’35年から東京都内で電動またはハイブリッドバイクしか買えなくなる…。この方針に異議を唱えるヤングマシンでは、本丸の東京都に直接取材を敢行。新事実が判明したのでお伝えしたい。
パフォーマンス優先? 現状の把握はこれから
「’35年までに都内で純ガソリンエンジンの新車バイク販売をゼロにする」
’20年12月に東京都の小池百合子都知事が発表し、大きな波紋を呼んだ”電動化”方針。前回のレポートでは、このムチャな方針に関して問題点を列挙した。
東京都方針まとめ
●4輪は’30年まで、2輪は’35年までに都内で純ガソリン車の新車販売禁止を求める
●罰則規定は設けない
●電動車、ハイブリッド車(プラグイン含む)は販売可
最大の問題は、バイクとクルマを安易に同一視している点。現在の技術では、航続距離を稼ぐために巨大で重いバッテリーを車両へ積む必要がある。しかし、クルマに比べて搭載スペースが少なく、重量増によるネガティブ要素が大きいバイクの場合、小型バッテリーしか積めず、航続距離が短い。また、庶民の足として低価格が魅力であるのに、価格もさらに跳ね上がってしまう。
エンジンに電動モーターを組み合わせた”ハイブリッド(HV)”は販売可能だが、約170車種ある国産バイクの現行ラインナップで一般層が買える電動およびHVバイクは2車種のみ。モーターで簡易的なアシストを行う”マイルドHV”が認められるかは不明だが、大変更は必至。現行のバイクはほぼすべて絶滅してしまう。さらにインフラ不足や環境への効果にも疑問を呈した。
拙速な都に対し、政府はバイクに慎重な方針! 「都内でのガソリン車の新車販売について、乗用車は'30年まで、バイクは'35年までにゼロにすることを目指す」 '20年12月8日、東京都の小池都知事が都議会[…]
そして今回、2輪4輪の電動化を推める東京都環境局の次世代エネルギー推進課に電話取材を試みた。
そもそも都は、’19年から電動化への取り組みを開始しており、「’30年までに都内の乗用車新車販売台数に占めるZEV(ゼロエミッションビークル)の割合を50%に、’50年までに都内で走る自動車はすべてZEV化する」との目標を発表していた。ところが今回、唐突に「4輪は’30年までに100%」と前倒しに。新たに2輪についても期限が明確化された。その理由を尋ねると、「バイクも車両のひとつであり、知事は2輪への思いが深い。なかなか2輪まで目標を掲げる自治体がない中、都が率先した形になった」という。
都知事は、バイク通勤していた経験があり、自民党時代にオートバイ議員連盟に所属するなど、バイクとの関わりが実は深い。ならば、さぞ現状への認識は詳しいと思いきや…、「メーカーと意見交換の場はあったが、まだ現状把握をしている段階。今後ヒアリングを重ね、関係者と共有しながら2輪4輪と合わせてロードマップを検討していきたい」と担当者は話す。
つまり、実現性を差し置いて、都知事の理想だけが先行した”見切り発車”の側面が強いのではないか。
「おっしゃる通り、先に知事が発言されて、今後どうしていこうかと取り組んでいる面もある。まだまだ議論し尽くされていない部分もあるかと思う」
世間の反応を見ながら「現実的な所で落と込む場合もある」とし、「’35年」という期限の変更に関しては「現段階ではわからない」との回答だった。
なお、マイルドHVも販売可能になるか等の詳細は、議論の最中とのこと。また、純ガソリン車を新車販売した場合の罰則に関しては「予定していない」。現時点では何ら強制力はないが、製品を企画&製造するメーカーの経営陣が都の方針に影響され、電動化に舵を切るケースはありえるだろう。
さらに’20年末、政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に関しても聞いてみた。こちらは、’30年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%を目指すが、「現状でバイクのEV化をクルマと同じ歩調で語るのは難しい」(経済産業省担当者談)とし、バイクは期限を設けず脱炭素化を進めていくものだ。
都でも政府戦略は把握しているが、「独自の方針を採る。今回の政策は、都知事がよく表現される”意欲的な目標”。実現可能かどうかよりも意欲的に目指すところとなる」という。
しかし冒頭のように様々な問題点があり、バイクをクルマのように脱炭素化するのは難しい。その旨を説明したところ、「ご意見も踏まえながら検討していきたい」とのことだった。
理想も大事だが、生活の足であり趣味の道具でもあるバイクを乱暴にすべて「電動化!」とする都方針にはやはり賛同できない。少なくともコミューターは除外するなど適材適所で行うべき。本当に都知事が”バイク好き”なら、理想ではなく現実を見てほしい。
早くも’21年度の東京都予算でバイク脱炭素化の動きが!
今後のロードマップは未定ながら、東京都の’21年度予算案には「バイクの電動化」に関する予算が早くも計上されている! 都では、令和3年度を”非ガソリン化元年”と位置付け、2輪4輪のZEV(ゼロエミッションビークル)普及促進に116億円(前年から31億円増)を盛り込む。EVバイクの購入補助の拡充とバッテリーシェア導入などに5.6億円をかけ、普及のための大規模イベントに関する調査も行う。こうした予算は次年度以降も加速しそうだ。
EVバイク導入促進事業:5億円
都では今までも電動バイクの購入補助金を給付してきたが、これを増額し、ガソリン車と同等の価格で買えるようにする。原付二種相当は36万→48万円に増加(出力によって増減あり)。上限台数も1000台以上増やす。
- ’20年度:補助額36万円/補助台数80台
- ’21年度:補助額48万円/補助台数1250台
ZEV庁有車の導入:3億9200万円(前年3億4200万円)
庁有車等を更新時にZEVや電動バイクに切り替える。現在88台のZEV庁有車があり、さらに97台増やす。このほかにも「メーカーのZEV開発インセンティブの構築に向けた調査費」(0.3億円)なども計上。
ZEV普及のための大規模ベントの調査/検討:1億8000万円(前年1000万円)
「ZEV普及のムーブメントを起こしていくための大規模イベントについて調査/検討を行う」との説明。やはり実態ではなく、理想のために機運を盛り上げたい思惑がありそう。これに1.8億円の血税が費やされる。
EVバイクバッテリーシェア推進事業:6400万円(前年–円)
新たに電動バイクのバッテリーシェアリングに関する実証事業を行う。4エリアに5か所ずつステーションを設置。共有バッテリーを各10個ほど置き、自由に返却できる。運用方法やエリアの適正配置などの検証が目的だ。
国内4メーカーも加入する自工会はカーボンニュートラルに賛成も…
国産2輪4輪メーカーを会員とする日本自動車工業会に、都方針に関する見解を尋ねたところ、メールで回答を得ることができた。「カーボンニュートラル化についての基本方針」は、自工会全体としては下記のように、’50年のカーボンニュートラルを目指し、「自動車業界を挙げて全力でチャレンジする」としながら、「バイクの電動化には航続距離/充電時間といった課題があると認識している」との回答。
なお、「都方針と政府戦略を受けて、今後の事業計画変更の予定」や「現行バイクの電動化は技術的に可能か」などの質問に関しては、「個社の戦略/技術に係る内容についての回答は控えたい」とのことだった。
日本自動車工業会の見解
●総理方針に貢献するため、自動車業界を挙げて全力でチャレンジする
●2050年カーボンニュートラルは、直線的達成が見通せない、大変難しいチャレンジ。欧米中と同様の政策的・財政的措置等の支援が必要と考える
●自工会会員各社も研究開発投資(年3兆円)等で最大限努力しているが、研究開発及び設備投資支援の維持拡充、欧米中並みの脱炭素エネルギーインフラ整備(電源の脱炭素化+充電インフラ整備、安価な脱炭素水素供給インフラ整備)、電動車需要喚起(補助金・現税制殿維持・拡充等)についての支援が必要と考える
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