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MT-09ほどの暴れん坊ぶりは必要ないが、それでも元気に走るスポーツバイクが欲しい。そんな人にピッタリなのが弟分のヤマハMT-07だ。09の扱いやすい領域とほぼ同じ感覚を持ったトルク感あふれる2気筒エンジンで、素のバイクの楽しみを味わうことができる。
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一/中村友彦) ●写真:長谷川徹/真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ発動機
【テスター:丸山浩】今回のテストを行うのは、ヤングマシンでおなじみウィズミー会長・丸山浩氏。弾けるようなMTエンジンの楽しさに、取材当日の気分はこれまでになくハイ。おかげでプロフィール写真もいつもより高く飛び跳ねた!
よりスポーツしやすくなったライディングポジション
MTシリーズでは、MT-09に合わせてミドルクラスのMT-07も’21年型でモデルチェンジを果たした。この07は2気筒であることや兄貴分ののキャラが尖りすぎていたことから、これまでエントリー向けのモデルと見られがちなところもあったが、私から見るとそれは間違いだということを改めてはっきりさせておきたい。たしかに扱いやすいエンジン特性や良好な足着き性、トラクションコントロールやクイックシフターといった電子制御を持たない代わりにリーズナブルに抑えた車両価格など、エントリー層にもオススメできるマシンではある。しかし、07はそれだけに収まらない、れっきとした”スポーツバイク”だ。
【’21 YAMAHA MT-07】■全長2085 全幅780 全高1105 軸距1400 シート高805(mm) 184kg ■水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ 688cc 73ps/8750rpm 6.8kg-m/6500rpm ■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:灰 青 暗灰 ●価格:81万4000円
ライディングポジションは先代より大柄になったが、相変わらず手の内に入るサイズで前傾度もわずか。両足の腹まで地面に着いて取り回しも最高。車重差は5kgだが、それ以上に軽く感じさせる。[身長168cm/体重61kg]
今回のモデルチェンジにてスタイルこそ09と似たようなフォルムに変わったが、ユーロ5対応が主目的で、エンジンや車体は先代からほとんど変わってはいない。そのエンジンは、ちゃんと下からの駆け抜けるようなトルクの盛り上がりがありつつ、上まで回していっても09の暴れん坊みたいな感覚はなし。二面性はないが、純粋に270度クランクのトルク特性を楽しみたい人には、クセがないぶん性に合うかもしれない。
ハンドリングは初代から受け継がれたかなり軽快な部類のままだ。それに加えて先代でフロントを中心に踏ん張りが与えられたサスペンションが、強めのブレーキングにもしっかり耐えてくれる。おかげで峠ではかなり元気に走ることができるようになり、スポーツ性が高まった。もっとも今回も基本設定は”よく動くサスペンション”であることには変わりなく、そのためにツーリングで長距離をクルージングするにはちょっと落ち着きが足りずに疲れやすく感じてしまうかもしれない。やっぱり07はスポーツするためのバイクなのだと思う。
スタイル以外に大きく変わった点としては、ハンドルバーが幅30mm延長されて高さは12mmアップされた。これはヨーロッパ人の体格に合わせたということだが、日本人にもちょうどいいサイズ感で、ライディングポジションは極めてスタンダード。スリムだった先代は女性ライダーにもオススメといった感じだったが、新型はもう少しスポーツ性を持たせるためにポジションを大柄にしてきたといった印象だ。
いずれにせよ、そんなに前傾姿勢になったり電子制御に頼るほどいろいろ苦労する必要なしに、素のエンジンの面白味とバイクのスポーツ性を集約させているのが07の魅力だ。初代から続く削ぎ落としたスポーツバイクの原点的な魅力をまったくブレることなく熟成したというのが、新型に乗った感想だ。
エンジンは耐摩耗性に優れたバルブシートを排気側に採用し、ミッションのドッグ角も変更。排気音は低速/低開度のパルス感を追求。
MT-07はマイナーチェンジでユーロ5相当の平成32年排出ガス規制に適合。従来型をベースにエアダクト&排気系仕様変更/ECU仕様変更/FIセッティング最適化などを施している。デザインもシリーズ共通に。
デザイン一新でシリーズ共通のフェイスに。バイファンクションLEDのモノアイにY字モチーフのポジションランプを組み合わせる。小顔で筋肉質が際立つ。タイヤはミシュランのロード5を装着し、ウイング状のテールカウルは形状変更。ハンドルは左右幅を32mm広く、高さは12mmアップした。
メーターは新型の反転表示LCDマルチファンクションタイプに。バーグラフ式回転計/燃料残量/時計/ギヤ段数などを表示。
燃料タンク容量は13Lで、WMTCモード燃費40.0km/Lと掛け合わせると航続距離はトレーサー9GTよりも長い520kmになる。
シートは先代を踏襲。前後分割式で肉厚だがシート高は805mmに収まる。コンパクトなタンデムシート裏には荷掛けフックや工具が。
セカンドオピニオン:バイク任せではなく、自身で限界を探る面白さ
【2ndテスター:中村友彦】旧車から最新モデルまでオールマイティなフリーライター。タイヤへの造詣も深い。
あら、こんなに頼りない車体だったっけ? それが、久しぶりにMT‐07でサーキットを走った僕の第一印象である。もっともその背景には、直前にMT‐09に乗っていたという事情があって、ブレーキング時のフロントまわりの剛性感や、コーナーの出口でアクセルを開けたときの安心感という面で、大幅刷新を受けた09に07はまったく及ばなかったのだ。
ところが、そんな印象を抱いていたのは最初の数分間だけで、以後の僕は、マシンの性能に身を任せるのではなく、自らの頭と身体で限界を探りながら走る面白さ、MT‐07の魅力を改めて実感。中でもフルバンクからアクセルを開けた際のトラクションは特筆モノで、トラクションコントロールが欲しい…などと思っていた自分が恥ずかしくなってしまった。
もちろん、MT‐07は速いバイクではない。ある程度以上の規模のサーキットで競争するとなったら、MT‐09は言うに及ばず、トレーサー9GTにも負けるだろう、でも、サーキットを速く走るワザを身につけたいのなら、車体剛性とエンジンパワーが程々で、ABS以外の電子制御が備わっていない、この07が一番かもしれないだと僕は思った。
試乗車はミシュラン ロード5を装備。ツーリング系に分類されるタイヤだが、グリップ力と旋回性は十二分で、スポーツライディングに没頭できた。
開発者インタビュー:素のバイクが持つスポーツ性を楽しんでほしい
新型MT-07の開発はイタリアのスタッフが主導して進められた。日本側からは蓮見洋祐氏と清水雅文氏らが担当して調整が行われた。
今回のMT-07は、従来のエンジンと車体をベースに、ユーロ5対応以外では主に新しい外装とポジション変更でブラッシュアップをかけました。ライディングポジションに関しては、もっとのびのびと走りたいというヨーロッパのお客様の要望を採り入れて大柄にしました。ハンドルバー以外にも外装の膝頭の部分を広げるなどして、もっとゆとりを持たせた形にしています。車体の方では他にフロントブレーキディスクも制動力向上を狙って大径化しました。リヤディスクはMT-09と同型です。またちょうどミシュランがロード5を新開発していたところだったので、一緒に協業し、顔となるパターンの上でもイメージのリフレッシュを図ることができました。
エンジンは新ECUとエアダクト、および排気系の仕様変更でユーロ5に対応しています。内部変更としてはバルブシートやミッションを見直して2速/3速における加速のダイレクト感を向上し、走りの質を引き上げています。このエンジン自体としてもともと燃焼効率が優れていましたので、ユーロ5のための内部変更を行う必要性はほとんどありませんでした。CP2エンジン搭載モデルとして我々は先ごろYZF‐R7も発表したのですが、米国ではもともとMTのスポーツ性能の高さに目を付けサーキット用に改造して遊んでいるお客様も多かったんです。新型07でもそのスポーツする楽しさを感じてほしいですね。
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