トヨタ自動車が4輪レースのスーパー耐久で走らせる“水素カローラ”。この燃料となる水素の運搬に川崎重工が関与することは以前にもお伝えしたが、その水素カローラの3戦目となるスーパー耐久第5戦でのトヨタとカワサキの共同記者会見の場で、我々バイク乗りにとっては衝撃的な事実が明かされた。水しか排出しない夢の内燃機関“水素エンジン”の技術や開発において、トヨタと川崎重工の間で既に協業の検討が始まっているというのだ!
●文:ヤングマシン編集部・松田大樹 ●写真:編集部/トヨタ自動車
日本のトヨタ✕漢カワサキの最強コラボ?
9月18日に鈴鹿サーキットで開催されたトヨタとカワサキの共同記者会見には、トヨタ自動車の豊田章男社長、川崎重工の橋本康彦社長、トヨタのモータースポーツやスポーツカー開発を仕切るGAZOOレーシングカンパニーの佐藤恒治プレジデントが出席。先に発表した水素プロジェクトの再確認や、水素カローラの開発進捗に関する報告などが行われた。
「水素カローラプロジェクトの意義は、カーボンニュートラル時代において選択肢を広げる、ということに尽きる」と述べた豊田社長は、以前から自動車業界の喫緊の課題・カーボンニュートラルの達成には電動化が唯一絶対の解決策なのではなく、ハイブリッドや内燃機関など様々な選択肢を残し、全てをミックスさせて進めるべきだと主張しており、それが自動車立国・日本の雇用維持にもつながると繰り返し訴えている。
その選択肢のひとつが“水素”なわけだが「この水素カローラが1戦、1戦とレースを積み重ねるごとに参画企業、いわば“水素仲間”が続々と増えており、意思ある行動が仲間づくりに繋がっている、この動きにぜひ共感して欲しい」と述べた。
豊田社長はその後“モリゾウ選手”としてレースに出走するために退席したが、橋本社長と佐藤プレジデントを中心にメディアに対応する場が引き続き設けられた。ここで筆者は「川崎重工が水素を“運び”トヨタが“使う”という、現在の関係からさらに踏み込み、水素エンジン自体を両社が共同開発する可能性はないのか?」と質問。これを受けた橋本社長は「まだそういうフェイズではないが、水素社会の実現にはお互いが持つ技術を開示し、水素仲間を増やすことが極めて大事だと考えている。これはトヨタさんの考えとも合致するはず」と回答。
そして、これを受けた佐藤プレジデントが「全くその通りで、まだ共同開発と言える段階ではないものの、両社に検討チームを立ち上げて、なにか一緒にできることがないかという技術検討は既に始まっている」と発言。トヨタとカワサキの水素エンジンタッグが水面下で胎動していることを明らかにしたのだ。
4輪、船舶、2輪それぞれの検討が重要
さらに佐藤プレジデントは「スーパー耐久で4輪エンジンを鍛えることは大事だが、たとえば商用車での利用にはそれに応じた運転状態があるし、2輪なら(4輪よりも)小排気量で高回転型という特徴がある。使われ方や要求値が異なる様々なエンジンの検討を進めることが、水素エンジンの技術を手にするための非常に有効なパラメーターになる」とも発言。それは川崎重工とトヨタが組む大きなメリットだとも述べた。
川崎重工の水素戦略本部長・原田英一氏も「我々も水素ガスタービンをほぼ実用化し、船舶用やモーターサイクル用水素エンジンも開発を始めている。こうした色々なエンジンの技術を融合することは非常に重要。実際にモーターサイクル用エンジンの技術で大型産業用ガスエンジンの効率を高められた例もある」と実例を述べるなど、“水素エンジンの共同開発”に対してトヨタ、カワサキの両社から非常に前向きな発言の応酬があったことで、両社が高い熱量を持ち“やりたい!”と考えていることが伝わる会見となった。
実際には水素エンジンは開発がスタートしたばかりであり、実用化の目処が着くのは電動よりもさらに先との見立てが一般的だ。だが、あのトヨタとあのカワサキが、我々が愛してやまない“エンジン”で共同戦線を張るかもしれない・・・というニュースにはちょっと昂りを抑えられない。だってだって、県下一の秀才と、地元最強の番長がタッグを組むような話じゃないか!
ちなみにこの“水素カローラプロジェクト”はトヨタとカワサキだけでなく、様々な企業を巻き込んで、水素を「作り」「運び」「使う」が三位一体となった水素社会を実現するための壮大な実証実験でもある。その全貌は追ってお伝えする。
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