●文:山下剛
最新型が発表されたスズキ「ハヤブサ」や、ファイナルエディションとなったヤマハ「SR400」などが話題になるとき、やはり注目されるのはエンジンだ。どのくらいパワーが出ているのか、そしてテイストは……。バイクの心臓ともいえるエンジンは、“どうやって冷やすのか”が大きな違いを生んでいる。
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エンジンは冷やさないと壊れる
バイクに乗っている人なら誰でも、稼働中のエンジンは素肌で触れられないほど熱くなることを知っているだろう。エンジンが熱くなる主な理由は、シリンダー内の燃焼室で混合気が爆発して燃焼しているからで、温度はおよそ800℃になるといわれている。
もしもエンジンを冷やさずにそのまま稼働させているとさらに高温になり、オーバーヒートを起こしてエンジンが停止する。最悪の場合は、ピストンやシリンダーが溶けたことでエンジンがストップする。それが“焼きつき”というトラブルで、ピストンやシリンダー、クランクシャフトなどの交換が必要となり、最悪の場合はエンジンをまるごと交換することになる致命的な故障だ。
そうならないためにはエンジンを常時冷却する必要がある。エンジンの冷却方法には、空冷、水冷、油冷があり、このような特徴がある。
空冷式
空気でエンジン全体を冷却する方法で、ボディの中にエンジンが収まっているクルマと違い、エンジンがむき出しになっているバイクの場合は有効な冷却方法だ。
冷却効率を上げるため、シリンダーやシリンダーヘッドには“フィン”と呼ばれる薄い金属板が備わっている。これは金属部品の表面積を拡げると空気に触れる部分が増えるため、放熱効果が高まる原理を利用したものだ。
この放熱フィンはエンジンを冷却するという目的のための装備だが、エンジンの外観を装飾する二次的な役割も持っている。そのため水冷エンジンでも装飾フィンを備えるものがある。
空冷式エンジンは走行風によってエンジンを冷却するため、停車中に長時間アイドリングしているとエンジンの熱が高くなりすぎてしまう。
また、空冷エンジンは始動直後に振動が大きく、回転上昇がぎこちない傾向がある。とくにキャブレター車ではエンジンが吹け上がらず、エンジンが停止しやすい。
なぜこうなってしまうのかというと、空冷エンジンでは金属が熱膨張することを見越しているため、始動直後でエンジンが冷えている間はピストンとシリンダーにわずかな隙間があるからだ。そのため、エンジンが温まればピストンとシリンダーの間隔は適正になり、エンジンは本領を発揮するようになる。
冷間時に未燃焼ガスが発生することやエンジンの熱管理がむずかしいこと、エンジンの騒音が大きいことなどの理由によって、空冷エンジンは高出力化が困難だ。年々厳しくなる排ガスと騒音の規制に対して不利でもある。そのため空冷エンジンは、高出力を必要としないモデルや小排気量モデルに搭載されるようになっている。
2021年をもってファイナルとなるヤマハSR400。写真は職人の手によるサンバースト塗装を施した、1000台限定ファイナルエディションリミテッドだ。 ●価格:60万5000円/リミテッド=74万8000円 ●色:灰、青、黒(リミテッド) ●発売日:2021年3月15日
SR400の空冷エンジン。シリンダーに刻まれたフィンが美しい……。※写真は2001年モデル
インドで発表され、日本への導入も噂されるホンダ「ハイネスCB350」は、現代のテクノロジーで空冷エンジンを規制対応させている。最高出力は21psだが、ボア70mm×ストローク90.5mmの超ロングストローク設定が味わいある走りを期待させる。
水冷式
水(液体)をシリンダー内に循環させることでエンジンを冷却する方法。空冷よりも効率的にエンジンを冷却することができるため、バイクでも現在では水冷エンジンが主流となっている。
シリンダーの燃焼室に近い部分に冷却水の通り道となる”ウォータージャケット”があり、そこを水が循環することでエンジンを冷やしている。エンジンの熱を吸収して温度が上がった水は、ラジエターを通過することで冷やされ、再びエンジン内部へと送られてエンジンを冷却する仕組みだ。
ウォータージャケットのぶんエンジン幅が若干広くなるほか、冷却水を冷やすためのラジエター、循環させるためのウォーターポンプ、それらを接続するホースなど、空冷と比べると水冷エンジンは部品点数が増え、構造が複雑になるうえ重量も増える。エンジンがハイパワーになるほど高熱になるため、スーパースポーツなどの水冷エンジンではラジエターも大型化する。
しかしそうしたデメリットは、エンジンを効率的かつ確実に冷却できる性能の高さが上回る。
エンジンを的確に冷却することは、理想的な燃焼を生み出すために不可欠で、安定した出力はもちろんのこと排ガス浄化や燃費向上にも欠かせない。
また、エンジン全体を走行風に当てる必要がないため、エンジンをカウルで覆っても冷却できるメリットもある。そのためフルカウルを装備するバイクはほぼすべてが水冷エンジンを採用している。
冷却水には専用のクーラントを使うのが基本だが、水道水も使える。ただし水道水を入れっぱなしにしているとサビを発生させる原因になったり、冬期は凍結することもあるので、出先で冷却水が減っていたときの注ぎ足しなど緊急時の応急処置と考えよう。
発表されたばかりのスズキ「ハヤブサ」。排気量は1340ccで、強力な低中速トルクと最高速度300km/hに余裕で到達する、水冷ならではの動力性能を持つ。 ●予想価格:220万円前後 ●予想発売時期:2021年春以降 ※参考:イギリス価格は1万6499ポンド(日本円換算約238万3000円)
ハヤブサの水冷4ストローク並列4気筒エンジンは、1999年の初代から熟成を重ねてきたものだ。新型は190psの最高出力に留めているところが、むしろ新しい潮流を感じさせる。
油冷
空冷も水冷も、エンジンオイルをラジエターで冷却する“オイルクーラー”を装備することがあり、論理的にはこれも油冷といえる。しかし油冷式エンジンはこれとまったく異なり、エンジンオイルをピストンやシリンダーヘッドなどの高熱部位に噴射して冷却する方法のことをいう。
そのため水冷エンジンのラジエターのような大型のオイルクーラーを備え、エンジンオイルを冷却している。
バイクではスズキがGSX-Rシリーズに採用し、多くの油冷ファンを生み出してきた。水冷エンジンよりも機構を単純化でき、なおかつ軽量なメリットもあったが、エンジン温度を一定に保つ性能としては水冷に敵わず、GSX-Rシリーズも水冷を採用している。2020年現在で油冷式を採用しているのは、ジクサー250の単気筒エンジンだけだ。
また、BMWのR nineTシリーズに搭載される水平対向エンジンは、シリンダーヘッド内にエンジンオイル冷却装置を持つため空油冷エンジンと呼ばれている。
完全新設計の油冷シングルエンジンを搭載する、軽二輪クラスのフルカウルスポーツモデルがスズキ「ジクサーSF250」だ。 ●価格:48万1800円 ●色:銀、黒、青
ジクサーSF250の油冷エンジンは、循環する液体をエンジンオイルのみとすることで、水冷に比べてシンプルかつ軽量な設計を可能としている。最高出力は26psだ。
1985年に登場したGSX-R750が搭載した世界初の油冷並列4気筒エンジン。第2次大戦の米軍戦闘機P51ムスタングの液冷エンジンからヒントを得た「油冷」は、ヘッドカバー内側にある8本のノズルから、燃焼室上面に毎分20Lのエンジンオイルを噴射する仕組みだ。冷却に使用したオイルは中央の通路と左右のパイプからクランクケースへ戻り、潤滑に使われる。
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