カワサキ ニンジャZX-10R 丸山浩試乗インプレ【乗りやすく高バランス。SBK7連覇への最適解】

スーパーバイク世界選手権の絶対王者・ジョナサン・レイが駆るカワサキ ニンジャZX-10RR。そのベース&ホモロゲーションマシンの最新バージョンが発進! 異形にして熟成された、勝つべくして生まれたマシンを徹底検証。マシンディテールの写真解説に続き、本記事ではヤングマシンメインテスター・丸山浩氏によるサーキット試乗インプレッションと、ZX-10R開発陣のインタビューをお届けする。


●文:丸山 浩/伊藤康司●インタビューまとめ:沼尾宏明 ●写真:山下博央/山内潤也 ●取材協力: カワサキ

【テスター:丸山 浩】「とにかく乗りやすいスーパースポーツ」と従来型ニンジャZX-10Rを評するヤングマシンメインテスター。ガバリと開口した新10Rのダクトに負けじと、気合の咆哮で試乗に挑む!

ギミックに頼らず従順さを磨き抜く

カワサキ ニンジャZX-10Rを試乗する場所は、愛知県のスパ西浦モーターパーク。全長約1.5kmのテクニカルなコースだ。サーキットアタックなのでライディングモードはフルパワーの”SPORT”。タイヤはOEMのブリヂストンRSで、空気圧も市販状態のまま。タイヤウォーマーもなかったのだが、1〜2周しただけで安心感が出てきたことにまず驚いた。

そこから攻め込んでいくと、すべてのバランスがコンパクトにまとまっており、マシン全体が小さく感じられるといった印象。マスの集中化もあると思うが、スローペースからどんどん速度を上げていっても前後の荷重配分が片寄らず、ずっと車体の真ん中に掛かっている。ハードにプッシュしてフロント旋回しても前輪だけに頼ることなく、次の瞬間にはしっかりとリヤにもトラクション。前輪荷重/後輪荷重とコーナリングGを意識して当てなくても、どんなコーナーでも両輪を使ってしっかりと曲がってくれる印象だ。

これにエンジンの従順なアクセレーションが加わる。スポーツモードではあるけれど、じんわり付いてくるという感じで過激な方向ではない。だが、これがいい。スパ西浦のヘアピンはとても曲がりにくく、うっかりオーバースピードで入った場合、曲がらない、開けられないと思いつつも、仕方なく開けてみるとドンとパワーが出てはらんでしまうパターンが多いのだが、新型の10Rならうまくパワーを制御してくれるため、旋回力を損なうことなく、ススーっと前に進んでくれるのだ。パワーをゴリゴリに出して勝負するのではなく、スムーズなスロットルレスポンスによる開けやすさを重視していて、これが先に述べた前後荷重配分による乗りやすさにもつながっている。

ブレーキも秀逸だ。ブレンボのキャリパー&マスターシリンダーといいものが付いているが、街乗りの感覚で柔らかく当てたときからも十分な減速力を発生する。それもカクンと利くのではなく、スッと利き始めたところからフロントフォークの減衰力がググっと立ち上がり、非常にコントロール性が高いのが印象的だ。ハードブレーキも完璧の域。フォークが奥まで縮み切っても、そこでギュギュっと最後のわずかなストロークでもうひと踏ん張り。このためリヤがホッピングせずに強烈な減速力を発揮する。ブレーキ本体の制動力とコントロール性に加え、足まわりの良さがあってのものだ。

このサスセッティングの良さによって、最終コーナーからストレートへの立ち上がりにかけては、リヤタイヤがグリップを失いながらもスロットルを開け続けて車体が暴れても、2、3回の揺り戻しで収束していく。トラクションコントロールも極めて実戦的で、意図的にスライドさせてみても、常に前へ前へとマシンを進めようとする方向に働いてくれる。従来型と同じく、安定した結果が残せるハンドリングを軸に、電子制御がさらなるタイムアタックを手助けしてくれる、というのが新型の印象。乗りやすいから箱根あたりのワインディングでも存分に楽しめそうだ。

ホンダのCBR1000RR-Rのようなサウンドパフォーマンスや、存在をこれでもかと主張するような外付けウイングレットはないが、こいつはあくまでも熟成されたトータルバランスで勝負するマシン。完成度の高さでSBK7連覇を狙っている。

ZX−10R開発陣インタビュー:速さの追求はビギナーにも効能あり

(左から) ●開発リーダー:西山 隆史氏[川崎重工株式会社 MC&Eカンパニー 技術本部 第二設計部 第一課] ●車体設計:山本智氏[同第三課] ●エンジン設計:阪口保彦氏[同第一設計部 第一課] ●開発ライダー: 苅田庄平氏[株式会社ケイテック 実験部 製品評価課]

新型ZX-10Rにおける最大のテーマは”空力”だと言う。「’15年からSBKでチャンピオンを奪ってきた車体とエンジンのパッケージは完成形に近い。あと足りないものを考えた時に、残されたのが空力でした。ウイングの効果をデザインと融合させ、初期から開発を重ねました」

ウイングの開発は、モトGPでウイングが採用された4年ほど前から開始。「SBKでウイングのテスト走行を実施したところ、結果が良かった」ため、市販車にもフィードバックした。

当初は、ニンジャH2Rベースのウイングを装着し、これを元に風洞試験などのテストを行い、よりレースに特化した現在の形状となった。「減速比なども変更しており、外装のみによる効果はデータとしてはありませんが、最高速付近の伸び感や、旋回中のフロントの接地感、高速安定性が向上。SBKレーサーは、ロガーで脱出速度が上がったことが確認できています。

ライバルと比べて10Rの強みは、従来から変わらず”ブレーキの安定性”に尽きます。ブレーキ関連は今回ほぼ変更していないぐらい自信のある部分。これに空力がプラスされ、トップレベルの実力に持って行けたと自負しています」

さらに車体は、レースからフィードバックしたディメンジョン変更により、「一段とニュートラルなハンドリング特性になった」と話す。しかしながら車体の刷新は考えなかったそうだ。「なぜかと言うと、SBKで勝ち続けているからです。そんな車体を変えるのは、やはりリスクを伴います。ライバルであるドゥカティのS.レディングも『カワサキは勝っているから変える必要がない』と言ってくれました(笑)」

エンジンでは、空冷オイルクーラーの採用で、油温が大幅に低下。特にサーキットで効果を発揮する。そしてZX-10RRでは高回転化が進んだ。「10RRは、自由に使える回転幅が増え、サーキットでの走行に余裕が出ました。また、10RRの軽量ピストンは吹け上がりが軽やか。全域でシャープな回転フィールを発揮し、トルクもフラットで扱いやすい。RRながら開けやすい特性です。STDとの違いはどんなライダーでも体感できるはずです。STDとの100万円の価格差は、勝利を追求した結果。レイが勝ち続けるにはこのスペックが必要だと考えています」

このようにサーキットでの戦闘力を上げたが、同時にビギナーにも役立つ結果となった。「10Rのターゲット層は、サーキットをガンガン走る人と同程度に、所有することを喜んでいる人やツーリングで使う人が多い。たとえば、ジョナサン・レイに憧れて購入した人など、あまりスポーティな走りをしない方も購入層です。以前から10Rは『速いバイクは結果的に乗りやすい』とアピールしてきましたが、新型は『しっかりフロント荷重しなくても曲がれる、軽くなった』との声が多く、一段と乗りやすい。ハンドルオフセットが遠くなり、Uターンもラクになりました」

さらに、公道でも空力向上の恩恵にあずかれる。「カウルがライダーをうまく包んでくれます。カウル形状も大きくなり、サーキットで伏せた際に、より空力を向上するためシート形状や硬さも変更しました。結果としてツーリングなどで長時間乗っても疲れにくくなりました」

なお、従来型にあった電子制御サスペンション搭載のSEは現時点で販売予定なしとのこと。そして、公道向けの装備としてクルーズコントロールも話題になっている。「今回クルコンを採用した理由は、想定ユーザー層に役立つからです。ツーリングに10Rを使う人に便利ですし、価値として提供できる。また、サーキットまで自走する人にとって、帰りに疲れていてもクルコンでラクに走れます」

新型は、速い=乗りやすいという従来のコンセプトを促進させ、より多様なライダーを満足させる、希有なスーパースポーツになったと言えそうだ。


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