スズキ「ハヤブサ」は’08年型で初のビッグチェンジを受け、第2世代へ飛躍。エンジンは1299→1340ccに増大し、175→197psと大幅にパワーアップした。’07年10月15日、国内初の公道試乗をヤングマシン本誌が敢行。新旧型ならびに最大のライバル・カワサキZZR1400との比較試乗の模様を当時の掲載記事から抜粋してお届けする。テスターはヤングマシンおなじみの丸山浩氏だ。
●まとめ:沼尾宏明
再録・2代目ハヤブサ vs ライバルZZR1400(YM’07年12月号より)
※以降の記事内容は、『ヤングマシン』本誌’07年12月号掲載記事を元に再構成されたものです。表現は基本的に掲載当時のままとしておりますのでご了承ください。
インプレ街乗り編:2代目は大パワーながら従順。とにかく扱いやすい
遠目で見た時の印象は新旧ともにあまり違いはないが、細かく見るとディテールの質感が上がっており、オリジナリティでもある”生物っぽさ”も高まっている。ハヤブサらしさの延長線上にありながら、しっかりと進化していて、好感が持てる。
またがって、サイドスタンドを起こす時には少々重さを感じるが、足着き性はいい。新旧でシート高は同じだが、サスペンションセッティングかシート形状が影響していると思われる。ポジションはほとんど変化がない。”スーパースポーツでもなくツアラーでもない”という”半カッ飛び型メガスポーツ”に最適で、相変わらず街乗りするには前傾が強く感じる。シートは尻の接地面が大きく、クッション性もあり、乗り心地は快適だ。
スムーズなつながりのクラッチを操作してスルスルと走り出すと、197psもあるのに、ギクシャク感や気難しさがまったくない。2000〜4000rpmからすでに十分なパワーを発揮するため、街乗りも非常にラクだ。しかも全回転域で唐突さが皆無なので、街乗りでも意外と高回転域まで使える。非常にレンジが広くフレキシブルなエンジンで、今のギヤが何速かをまったく気にしないで済むのだ。
ブレーキの初期タッチもマイルドだし、見た目はド迫力のわりに、ハンドリングも含めあらゆる操作系と挙動が軽快かつ滑らかだ。これは細部まで徹底的に煮詰められた証拠だろう。街乗りでの印象は”よくしつけられたモンスター”。とにかく扱いやすい。
インプレ高速走行編:ジェントルな加速。ツアラー寄りに進化
街乗りでは十分に扱いやすくしつけられていたパワーを、存分に解き放てる高速道路。新型は確実に速くなっている! 日常的にもっとも多用する中間領域のトルクが分厚くなっているので、追い越し/追い抜きも右手をひと捻りするだけ。滑らかに素早く加速する。
加速感も決して暴力的ではなく、むしろジェントル。パワー感が剥き出しで回転上昇が早い旧型のように、ヤバイ感じや扱い切れなさそうな感覚はまったくない。あくまでも右手をひねった分だけ加速する。静かになったエンジン音/排気音と相まって、ひたすらスポーティーだった従来型と比べると若干ツアラー方向にシフトしたようだ。
僕個人としては、この方向性は正解だと思う。スーパースポーツに近い圧倒的なスポーツ性能がウリだった初代ハヤブサだが、スーパースポーツのように峠やサーキットを激攻めする人は少ない。実際にはスポーツツアラー的な用途の方が多いのが現実だ。ツアラーとしてのパフォーマンスを高めてきた新型は、ユーザーニーズに合った正しい方向に進化をしている。
サスペンションは初期からしなやかに動く。車体の硬さでガッチリとパワーを受け止めるハードさはなく、挙動は穏やかでソフト。尋常ではない速度域でも安定感は高く、快適性と直進安定性のバランスはいい。先代よりショックをよく吸収してくれるので、ひたすら直進を続けるなら2代目の方が快適だ。乗車姿勢は伏せなくてもラク、風切り音も静かで人馬一体感が高い。
インプレワインディング編:峠道で光るS‐DMS。腕を選ばず楽しめる
197psという凄まじいエンジンスペックにワクワクしながらワインディングを走ってみると、街乗り/高速道路と同様に、まったく危なげがない。エンジンとシャーシのバランスが非常に高いポイントで取られており、速いペースでも不安感は皆無だ。全体的に走りのポテンシャルが高まっているから、何かが突出しているヤバさがない。モデルチェンジ直後の未完の感じも皆無で、すでに高い完成度を持っている。
ここでも高速道路と同じように、ツアラー的な性格が強まっていると感じた。バンキングスピードが早い先代に対し、直進安定性が強まっており、従来型よりホイールベースが長くなっているかと思ったほどだ。実際には数値上は同じなのだが、エンジントルクが増大したことでリヤサスの入りが良くなり、相対的にフロントが高く、キャスターが寝ている状態となって直進安定性が高まっているようだ。このあたりのキャラクターはサスペンションセッティングでも好みに合わせられそうだ。
エンジンのフレキシブルさはまさに驚異的! 回転数をまったく選ばず、どこからでもマシンを前進させるので、ひとつぐらいギヤがズレても気にする必要がない。ただ、低速トルクの分厚さを生かすためにも、ひとつ高いギヤを使った方がサスペンションがムダに動かずスムーズだ。
エンジンの出力特性を切り換えられるS‐DMSはワインディングでこそ有効。その日の精神状態や路面状況に合わせてフルパワー197psのA、120ps程度のCまで選べるとあって、もう至れり尽くせり。’07はハイパワーモデルで峠をガンガン攻めたい人向きだが、’08は峠もツーリングもオールマイティに楽しみたい人にベストだろう。
ライバル対決:ZZR1400より近距離型。スポーティーさが際立つ
ライバルのカワサキZZR1400は、’06年に登場したカワサキの新旗艦。ハヤブサを上回る1352cc直4を積み、フルパワー190ps(試乗した’08マレーシア仕様は180ps)を発生する。新旧ハヤブサのどちらと比べてもツアラー色が強く、純粋な速さよりも快適性/疲れにくさを追い求めている。
ZZR1400のエンジンは滑らかな特性で、ジェントルになったハヤブサよりさらに振動が少ない。サスペンション設定に関しても、一段とソフトな設定で、乗り心地が良好だ。長距離の高速移動では、常にキビキビしているハヤブサより、バイクに急かされないZZR1400が向いている。
一方、峠道ではハヤブサの俊敏さが光る。高回転型のZZR1400はスピードが乗り過ぎる傾向。その割に、サスがハード設定のハヤブサに対しソフトなので、抑えた走りが強いられる。ライディングポジションに関しても、ハヤブサの方が前傾しており、その分スポーツ走行向きだ。
どちらも高速カットビには違いはないが、ZZR1400は長距離向き。ハヤブサは近距離型と言えるだろう。
’08 ハヤブサ1300の公道試乗インプレッションまとめ
- ポジション:前傾がややキツく、長時間の街乗りは少々ツラいが、その分高速道路ではしっかりと抑えが効く。峠でも違和感がないスポーティーさだが、ちょっと大柄。
- エンジン性能:現時点でのメガスポーツ系最強エンジン。どのステージでも最高に速く、なおかつ徹底的に扱いやすい。ネガティブさやウィークポイントが見当たらない。
- ハンドリング:満点を付けても申し分ないほどの仕上がりだが、従来型と比べるとスポーツ性能を抑え気味なので、峠のみあえて1点減点。単体では申し分ない走りだ。
- ブレーキ性能:扱いやすく、握り込みの量でコントロールしやすい特性。高速道路をハイペースでカッ飛ぶには、もう少し初期から効いてくれると安心感が高まる。
- メカ&装備:走りの装備に関しては、もはやスーパースポーツと同等。これ以上は望めないレベルだ。さらにS-DMSが採用されて文句なし。欲を言えばABSも欲しい。
※総合評価
トータルバランスが高く、非常に出来がいい。あまりにも抜け目がなく、幅広い層のライダーに安心して勧められる。今後しばらくは独壇場が続きそうだ。
※ヤングマシン’07年12月号より再構成
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