●まとめ:田宮徹 ●写真:真弓悟史 ●取材協力:ホンダ
古めかしい振動はなく、あるのは楽しい鼓動感のみ
「これまで人気があった他社のさまざまなレトロ系モデルを徹底的に研究し既存のライダーに愛されてきた理由を探る一方で、これからバイクに乗る若い人たちにとって『それも味だよ』なんて曖昧な言葉では見過ごせないネガティブ要素を徹底的に排除した…という感じ。つまり、レトロだけど古臭いわけじゃない!」
これが今回GB350をライディングしてみてまず思ったことだ。
車格については、単気筒348ccということを考えれば意外に大きく、600ccクラスやちょっと前のナナハンクラスの雰囲気。堂々としたルックスだ。
その分だけシートもちょっぴり高めで(シート高800mm)、またがったときに前後サスペンションの沈み込みが少ないことやサイドカバーが内腿に当たることなどから、足着きが決して良いわけではないのだが、それでも身長168cmで両足の母趾球までは十分に接地するから、悪いというレベルではない。
ライディングポジションは、ハンドルグリップ位置がかなり手前にある印象。結果的に上半身は直立不動に近い姿勢となる。
このマシンの”キモ”となるのは、もちろん新開発された空冷単気筒エンジンだ。シリンダーが直立した、いわゆるバーチカルシングル。この形式は、それこそ古くから受け継がれ続けてきたものだが、GB350のエンジンはレトロだけどイマドキでもある。
たとえば、発進の瞬間にまず感じられるクラッチレバー操作荷重の軽さ。アシストスリッパークラッチのおかげで、非力な女性でもきっと扱いやすい。ちなみに、ギヤも軽いタッチで入る。
超ロングストロークのエンジンは、いわゆるパルス感あるいは鼓動感がとにかく気持ちいい。でも、昔のバイクみたいに振動があるわけじゃない。低回転域からスロットルを開けていくと、「スタタタタ……」とか「パンパンパン……」という、雑味がなく歯切れのよいパルスがライダーを包み込む。ひとつずつの爆発(正しくは燃焼)を、肌で感じられるエンジンだ。
タコメーター非装備のため何回転という表現はできないが、なるべく高いギヤで低い回転から多めにスロットルを開ける方が楽しめる。速度域では40〜60km/hがとくにオススメ。それも、一定速度で流しているときよりも加減速の生じる時の方が、さまざまな質のパルスを楽しめて心地良い。
最高出力は20psとはいえ、高速道路では100km/h巡航も十分にこなす。とはいえ、やっぱりそれよりもはるかに快感なのは60km/h以下。一般道だけを走りつなぎ、のんびりペースで旅をする。そんな使い方がもっとも適したエンジンだし、それによってバイクに乗る楽しさの本質に触れることもできる。この長所は、これからバイクに乗る若い人たちにとっても大きなプラスとなるだろう。まったくトバさなくても、スロットルを開け閉めする気持ち良さが得られる。そういう魅力があるエンジンだ。
安定感あるハンドリングが、旅やタンデムに効く!
続いてコーナリングだが、こちらはベタッと車体が寝るイメージ。フロント19インチタイヤの特性から、バンクした瞬間に前輪がクイックに向きを変えるような旋回力を生むという感覚はない。バンクするところまでは比較的早いが、それが旋回につながるまでにワンテンポある。ただしコレ、だから悪いというわけではない!
ツーリング先で出会ったワインディングで、右へ左へとゆったり車体を寝かせながら走るのは、これまた心地いい。そして、ベタッと寝たところでも車体は安定していて、前輪がセルフステアでイン側に切れてくることもないので、コーナリング中にギャップを通貨した場合でも安心感がある。
ちなみにこのコーナリング特性には、大径の前輪だけでなく120mmという多めのトレール量や1440mmに設定されたロングホイールベースも効いているのだが、おかげでGB350は直進安定性がすこぶる良い。停車状態からちょっと進んだ瞬間に、ふらつくことなくすぐにフロントタイヤが直進方向へ。この安定感が、ロングツーリング時には疲労軽減、初心者にとっては大きな安心感につながるはずだ。
そのぶんUターン時のクイックさはちょっぴり欠けるが、この時も最初に車体がクッと寝て、その先で安定して車体が向きを変える。
このバイクのベースとなったハイネスCB350が製造販売されているインドでは(国内仕様のGB350は熊本製作所で最終組み立て)、ダートを走る機会も多いはず。日本では、このバイクで未舗装路を走ることはまずないだろうが、もしもそういうシーンに遭遇しても、安定感の高さはプラスとして寄与する。ただし、前後サスはややハードにセットされている。
ちなみに、タンデムライディングもなかなか快適。標準装備のグラブバーはタンデムシートに座った時に掴みやすい。どうせなら前後が完全にフラットなシート形状でも似合ったのではないかと思うが、とはいえ前後シートの段差は低く、ライダーとパッセンジャーの距離が適度で、後席に座ったときの不安はない。ライダー側からすると、後ろに人を乗せた場合でもハンドリングに安定感があり、結果的に疲れにくいというのが嬉しい!
車体はあくまでもシンプル。主役はエンジンのパルス感
何度も触れるが、GB350の主役は雑味のないパルス感が堪能できるエンジン。まぁそのエンジンもそうなのだが、車体自体も極めてシンプルな構成だ。
とはいえ、現代のバイクとして必要な性能と機能は省くことなく盛り込まれていて、昔のバイクなんて知らない若い人たちが乗っても、「なんだコレ??」なんてことにはまずならない。
たとえば、前後ブレーキはディスク式で十分なストッピングパワー。もちろんABSも付いている。メーターのギヤポジションインジケーターなんていうのも、現代のバイクに慣れ親しんだ世代にとっては必需品だろう。
一方で、驚きのレトロ装備もある。それは、シーソー式のチェンジペダル。クルーザーやビジネスバイクではないオンロード車にこれが使われることは珍しいが、慣れるとこれもなかなかいい。シフトアップ時に、ペダルを足の甲で持ち上げるのではなくカカトで踏む操作も可能なので、ブーツやシューズの甲部が汚れたりキズついたりしない。ライディング用ではないフットウエアでも気兼ねなく乗れることで、より日常的にバイクを活用できそうだ。
我々の年代からすると、GB350というのは昔からあるパッケージのモデル。何度も繰り返してきた歴史という風に見ることもできるのだけれど、一方で現代の技術を導入しながらホンダがつくったシングルスポーツの最新形態と考えることもできる。ベテランが乗っても楽しめる要素は多い。
しかしそれよりも、若い世代がこのGB350を見て、実際に乗って、バイクのカッコ良さや楽しさを知ってくれることのほうが本当は大事。抑えられた価格設定やU39割など、そのための仕掛けも抜かりない。
旅から日常の足まで、ソロでもタンデムでも幅広い方向で楽しめて、カスタムベースにも良さそう。シンプルだけど”単車”としての魅力が詰まっている。GB350をきっかけに新たなバイク乗りが多く誕生して、長くバイクを楽しんでくれることを熱望する!!
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