TEXT:Go TAKAHASHI
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第55回は、“抑えることができる”メンタルと、バイクに乗る時間について。
ホンダ勢トップのマルク・マルケスに唸る
モトGP第3戦ポルトガルGPは、やはりマルク・マルケスの復活に注目が集まりましたね。僕も「どうなるのかな……」と気になっていました。本人は「無理をせずに走る」とコメントしてレースウィークを迎えましたが、予選は6番手、そして決勝は7位。「もしかしたら復帰戦でいきなり勝ってしまうんじゃないか?」と思わせるだけの、さすがの走りでした。
何しろホンダ勢でトップのリザルトですから、これは本当にすごいことです。というのは、体にメスを入れるとやはり完璧には感覚が戻らないから。僕も鎖骨骨折の手術後、いまだに鎖骨あたりに違和感があります。しかもマルケスはほぼ1年間モトGPマシンに乗れなかったうえに、舞台は彼にとって初コースとなるポルティマオ。難しい条件が重なりながらのあの好成績は、メンタルの強さに他ならないと思います。
もちろんスキルは必要です。でも、モトGPまで上がってきているライダーは、みんな十分すぎるだけのスキルをすでに持っている。全員が超一流です。その中で差がつくのは、やはりメンタル面の強さでしょう。マルケスには「またケガをしたらどうしよう」という怖さもあったはずです。転倒しそうなシーンもありましたしね。
きっとマルケスの中では抑えていたはずです。でも逆に、抑えることができるのもすごい。そして決勝ではキッチリ結果を残すのは、さすがチャンピオンの資質を持つライダーだな、と思いました。結局はレースでのリザルトでしかチャンピオンシップポイントは得られません。ポルトガルGPでマルケスがもぎ取った9点には、大きな意味と価値があります。
優勝したのはヤマハのファビオ・クアルタラロ。タイヤチョイスがうまく行ったのか、セッティングが決まったのか、トップに立ってからのペースが速く、逃げ切りましたね。クアルタラロの勝ちパターンだったと思います。僕が注目したのは全体のペースです。一見すると淡々としたレースでしたが、2位以下のライダーもみんな速かった。地味だったかもしれませんが、内容的にはかなりハイレベルな展開でした。3位に入ったジョアン・ミルも、どんどん強さを身に付けていますね。チャンピオンを獲ったという自信がいいバネになっています。
モト2では小椋藍くんが予選4番手を獲得。決勝も期待していましたが、5周目に転倒、リタイヤ……。残念でしたが、着実に上位進出していて、次戦以降も楽しみですね。モト3の佐々木歩夢くんも、昨シーズンより元気のいい走りを見せています。どこかのレースでポンと表彰台に乗ってくれれば、さらに勢いに乗るでしょう。開幕戦でいきなり2位表彰台に立った新人のペドロ・アコスタが、第2戦、第3戦と連勝しました。早くも「第2のマルケス」と呼ばれていますが、さすがスペイン、選手層が厚い!
気の合う仲間とワイワイガヤガヤ……
聞くところによると、日本人ライダーとスペイン人ライダーとでは、バイクに乗る時間がケタ違いなんだそうです。日本人ライダーに対して、スペイン人ライダーは何十倍も長くバイクに乗っている、とのこと。やっぱりライダーは、バイクに乗れば乗るほど感覚を研ぎ澄ますことができます。何でもいいからとにかくたくさんバイクに乗って、体を、目を、バイクに慣らすこと。これがレースで勝つためにとても大事です。
そういえば僕もここのところ、バイクに乗りまくっています。レースで勝とうと思っているわけじゃないのに(笑)。日本に来て自宅隔離期間が明けた4月中旬からというもの、鈴鹿ツインサーキットでの走行会イベント、淡路島ツーリング、モトクロス、トライアル、雑誌主催の走行会、林道ツーリング、雑誌のロケ、別の雑誌主催の走行会、そして再びトライアル、自分のスクールと、ひたすらバイク三昧。乗るのが楽しくて仕方ない日々です。
淡路島へは初めて行きましたが、とてもきれいな所ですね! 海沿いの細道など本当に素晴らしくて、山、道、そして海しかない雰囲気は、子供の頃に住んでいた北海道を思い出しました。釣れそうなポイントもたくさんありましたよ(笑)。とてものどかで良かったです。今度は四国にも渡ってみたいですね。
モトクロスをしたのは、20数年ぶり! 行くまでは内心、「装具が汚れるからイヤだなあ」なんて思ってましたが、いざ走り始めるとこれまた面白い! ただ、ジャンプは飛びません。オジサンの趣味なので、ケガするわけに行きませんからね。最初はなかなかうまく土の上を走れませんでしたが、いい先生についてもらってシートのどこに座ればトラクションがかかるか教えてもらい、一気に楽しくなりました。このコラムでも再三繰り返していますが、いい先生に教わることが上達の近道! 改めてそのことを体験しました。
トライアルもいい先生に教わっていますが、上達しているのやら、していないのやら……(笑)。よく分かりませんが、オジサンの趣味なので、それでいいんです。うまくなるのも大事ですが、あまり目玉を三角にし過ぎず、気の合う仲間たちとワイワイガヤガヤやるのが楽しいんです。それなりにコースを作ったりしていますが、ほとんどおしゃべり(笑)。これでも楽しさのうちです。
今の僕にとってバイクに乗ることは楽しい趣味(……ありがたいことにそれが仕事にもなっていますが)。とにかくケガだけは避けたいんです。まわりの仲間たちもそれなりに立場のある人たちなので、やっぱりケガはしてほしくない。モトクロスならジャンプは飛ばない、トライアルならステアケースにチャレンジしない(笑)。オジサンの趣味は、そこそこのレベルでいいから長く楽しむのが1番です。
最近うれしいのは、走行会イベントなどでいろんな方に声をかけてもらえるようになったこと。ライディングについて質問される機会が多くなってきて、「現役時代の怖さが少し薄れてきたのかな(笑)」と、内心大喜びしています。僕はバイクが大好きですし、バイクのことを話すのも大好き。どこかのサーキットなどで見かけた時は、ぜひ遠慮せずに声をかけてくださいね!
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