姿が、ある日突然、目に入るようになり、世の中にはこんなにたくさん子供がいたんだと驚いた経験があります。

そう、自分が無関心なものは、すぐそばにあっても(いても)目に入らないものなのですね。

バイク好きの方には言わずもがなのことですが、バイクが目に入るようになったら、こんなに魅力的なものですからどんどん興味が沸いてくるのは当然です。

免許を取って(あるいはリターンして)、バイクを買って乗り始め、ヘルメットやジャケット、パーツなどを買い求め、ツーリングやキャンプに行ったりとバイクライフがスタートするはずです。

JMCA認定プレートの発行枚数が6万枚を超えていた1997年頃は、ビッグネイキッドブームなどでマフラーを交換する人が非常に多かった。しかし、その後は漸減しつつ3万枚から4万枚あたりを推移していたが、昨年、定額給付金効果などもあって一気に6万枚以上を記録した。

そんな方々がたくさんいるいま、今年の新車の国内出荷台数は6年ぶりに40万台を超えると予想されていますし、昨年の定額給付金の支給をきっかけにしたバイク用品の売上アップも、一過性のものではなく今年も依然として続いているようです。

バイク用品店やパーツメーカーが昨年、過去最高の売上や利益を記録したという話をよく耳にしますが、カスタムパーツの定番中の定番である交換用マフラー(以下、マフラーと表記)も非常によく売れています。

そのマフラーが合法であり、400㏄以上のバイクに装着した場合は車検にも適合することを証明する「JMCA認証プレート」を発行するJMCA(全国二輪車用品連合会)によると、この認証プレートの発行枚数が昨年、過去最高を記録し、今年も昨年を上回るペースで発行しているそうです。

発行枚数とマフラーの販売本数はほぼイコールとのことですから、JMCAが1989年に発足して、自主規制のJMCA認定マフラーの証明であるJMCA認定プレートを1997年に発行開始して以来の快調なマフラーの売れ行きを証明していると言っていいでしょう。

カスタムパーツの定番中の定番と書きましたが、実際はマフラーの装着率は年々低下していて、いっときのようにバイクを購入したらマフラーを交換するのが当り前という状況ではなくなっていました。なのにここにきて、JMCAが発行する認証プレートの枚数が過去最高を記録するほどマフラーが売れている。その理由を、JMCAのマフラー部会長社のアールズ・ギアに聞いてみました。

便利な足、遊びの道具にもなる125㏄用マフラーが絶好調!

同社の商品開発・生産管理総括部長の小林さんによると、コロナ禍によって通勤・通学にバイクを使う人が増えて、そういう方が遊びの道具としてもバイクを使うようになったこともあって小排気量の車種用マフラーが非常によく売れているそうです。モデルで言うと、ホンダ・CT125、ホンダ・PCXシリーズ、ホンダ・ADV150、そして軽二輪だとホンダ・レブル250が人気を集めていて、価格帯的には5万円前後のマフラーが主流とのこと。

JMCAによると、認証プレート発行数の7割は軽二輪以下用だとのこと。最初は通勤や通学ユースで乗り始めた人も、次第にバイク自体への関心が高まっていき、何かカスタムをしたいと思うようになるのだろう。

認証プレート付きのマフラーに関しては、大型用品販売店もJMCAに加入していて認証マフラー以外は販売しないようになってきているのに加え、ユーザーの間でもマフラー規制についての理解が進み、安全・安心にカスタムを楽しむには認証マフラー、その対象以前のモデルならJMCA認定プレート付きのマフラーを選ぶという流れになっているとのことでした。

興味深かったのが、いまマフラーを購入するユーザーは6対4でネット通販のほうが多いというお話。

自分のバイク用にどんなマフラーが発売されているか簡単に検索できるのがwebikeをはじめとしたネットショップの強みだ。また、売れ筋商品を多く在庫することで、お客様に商品を迅速に届けられるのもネットショップでマフラー販売が伸びている要因だという。

そのあたりの事情を、大手バイク用品通販サイト「Webike(ウェビック)」を運営するリバークレインで事業統括マネージャーを務める楠山さんに聞くと、最近は大型用品店でもマフラーを数多く在庫するお店が減ってきていて、それに対してネットショップは在庫を充実するようにしているため商品が届くまでの期間がリアル店舗よりも早く、さらに自分のバイク用のマフラーを検索しやすいという点がユーザーから支持されているとのこと。

また、コロナ禍の中で「Webike」での用品全体の売上がコロナ前の1.5倍ほどになっていて、マフラーに限って言えばさらに伸びが大きいそうです。売れ筋は本数ベースではホンダ・CT125、ホンダ・モンキー125、ホンダ・クロスカブ&スーパーカブ110、金額ベースではカワサキ・ZX-25R、カワサキ・Z900RSあたりが上位にランクインしていると話してくださいました。

リアル店舗でもネットショップでも傾向は同じで、やはり原付2種用のマフラーが非常に伸びているようです。

一方、リアル店舗ならではの長所もあるようで、大型用品店・2りんかんの商品課MD担当の古賀さんによると、マフラーの販売はコロナ前の120~130%伸長していて、免許を取ってバイクに乗り始めたばかりで自分のバイクにはどんなカスタムパーツが用意されているか、あるいは何を買ったらいいか分からないというユーザーが増えていて、そんな方には安心して楽しめる認証マフラーをお薦めしているのだそうです。

また、認証マフラー対象外の中古車を購入してマフラーを探している方が来店することもあり、その場合はJMCA認定プレートの付いたモデルを紹介しているとのこと。

最近は音が大きいかどうかを気にするユーザーはほとんどいなくなり、それよりも車検対応か、規制に通っているかを気にする人がほとんどと言います。

バイク用品店では、以前のように数多くのマフラーが天井から吊るされてはいなくて、売れ筋のマフラーが数本吊るされているのみ。2りんかんではマフラーの在庫を持たない代わりに、サンプル品を用意してお客様にどんなマフラーか知ってもらうようにしている。また、人気モデルに関しては、以前のように天井から吊るすのではなく箱に入れた状態で在庫しているという。 ※写真は2りんかん和光店

JMCA、リバークレイン、2りんかんの3つを取材して、マフラーはいま原付2種モデル用を中心に非常に売れていて、認証マフラー(あるいはJMCA認定マフラー)を選ぶのがユーザーの間で当り前になっていることがよく分かりました。

マフラー規制はこう変化してきた

ここであらためてマフラーに対する規制の変遷を振り返ってみることにします。

マフラーに騒音規制が適用されることになったのは1986年で、それ以前に生産されたバイクには騒音に関する規制はまったくなく、250㏄以上のバイクでも車検時に排気音量の測定をされることもありませんでした。いま考えると、何ともおおらかな時代だったものです。

しかし、1986年以降に生産されたバイクには騒音規制(近接排気騒音値)が適用されるようになり、原付1種(~50cc)/2種(~125cc)は近接排気騒音95dB以下、軽二輪(125cc~250cc)と小型二輪(250cc~)は99dB以下と定められました。

そして、平成10(1998)年規制によって、原付1種は近接排気騒音84dB以下、原付2種は95dB以下、軽二輪は94dB以下、小型二輪は99dB以下となりました。

さらに平成13(2001)年規制により、原付1種は近接排気騒音84dB以下、原付2種は90dB以下、軽二輪と小型二輪は94dB以下と徐々に厳しい数値が課せられるようになっていきました。

この平成13年規制までは、JMCAが独自に騒音測定の試験を行って、試験に合格したマフラーに対してJMCA認定プレートを発行していました。

また、騒音規制に加えて、平成10年にはバイクも排ガス規制の対象となったため、JMCAの認定の際には排ガス検査にも合格していることが求められ、JMCA認定プレートが付いているマフラーは騒音・排ガスともに法律に適合していることとなりましたが、JMCAの認定プレートはあくまでもJMCAの自主認定制度に合格したものであり、このプレートが付いていれば合法マフラーであるという国のお墨付きが得られるものとは言えませんでした。

とはいえ、徐々に全国の車検場などでもJMCAプレートが付いていれば合法マフラーであるという認識を持つ試験官が増えていき、マフラーを交換するならJMCA認定マフラーにしようというユーザーも増え、さらにはJMCAに加盟するマフラーメーカー(現在は73社が加盟)も増えていきました。

そして、平成22(2010)年に導入された規制で、マフラーを取り巻く環境は大きく変わりました。

その年の4月1日以降に生産された車両に装着するマフラーは、それまでの近接排気騒音に加えて加速走行騒音も規制値をクリアしていなければならず、国が認めた機関(バイクの場合はJMCA)が所定の機関(テストコース等)で国が認定した試験官立会いの下で試験を行って、そのマフラーの加速走行騒音が法律の範囲内(原付1種、原付2種は79dB以下、軽二輪、小型二輪は82dB以下)であることを証明することが必要となったのです。

それまでよりもより厳しい内容となり、しかも一定条件を満たしたテストコースで試験を行わなければいけないなど、マフラーメーカーにとっては規制をクリアするハードルが一段と上がってしまいましたが、一方でJMCAが国の認めた機関となったことで、JMCAがテストを行って認証したマフラーは「事前認証制度における後付け消音機」(=認証マフラー)となり、晴れて国のお墨付き(=合法)をもらうことになったのです。

ある意味、これはユーザーにとっても大きなメリットで、マフラーを選ぶ基準が明確になり、保安基準に適合した合法的なマフラーを装着して、安心して楽しめるようになったわけです。

ここでひとつ気を付けたいのが、この加速走行騒音規制は車検のある250cc以上のバイクだけではなく、すべてのバイクに適用されているということ。したがって、50ccバイクやいま人気の125ccや250cc車もマフラーを装着する際には、認証マフラーでなければ法律違反(道路運送車両法違反)になってしまうということ。

車検がないからどんなマフラーでもいいやと思っていると、痛い目に遭ってしまうのです。

加速走行騒音は、一定の基準を満たしたコースを使用して、車両ごと(排気量ごと)に定められた進入速度と測定ギヤで、20mの区間を全開で加速走行して測定する。

平成22年規制以前は、JMCAが独自の試験を行って、それにパスしたマフラーにJMCA認定プレート(左上)が付けられていた。それ以降の平成22年規制適用車は、シルバーの認証プレートに変更されている。

認証テストが行えず’21年モデル用マフラー開発が滞っている!

コロナ禍の思わぬ影響で、絶好調に販売を伸ばしているマフラーですが、そのコロナ禍のせいで大変な事態も起きています。

前述のように、現在、マフラーの国家認証試験は国が認定した試験官立会いの下で行われるのですが、緊急事態宣言が発令されると東京にいる試験官が出張を禁じられるため、静岡県にあるテストコースで行われている国家認証試験が今年は5月以降、一切行われていないのです。

そのため、今年発売された注目モデル用のマフラーがまだほとんど登場していないのです。その代表的なモデルが、スズキの新型ハヤブサ、ホンダ・レブル1100、ホンダ・GB350、ホンダ・グロムなどだと言います。

マフラー販売が絶好調の裏側に、こんな予想外の事態が起きていたなんて何とも皮肉なものです。

しかし、この原稿を書いている9月29日、政府が全国19都道府県に発令している緊急事態宣言と8県に適用中のまん延防止等重点措置を9月30日ですべて解除する方針を決定しました。

この決定によって、10月に予定されている国家認証試験が実施される見込みで、さらに今年は11月と12月にも予定されているとのこと。

アールズ・ギアの小林さんによると、10月の試験に合格したマフラーは早ければ10月末~11月初めには出荷できるのではないかとのこと。

21年モデルを購入して、マフラーの登場を心待ちにしている方々、もう少しの辛抱ですよ。

緊急事態宣言の発令によって思わぬ影響がマフラー業界に及んでいて、国家認証試験が開催されないため今年のニューモデル用のマフラーのリリースが多くのメーカーで滞ってしまっていた。


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