2017年の登場以来、年々右肩上がりに販売台数を増やしているヒット作がホンダ・レブル250だ。エンジンの心地よさや絵になるスタイル、なによりスキルを選ばない乗りやすさがSNSを通じて、日本中に拡散。新時代のスタンダードモデルになるのは間違いなしか!?
●文/写真:伊丹孝裕 ●写真:山下剛
「かっこいい」「乗りやすそう」「これ乗りたい」
高校に通う娘が最近小型ATの免許を取った。身長は150cmほどなので、結構低い。それゆえ、なにを選んでも足つきの問題は切実で、CT125ハンターカブは早々に断念。だからといってスーパーカブ110は好みではないらしく、結果的に両モデルの狭間にあるクロスカブ110が落としどころになった。近くのショップで程度のいい中古車が見つかり、少しずつ楽しんでいる。
とはいえ、クロスカブなら問題なしかといえば、案外そうでもない。ハンターカブほどではないにしろ、つま先立ちは免れないからだ。おっかなびっくり乗っている様を見て見ぬふりしつつ、一日でも早く操作と交通の流れに慣れる日を待っているところである。
さて、ホンダ「レブル250」のインプレッションを読むつもりでここに辿り着いてくださった方々。間違って違うページをクリックしちゃったわけではないので安心してほしい。このクロスカブのくだりは、レブル250の魅力を語る上で欠かせない、ちょっとした前ふりだ。
というのも、撮影用のレブル250を預かっていた時、それを見た娘が開口一番、「これ、いいね」と顔をほころばせた。シートに座らせてみたところ、かかとは数cm浮くものの充分に踏ん張りが効き、クロスカブにはない安心感と安定性がそこにあったようだ。引き起こしに力を要さなかったことも手伝って、いたく気に入っていた。そして「かっこいい」、「乗りやすそう」、「大きい免許(=普通自動2輪)」を取ったらこれに乗りたい」とも付け加えたのである。
つまるところ、レブル250が売れている理由のほとんどがその言葉に表れている。「どうぞ、またがってください」と優しく迎えてくれながらも、隆起した燃料タンクまわりには適度な風格があり、乗りやすさと力強さがバランス。その塩梅が実に見事なのだ。
古い世代のライダーは、バイクには高い技術が要ること、それを苦労しながら身に着けるのが正しい道だということ、乗りやすい最近のバイクにはその成分が足りないこと……といったあれこれを語りたがる。バイクに乗るという行為は特別なことであり、ベテランと呼ばれる年齢になればなるほど、先輩や先生としてなにか言わずにはいられない。若者からすれば心底「うっせえわ」に違いないが、そういうお節介を封じ込める勢いがレブル250のコミュニティにはある。
実際、レブル250のオーナー層は20~30代が多く、他のモデルと比較すると突出して女性ライダーが占める割合も多い。発売開始は2017年4月のことだが、当初想定されていた年間販売台数1500台は瞬く間に超え、以降は上方修正を繰り返しながら現在に至る。そして、2020年は9000台の見込みに対し、1万3000台に到達。近年の2輪業界では異例の大ヒットを記録し、今もシェアを拡大しているさなかだ。
シート高690mmで取りまわしも軽々
そんなレブル250には、バイクが持つ心地よさが凝縮されている。不安なくまたがれる低いシート、存在感のあるデザイン、まろやかな排気音、軽い操作系、比較的リーズナブルな価格などがそれだ。誰かの心に灯った「バイクに乗ってみたいな」という思い。それを邪魔する要素がなにもないところがいい。
シート高は690mmに過ぎず、乗り降りの際に妨げるものはなにもない。170kgの車重は特に軽い部類ではないが、エンジンを筆頭とする重量物は低い位置に収められ、ハンドルは高いところにセット。それゆえ取りまわしは軽々と行え、緊張感を強いられる場面は皆無と言っていい。もしもフラつくような場面があっても、手や足の力でリカバーすることも難しくない。
アイドリング時のエンジン音は小気味よく、リズミカルだ。そこからスロットルを開閉すると「バルルンッ、バルルンッ」とパルシブな音質に変化し、軽やかな走りを連想させる。もっとも、最大トルクは2.2kg-m/7750rpmゆえ、無防備にクラッチレバーを離してもグイグイと進む、というほど力強くはない。わずかに半クラッチの時間を要するものの、そこを越えれば、あとはイージーそのもの。フラットなトルクと適切なギヤ比のおかげで、街中でもオートマチック感覚で流すことができる。
ホンダらしいのは高回転の伸びもしっかり確保されているところで、高速道路での追い越し加速にも100km/h巡航にもストレスなく対応。息苦しさや振動の増大はほとんど伝わってくることがなく、ライダーに当たる風圧だけが増していく。
だからといって、そこで頑張り過ぎると上体を支えるための腕に負担が掛かる。握力が試されるほどではないが、ハンドルにしがみつくような恰好になるため、80~90km/hあたりが現実的な速度域だ。もしも快適性をプラスしたいのなら、メーターバイザーやカウルといった各種アクセサリーがある他、小柄なライダーならハンドルを交換して、少し手前にセットするといいかもしれない。
28度のキャスター角も110mmのトレール量も明らかに安定性重視で、見た目はご覧の通りのクルーザーとして仕立てられている。体感的にも、なんとなく乗っているとフロント周りが遠くに感じられるが、タイヤの接地感は高く、素直に路面をトレースしていく。
コーナーも不得手ではない。燃料タンクやステップのホールド性は意外なほどしっかりとしたものであり、下半身と車体との一体感に貢献。スポーツネイキッドを操っているつもりで身体を積極的に動かすと、旋回力がグッと高まることに気づく。好印象なのは、右へ左へと車体を大きく切り返しても、低シート高のおかげで目線の上下動が少なくて済むところだ。そのため、パタンと倒れてしまうような不安感がなく、バイクならではのコーナリングの醍醐味を手軽に堪能できるのである。
バイクの間口を広げてくれたという意味で、レブル250が果たした役割はとても大きい。その魅力を語る上でしばしば用いられる「風を感じる」という表現にぴったりの安楽さと鼓動感が標準装備され、このバイクに乗って、怖さを抱くライダーはほとんどいないだろう。
レブル250によって、まずはバイクが気持ちいい乗り物であることを知り、なにかを加えたくなったらカスタムを楽しんだり、レブル500や1100にステップアップして新しい扉を開く。そういうレールがしっかり用意されているところに、ホンダの巧みさが光る。そして、それはユーザーのニーズと成長に寄り添ったものに他ならない。
カブシリーズやヤマハSRとはまた違った立ち位置ながら、レブル250は今後末永くラインナップしてほしい。それによって、やがて日本発のスタンダードモデルになっていくはずだ。
HONDA REBEL 250[2021 model]
【HONDA REBEL 250[2021 model]】主要諸元■全長2205 全幅820 全高1090 軸距1490 シート高690(各mm) 車重170kg[171kg](装備)■水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ 249cc 26ps/9500rpm 2.2kg-m/7750rpm 変速機6段 燃料タンク容量11L■タイヤサイズF=130/90-16 R=150/80-16 ●価格:59万9500円[63万8000円] ●色:青、灰、茶、[灰] ※[ ]内はSエディション
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