識者・モリヤマエンジニアリングに尋ねる

プロに学ぶカワサキGPZ900R完調術#3〈純正部品が揃ううちに全面的なリフレッシュを〉


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:モリヤマエンジニアリング

Z1の系譜を継承した第二世代の並列4気筒車・GPZ900R。その走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。本記事ではGPZ900Rに詳しいモリヤマエンジニアリング・森山光明氏のインタビューをお届けする。

プロに学ぶカワサキGPZ900R完調術#3〈完調のフィーリングを多くの人に知ってほしい〉
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【モリヤマエンジニアリング 森山光明氏】’63年生まれで現在56歳の森山氏は、GPZ900Rの誕生からこれまでをリアルタイムで体感。豊富な知識と経験を基盤とする整備/カスタムは、数多くのGPZ900R ユーザーから支持されている。

完調のフィーリングを多くの人に知ってほしい

かつてはカワサキがメインのカスタムショップというイメージが強かったものの、ここ最近のモリヤマエンジニアリングの仕事は、純正部品を用いての整備やレストアが増えていると言う。

「カスタムも相変わらず多いですが、最近のGPZ900Rはカスタム派7:ノーマル派3ぐらいになってきました。その背景には、私自身も含めたユーザーの高齢化や、若いときほど速さを追求しなくなったという事情もありますが、他店やネットオークションで購入して、ウチに新規で入庫するGPZの程度が全体的にかなり悪くなっていることも、ノーマル派が増えた一因かもしれません。せっかくGPZに乗るなら、まずは本来の状態を知ってほしいですからね。実は私自身も、最近はノーマルのGPZに乗ると『やっぱりよく出来ているな』と感じる機会が増えています」

そう語る森山氏ではあるが、これまでの整備とカスタムの経験を通じて、GPZ900Rは日本の道路事情にマッチしていない、と感じたことがあるそうだ。

「日本というか、東京や神奈川を筆頭とする大都市近郊ですが、そもそも上半身の前傾が強いGPZ900Rのライディングポジションは、信号が多くて混雑した市街地には適していないですよね。それに、GPZでよく話題になるカムとロッカーアームの”かじり”は、油圧が低い低回転域で起こりやすい。もちろん、ライポジはバーハンドル化、かじりは対策部品である程度解消できますが、GPZは高速道路や田舎道など、それなりに回して飛ばせる環境を前提にしたバイクだと思います。ちなみに、かじりを含めたエンジンパーツの劣化/磨耗に関しては、同じようにオイルや暖気に気を遣う人でも、大都市近郊か地方在住かで状況はかなり異なるんですよ」

それはすなわち、オーバーホールの時期が異なるということだが、現実的な話として、GPZ900Rのエンジンはどのくらいの走行距離でOHが必要になるのだろう?

「かなりアバウトな表現になりますが、5〜10万kmでしょう。いずれにしてもウチでオーバーホールを行う場合は、そこからノントラブルで10万km走れることを念頭に置いて作業を行っています。ただし、それはひと通りの補修部品が揃う今だから可能なことで、今後はOHするにあたって、ドナーエンジンが必要な時代が来るかもしれません」

キャブレターや電装系、燃料系や水まわりなどに関しても、森山氏は純正部品が揃ううちに、全面的なリフレッシュを行うことを推奨している。

「カワサキの工場から出荷されて、最短でも17年、最長だと36年が経っているわけですから、今は大丈夫でもそう遠くない将来に必ず問題が起こるでしょう。なお実際に各部のリフレッシュを行う際は、状況を見て交換するかしないかを決めるのではなく、消耗部品は全交換という意識を持つべきです。旧車の修理はイタチごっこで、あっちを直したら次はこっちが故障、という状況になりがちですから」

ここまでを読んでいただければわかるように、パワーユニットには危機感を感じている森山氏だが、車体はそこまでシビアな状況ではないようだ。

「徹底的な整備が必要なことは同じですが、純正部品の供給がストップすると、性能回復が難しくなるパワーユニットとは違って、車体は汎用品やアフターパーツで解決できることが多いですからね。とはいえ、ステム/スイングアームピボット/ホイールのベアリングが要交換というケースは非常に多いですし、フォークオイルが新車時のままで、リヤショックがスカスカという個体も珍しくありません。エンジンマウントボルトの折損やトルク不足も、GPZ900Rではよくあるケースです」

当企画を読んでGPZ900Rの購入を考えるライダーに対して、森山氏はどんなアドバイスをするのだろう。

「覚悟と言うと大げさですが、とことん付き合おうという意識は必要でしょう。やっぱり古いバイクを完調にするには、ある程度の費用が必要ですから。逆にそういう意識がないと、GPZ900Rを入手しても楽しいバイクライフは送れないので、安易な気持ちで購入するのはやめておいた方がいいと思います」

メンテナンスコスト:モリヤマエンジニアリングの場合

モリヤマエンジニアリング独自のスペシャルチェックアップは、エンジンから車体、電装系に至るまで、約60項目を5段階で評価する総合点検プログラム。ただしこれを受診したからといって、すべてがOKになるわけではない。「点検時には調整やグリスアップなどを行うので、調子は確実によくなりますが、スペシャルチェックアップの主な目的は、今後の整備内容を決める健康診断です」(森山氏)

ちなみに同店に新規入庫したGPZを完調にする費用は、’00年型以降は50万円~で、それ以前だと100万円以上というケースが多い。なおキャブの消耗部品全交換を行うと、ケーヒンFCRやミクニTMRに匹敵するコストがかかるが、最近はあえて純正のオーバーホールを選択するユーザーも少なくないそうだ。

総合点検プログラムで健康診断

  1. スペシャルチェックアップ+Ver.3:3万6000円(税抜 以下同) ※チェック後の整備内容により割引サービスあり
  2. エンジンフルオーバーホール(パーツ代含む):80万円~
  3. キャブレターオーバーホール(パーツ代含む):5~15万円

モリヤマエンジニアリングオリジナルパーツ:欲しい部品を自らで形にする

モリヤマエンジニアリングでは、多種多様なオリジナルパーツを開発。今回紹介するのは7点だが、ビッグラジエターやホーン移動ステー、荷掛けフック&グラブバーキャンセルキット、ワイドホイールキットなども、マニアの間では定番パーツとして認知されている。

【ショートミラーステーキット】左右方向に張り出しているA7以降のバックミラーを、全幅で‒60mmとするキット。後方視界を十分に確保したうえで、前面投影面積を減少。左右で160g以上の軽量化も実現。●価格:2万742円

【マニュアルカムチェーンテンショナー】作動性がいまひとつのノーマルに替えて使用する、マニュアル式のカムチェーンテンショナー。メカノイズ低減やバルブタイミングの適正化に大いに貢献。●価格:1万9800円

【チェーンガイドローラーType2】リヤにワイドホイールを装着してチェーンラインを外側に移動した際に、チェーンとフレームの接触を防ぐ。ローラーの中心部にはベアリングを内蔵している。●価格:1万4630円

【ドライブチェーンガード】アルミ製チェーンケースはNinjaのロゴ入りで、ノーマルだけではなく、ワイドリヤホイールにも対応。カラーはブラックとシルバーの2種を設定。●価格:1万4080円

【フェンダーレスキット】リヤまわりをスッキリさせるフェンダーレスキットには、専用ツールボックスとリフレクターが付属。●価格:2万680円

【ボアアップクラッチレリーズキット】他機種用のレリーズを用いて、ピストンをφ33.5→35.5mmに大径化することで、クラッチの操作力を軽減。ベースプレートはアルミ削り出し。●価格:3万2780円

【チョークノブキット】左側スイッチボックスを変更した際に取り付け場所がなくなったチョークレバーを、ノブタイプに変更して、任意の場所に移設するキット。●価格:8580円

まとめ:純正部品があるうちに早めの行動が吉!

中古車のタマ数が豊富なだけに、いつでも楽しめそう…な気がするGPZ900R。とはいえ森山氏の言葉にあるように、年を経るごとに中古車のコンディションは悪くなっているし、パワーユニット関連の純正部品の供給があと何年続くかはわからないので、いつかは乗ってみたいと考えている人は、なるべく早めに決断し、行動を起こしたほうがいいだろう。

これからGPZ900Rに乗るなら…

  • 其之一:年式が古いほど整備費用は増加
  • 其之二:総合点検で問題点を把握
  • 其之三:消耗部品は全交換が大前提

【モリヤマエンジニアリング】’89年に創業したモリヤマエンジニアリングは、GPZ900R専門店ではないのだが、取り扱い車種の約7割がカワサキで、その中の半数以上がGPZ900R。取材当日は5台のGPZ900Rに加えて、ZZR1100とZRX1100が入庫していた。

●住所:神奈川県横浜市港南区下永谷5-4-3


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