●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:モリヤマエンジニアリング
Z1の系譜を継承した第二世代の並列4気筒車・GPZ900R。その走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。本記事ではGPZ900Rに詳しいモリヤマエンジニアリング・森山光明氏のインタビューをお届けする。
Z1の系譜を継承した第二世代の並列4気筒車・GPZ900R。その走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。今回はGPZ900Rに詳しいモリヤマエンジニアリング・森山光明[…]
完調のフィーリングを多くの人に知ってほしい
かつてはカワサキがメインのカスタムショップというイメージが強かったものの、ここ最近のモリヤマエンジニアリングの仕事は、純正部品を用いての整備やレストアが増えていると言う。
「カスタムも相変わらず多いですが、最近のGPZ900Rはカスタム派7:ノーマル派3ぐらいになってきました。その背景には、私自身も含めたユーザーの高齢化や、若いときほど速さを追求しなくなったという事情もありますが、他店やネットオークションで購入して、ウチに新規で入庫するGPZの程度が全体的にかなり悪くなっていることも、ノーマル派が増えた一因かもしれません。せっかくGPZに乗るなら、まずは本来の状態を知ってほしいですからね。実は私自身も、最近はノーマルのGPZに乗ると『やっぱりよく出来ているな』と感じる機会が増えています」
そう語る森山氏ではあるが、これまでの整備とカスタムの経験を通じて、GPZ900Rは日本の道路事情にマッチしていない、と感じたことがあるそうだ。
「日本というか、東京や神奈川を筆頭とする大都市近郊ですが、そもそも上半身の前傾が強いGPZ900Rのライディングポジションは、信号が多くて混雑した市街地には適していないですよね。それに、GPZでよく話題になるカムとロッカーアームの”かじり”は、油圧が低い低回転域で起こりやすい。もちろん、ライポジはバーハンドル化、かじりは対策部品である程度解消できますが、GPZは高速道路や田舎道など、それなりに回して飛ばせる環境を前提にしたバイクだと思います。ちなみに、かじりを含めたエンジンパーツの劣化/磨耗に関しては、同じようにオイルや暖気に気を遣う人でも、大都市近郊か地方在住かで状況はかなり異なるんですよ」
それはすなわち、オーバーホールの時期が異なるということだが、現実的な話として、GPZ900Rのエンジンはどのくらいの走行距離でOHが必要になるのだろう?
「かなりアバウトな表現になりますが、5〜10万kmでしょう。いずれにしてもウチでオーバーホールを行う場合は、そこからノントラブルで10万km走れることを念頭に置いて作業を行っています。ただし、それはひと通りの補修部品が揃う今だから可能なことで、今後はOHするにあたって、ドナーエンジンが必要な時代が来るかもしれません」
キャブレターや電装系、燃料系や水まわりなどに関しても、森山氏は純正部品が揃ううちに、全面的なリフレッシュを行うことを推奨している。
「カワサキの工場から出荷されて、最短でも17年、最長だと36年が経っているわけですから、今は大丈夫でもそう遠くない将来に必ず問題が起こるでしょう。なお実際に各部のリフレッシュを行う際は、状況を見て交換するかしないかを決めるのではなく、消耗部品は全交換という意識を持つべきです。旧車の修理はイタチごっこで、あっちを直したら次はこっちが故障、という状況になりがちですから」
ここまでを読んでいただければわかるように、パワーユニットには危機感を感じている森山氏だが、車体はそこまでシビアな状況ではないようだ。
「徹底的な整備が必要なことは同じですが、純正部品の供給がストップすると、性能回復が難しくなるパワーユニットとは違って、車体は汎用品やアフターパーツで解決できることが多いですからね。とはいえ、ステム/スイングアームピボット/ホイールのベアリングが要交換というケースは非常に多いですし、フォークオイルが新車時のままで、リヤショックがスカスカという個体も珍しくありません。エンジンマウントボルトの折損やトルク不足も、GPZ900Rではよくあるケースです」
当企画を読んでGPZ900Rの購入を考えるライダーに対して、森山氏はどんなアドバイスをするのだろう。
「覚悟と言うと大げさですが、とことん付き合おうという意識は必要でしょう。やっぱり古いバイクを完調にするには、ある程度の費用が必要ですから。逆にそういう意識がないと、GPZ900Rを入手しても楽しいバイクライフは送れないので、安易な気持ちで購入するのはやめておいた方がいいと思います」
メンテナンスコスト:モリヤマエンジニアリングの場合
モリヤマエンジニアリング独自のスペシャルチェックアップは、エンジンから車体、電装系に至るまで、約60項目を5段階で評価する総合点検プログラム。ただしこれを受診したからといって、すべてがOKになるわけではない。「点検時には調整やグリスアップなどを行うので、調子は確実によくなりますが、スペシャルチェックアップの主な目的は、今後の整備内容を決める健康診断です」(森山氏)
ちなみに同店に新規入庫したGPZを完調にする費用は、’00年型以降は50万円~で、それ以前だと100万円以上というケースが多い。なおキャブの消耗部品全交換を行うと、ケーヒンFCRやミクニTMRに匹敵するコストがかかるが、最近はあえて純正のオーバーホールを選択するユーザーも少なくないそうだ。
総合点検プログラムで健康診断
- スペシャルチェックアップ+Ver.3:3万6000円(税抜 以下同) ※チェック後の整備内容により割引サービスあり
- エンジンフルオーバーホール(パーツ代含む):80万円~
- キャブレターオーバーホール(パーツ代含む):5~15万円
モリヤマエンジニアリングオリジナルパーツ:欲しい部品を自らで形にする
モリヤマエンジニアリングでは、多種多様なオリジナルパーツを開発。今回紹介するのは7点だが、ビッグラジエターやホーン移動ステー、荷掛けフック&グラブバーキャンセルキット、ワイドホイールキットなども、マニアの間では定番パーツとして認知されている。
まとめ:純正部品があるうちに早めの行動が吉!
これからGPZ900Rに乗るなら…
- 其之一:年式が古いほど整備費用は増加
- 其之二:総合点検で問題点を把握
- 其之三:消耗部品は全交換が大前提
※本記事の内容はオリジナルサイト公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
関連する記事
今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。その1台を知り尽くす専門家に尋ねてみよう。今回取り上げるのは、カワ[…]
環境規制の端境期にあり、世代交代の節目を迎えているバイク。ラインナップに大変動が起きるのは必定だ。そこでヤングマシン創刊48年の知恵とカンをベースに、願望&妄想も織り交ぜながら、バイク未来予想を導き出[…]
日本車の絶頂期だった’80年代の名車たちに“高騰”の波が押し寄せている。超プレミアマシンと化した’70年代車のような状況ではまだないものの、現実的な価格で入手できる時間的猶予はそう長くないだろう。本記[…]
大阪は3月20日、東京は3月28日から始まる予定だったモーターサイクルショーの代わりにヤンマシWEBモーターショーで最新情報をお届け。トップを飾るのは今年公開のトップガンにも登場するGPZ900Rの最[…]
最新の記事
- ヤマハ「YZ450F」が完全新作に! 2ストロークYZ125Xもエンジンをリデザイン【海外】
- 鈴鹿8耐、EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasakiはマシントラブルから41位・141周で終える
- ホンダCBR600RR [’22後期 新型バイクカタログ]:電脳化で復活したミドルスーパースポーツ
- ホンダ NT1100 試乗インプレッション【どこまでも快適、旅バイクの王道】
- 絶妙なユルさと“カブみ”が魅力 GPX POPz110 試乗ショートインプレッション
- 1
- 2