ドゥカティは、『ドゥカティ・ワールド・プレミア2022』と題し、2022年に発売するニューモデルを9月より順次発表し、12月10日に7台目となる『DESERT X(デザート・エックス)』を発表してその幕を閉じた。パニガーレV2ベイリス仕様、ストリートファイターV2/V4SP、パニガーレV4といった“ドゥカティの本流”ともいえるスーパーバイク系を連発した後で最後を締めくくったのは、本格派ビッグオフロードマシンだったことは、ドゥカティが新時代へ突入していることの表れでもあるだろう。
●文: 山下剛
ラリーレイド参戦も見据えた走行性能を持つドゥカティ渾身のアドベンチャーマシン
1978年よりはじまった『パリダカールラリー』は、1980年代に入るとバイクメーカーがしのぎを削る、世界でもっとも過酷なラリーレイドとなった。日本メーカーも海外メーカーもワークスマシンを送り込み、ダカールの浜辺を目指してサハラ砂漠を走破した。
そしてヤマハ、BMW、ホンダが連覇を果たす中、そこへ割って入ったのはカジバ・エレファントだった。当時、ドゥカティを傘下に収めていたカジバがエレファントに採用したエンジンは、ドゥカティ製の空冷L型2気筒だった。エレファントは1990年と1994年に2度、パリダカを制覇してその実力と名を世界に知らしめたのである。
ドゥカティがワールドプレミア2022のトリとして発表したデザートXは、2019年のEICMA(ミラノショー)でプロトタイプとして発表されて話題になったマシンだ。しかしこうして市販されると予測できた人はあまり多くなかったのではないだろうか。
デザートXは、パリダカを制したドゥカティLツインへのオマージュでありヘリテイジであることは明らかだ。ドゥカティはプレスリリースの冒頭で「デザートXは80年代のエンデューロバイクを現代的に解釈したもの」と明言しているし、大きな燃料タンクを覆う白いフロントフェアリングと、丸目2灯のヘッドライト、そしてドゥカティのLツインエンジンは、当時のパリダカ・ワークスマシンの象徴でもあり、エレファントの重要なアイコンでもあるからだ。
937cc水冷テスタストレッタ11°をオフロード向けに改良
デザートXの出自を紹介したところで、マシンの詳細を見ていこう。
まず、エンジンはプロトタイプでは空冷だったが、市販化にあたって水冷が採用されている。排気量は937ccのテスタストレッタ11°で、ムルティストラーダV2やハイパーモタード、スーパースポーツなどに搭載され、信頼を集めてきたエンジンだ。このエンジンをベースとして、タフなオフロードを走破するために改良を加えて軽量化している。組み合わされるトランスミッションもオフロードを重視した専用設計で、1~5速のギア比を低くしている。そして6速をオーバードライブとして、長距離ツーリング時の快適性と燃費向上に寄与している。もちろんユーロ5に適合している。
エンジンのパワーモードは、フル、ハイ、ミディアム、ローの4種が設定される。これはコーナリングABS(3段階)やトラクションコントール(8段階)と同時に最適な出力に変更できる6種のライディングモード(スポーツ、ツーリング、アーバン、ウェット、エンデューロ、ラリー)と併せて機能する。
注目したいのは『エンデューロ』と『ラリー』という、オフロード用ライディングモードが個別に設定されている点だ。エンデューロでは、パワーを抑制することでビギナーでもオフロードを安全・快適に走れるような特性となる。対するラリーでは、エンジンはフルパワーを発揮し、ABSやトラクションコントロールの介入度が低くなる、ベテランライダー向けの特性としている。また、この2種のモードではABSをカットオフすることが可能だ。
電子制御デバイスはこれらのほかに、エンジン・ブレーキ・コントロール(EBC)、ドゥカティ・ウィリー・コントロール(DWC)、ドゥカティ・クイック・シフト(DQS)が搭載される。
新たに専用開発されたスチール製トレリスフレーム
フレームは専用開発された新設計で、スチールパイプを組み合わせたトレリスフレームを採用。このフレームに、フロントは230mm、リアは220mmのロングストロークサスペンションをセットし、さらにホイールはフロント21インチ径、リア18インチ径のワイヤースポーク(チューブレスタイヤ対応)を装着。これらにより、過酷なオフロードでの走破性と快適性を確保している。なお、前後サスペンションはKYB製で、フロントには太めの46mm径倒立を採用し、前後共にフルアジャスタブルとしている。最低地上高は250mmと十分なクリアランスを持つ。
エルゴノミクスもオフロードでの走破性を重視した設計としており、ハンドル、シート、ステップの位置関係はスタンディングポジションに移行しやすく、その状態で最高のパフォーマンスを発揮する。それでいてオンロードにおける快適性にも優れ、長距離ツーリング時の疲労を軽減する設計だ。また、シート高は875mmと高めだが、ローサスペンションキットやローシートをオプション設定している。
燃料タンクは21Lと十分な容量を持ち、ガソリンスタンドがない区間の走破を容易にしている。ユニークなのはオプションパーツとして8L容量の補助リアタンクを揃えている点だ。これはメーターパネルから供給源を切り替えることが可能で、メインタンクの燃料が一定以下になると、補助タンクからの供給が可能となるシステムとしている。一般道におけるツーリングで有効なのはもちろんだが、本格的なラリーレイド参戦でも大いに優位に立つことができる装備で、ドゥカティがどのような意図を持ってデザートXをデザインしたかを垣間見ることができる。
トリップマスター機能を使用可能なメーターパネル
メーターパネルには、5インチTFTディスプレイを採用。速度やエンジン回転に加えて、ギアポジションや燃料計など多彩な情報をすばやくチェックできる。さらに、表示形式は標準とラリーの2種から選択可能で、ラリーモードではトリップマスター機能を使うことができる。コマ図による読図が欠かせないラリーレイドの必須機能であり、やはりデザートXが単なるアドベンチャーツアラーではないことを示している。
積載能力は240kgで、純正アクセサリーにはアルミ製のパニアケース(左右計76L)とトップケース(41L)を用意し、アドベンチャーツーリングのための大荷物を積んでタンデムツーリングを楽しめるスペックを持つ。
ラリーレイド参戦まで見据えた優れたスポーツ性能と、タフな冒険ツーリングを成功させる安全性と快適性を両立したデザートXは、MotoGPやWSBといったロードレースイメージでブランドを築いてきたドゥカティが、新たな境地を切り拓いていることの証といえるだろう。日本国内導入は2022年第2四半期とされている。
DUCATI DESERT X
主要諸元■全長― 全幅― 全高― 軸距1608 シート高875(各mm) 車重223(乾燥202)kg■水冷4ストロークL型2気筒DOHC4バルブ 937cc 110ps/9250rpm 9.4kg-m/6500rpm 変速機6段 燃料タンク容量21L■タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70R18 ●価格:193万9000円 ●発売時期:2022年第2四半期
※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
現在開催中のイタリア・ミラノショー(EICMA2019)において、ドゥカティはドゥカティ スクランブラー・ブランド・ユニットが設計し、ドゥカティ・スタイルセンターが製造したコンセプトバイク「デザートX[…]
パリダカを制したカジバの偉業を再現するMVアグスタによる2台のアドベンチャー 1980年代はパリダカールラリーの全盛期だった。1979年の第1回でヤマハ・XT500が優勝すると、BMW R80G/Sと[…]
アドベンチャーモデルにもネオクラシックスタイルの波が来た! ネオクラのストリートモデルで優れたデザイン性を発揮しているハスクバーナは、EICMAでノルデン901というコンセプトモデルを発表。これが大反[…]
旅性能を高めた装備と細部の熟成でアップデート ホンダは、1082ccの並列2気筒エンジンを搭載する大型アドベンチャーモデル「CRF1100Lアフリカツイン(Africa Twin)」シリーズの装備を充[…]
日の出とともに太平洋岸から石川県千里浜なぎさドライブウェイを目指す、ツーリングラリー 水平線に沈みゆく茜色の夕日を眺めつつ、波打ち際をバイクで疾走。楽しさを通り越し、この上ない幸福感を噛みしめている。[…]
最新の記事
- 「ゲスト豪華…」長瀬智也にレジェンドライダーも参加! ヨシムラが創業70周年&2024世界耐久シリーズチャンピオン獲得の祝勝会を開催
- 「マジ!?」EICMAで話題のホンダV型3気筒エンジンは2000年代にもウワサがあった「2スト×4ストのハイブリッド!?」
- 2025年「56レーシング」チーム体制発表! 13歳の富樫虎太郎は全日本J-GP3フル参戦、新たに9歳の木村隆之介も加入
- Wチャンピオンを手土産に世界に再挑戦!【國井勇輝インタビュー】
- 「いつから、いくら下がる?」ついにガソリンの暫定税率廃止へ! 新原付の地方税額も決着……〈多事走論〉from Nom
- 1
- 2