もちろん遊んでるだけじゃありません

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.47「仕事がキャンセルになってもバイクには乗る!」

TEXT:Go TAKAHASHI

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第47回は、気の合う仲間とのツーリング、そして来年のことについても少々。

松戸直樹との房総ツーリングにはゲストがいっぱい!?

間もなくモナコに帰ります。この秋はコロナ禍の影響で仕事がキャンセルになったこともあって、日本でたくさんツーリングできました。関西方面へのツーリングは、MSセーリングの竹内さん、Kファクトリーの桑原さん、マジカルレーシングの蛭田さん、RIDE HIの小川くんたちと京都へ。ずっと見たかった伊根町の舟屋に行くことができました。遠征ツーリングを楽しめるのは、出先に気の合う仲間たちがいて、いろいろ準備してくれるからこそ。ありがたいし、幸せなことだなと思います。

ただ、舟屋は山の上から見下ろすだけだったので、ちょっと遠かった(笑)。もう少し風情を感じたかったところですが、あの場所は今も普通に暮らしている方たちがいる日常生活の場ですしね。僕のような観光客は遠くからそっと見させてもらうぐらいでちょうどいいのかもしれません。

関西方面のツーリングは、RIDE HIの小川くんをはじめ気心の知れた人たちと。 [写真タップで拡大]

ツーリング先で多かったのは、やはり圧倒的に房総!(笑)地元なので、ちょっと時間ができた時にはプラッとひとりでセローに乗って走りに行ってしまいます。何が楽しいのか自分でもよく分かりませんが、何か考えているわけでもなし、ただバイクに乗っていることが楽しいとしか言いようがないんですよね。

房総では、(松戸)直樹と2度ほどツーリングしました。直樹は、僕が10歳、彼が7歳ぐらいの時から仲良くしている幼なじみです。SP忠男時代の僕の後輩にあたり、全日本ロード250ccクラスでチャンピオンを獲得(1999年)したり、世界GP250で走っていたりしたので、ご存知の方も多いと思います。

その直樹とのツーリング、1回目は直樹、僕の弟の伸也、幼い頃からお世話になっていたユキオさんたち5人ほどで行くはずだったんです。ツーリング当日、待ち合わせ場所の君津PAに少し遅れて到着すると、すごい数のバイク集団がいました。「絡まれたらどうしよう……」とやや避け気味だったのですが、なんとそれが自分たちのツーリンググループでしたた!(笑)どうやら人が人を呼んで、30人以上になったんだとか。「聞いてないよ〜」と思わず笑ってしまいました。

右から松戸直樹さん、原田伸也さん、SP忠男の鈴木忠男社長。ライダーたちはみんなSP忠男RTの卒業生。幸せな師弟ツーリング。 [写真タップで拡大]

館山方面に向かったのですが、ちょっと乗りづらそうにしている女性の方がいたので、ツーリングしながら簡単にアドバイスさせてもらいました。彼女は以前右コーナーで転んだことがあるそうで、特に右コーナーでは緊張して体に力が入っていました。怖いからしがみつくようなフォームになっていて、前に乗りすぎていたんです。交差点も曲がり切れないぐらいガチガチでした。

「あまり前の方に乗りすぎると肩や手に力が入ってしまい、曲がるものも曲がらなくなっちゃいますよ。もう少し後ろに座って、上半身をリラックスさせてみてください。バイクの旋回力を邪魔しなければ、ちゃんと曲がってくれますよ」

そんなことを伝えると、いきなり走りが変わってスムーズに曲がれるようになりました。ちょっとお役に立てたみたいで、見ていた僕もうれしかったなあ……。

つい最近も、直樹と2回目のツーリングに行きました。今度は少人数で(笑)。実は僕、直樹がバイクに乗っている姿を見るのは、すごくうれしいんです。ご存知の方もいると思いますが、直樹は2007年、カワサキMotoGPマシンのテスト走行中にクラッシュして、右足大腿骨骨折の大ケガを負っています。治療中に感染症にかかったこともあり、ライダー生命を絶たれてしまいました。

その後、大変な治療とリハビリを経て歩けるようにはなったんですが、足をうまく曲げられないためバイクにはずっと乗っていなかったんです。スクーターには乗ってたんですけどね。「直樹、ツーリング行こうぜ!」と何かと誘ってたんですが、「テツが誘ってくれるなら」と、今年になって彼がカワサキZ1に乗って一緒にツーリングに行くことができ、感慨深いものがありました。

そう、直樹は年下で唯一僕のことを「テツ」と呼び捨てにする男(笑)。まさに幼なじみなんですが、子供の頃からとにかく人がいい! そして全然しゃべらない。僕のYouTubeにも登場してほしいけど、たぶん間がもたないだろうな(笑)。でもホントにいいヤツだから、世界で戦うのは難しかっただろうと思います。

グランプリは、強者どもが集まって競い合う場です。「悪いヤツになれ」とは言いませんが、みんな基本的には自分のことしか考えていません。それでも勝てないんですから、直樹みたいに優しいヤツにはちょっと無理があったことでしょう。え? 僕? 僕はホラ、みんながハッピーになることしか考えてませんでしたよ(笑)。というのは冗談で、もちろん自分が勝つことだけを考えてました。

一緒にツーリングに行った弟の伸也も、やっぱりいいヤツなんですよね。彼もレースをしてたんですが、僕に比べると勝つことにそれほどこだわっていなかったように思います。全日本ではランキング4位まで行ったからそれなりに才能はあったと思うけど、とにかくマジメにやらない(笑)。お調子者で、中学生の頃も友達に誘われるとバイクの練習そっちのけですぐ遊びに行っちゃってました。

僕は逆。友達と遊びたい気持ちはもちろんあったけど、それよりバイクでした。土曜日は下校時間になるとトランポにバイクを載せた父が校門の近くで待っていて、そのままミニバイクコースに行って1時間半は必ず練習走行してました。バイクが好きっていうのもあったけど、どっちかといえばただ勝ちたいだけ(笑)。かなりの負けず嫌いだったと思います。中学生時代のミニバイクなんて遊びの延長線上でしたが、それでも勝ちたくて勝ちたくて、他の遊びをするぐらいならバイクに乗っていたかった。乗れば乗るほど勝ちに近付きますからね。

でも、弟はその人柄を生かして今はBMWモトラッド八千代のセールスマネージャーを務めてますから、まぁよかったんじゃないかな(笑)。

そんな気のいい連中に加え、房総のルートにめちゃくちゃ詳しいユキオさんも来てくれますから、ツーリングは楽しいに決まっています。直樹との2回目のツーリングでは看板のない隠れ家的なお蕎麦屋さんに連れて行ってもらいました。うまかったけど、場所はなんとなくしか分かりません(笑)。ユキオさんがいなかったら絶対行けないな……。

直樹の仕事の休みに合わせて日曜日に出かけたんですが、バイクがたくさん走っていました。それはいいとして、数が増えるとマナーが悪いライダーも目立つ! 踏切が開く直前に通過してしまったり、対向車がいるのに無理に抜いて行ったりと、見ていてヒヤヒヤするライダーも多く見かけました。僕もライダーのひとりとして、バイクの楽しさは分かるつもりです。でも、ぜひ皆さんには余裕を持って走ってもらいたいですね。自分たちだけで走っているわけではないので……。

トライアルで学ぶ“ポジション”の取り方

バイクの楽しみはツーリングだけじゃありません。この間は、鈴木大五郎くん、齋藤栄治さんと一緒に、トライアル選手・本多元治くんのトライアルレッスンを受けてきました。久々のトライアル、全然できない!(笑)やはり間を空けると感覚が鈍ってますね。昼過ぎになってようやく手応えが戻ってきました。

いろいろ勉強になることが多いトライアルですが、今回特に意識したのはポジションです。例えば下り坂でのブレーキング、という場面では、自分のポジション次第でフロントがロックしてしまったり、逃げてしまったりします。逆に、いいポジションに乗るだけで、ブレーキレバーを握り込まなくてもしっかりブレーキが利くようになるんです。足首のちょっとした角度で荷重のかかり方が変わったりして、とにかくシビアで、だからこそ面白い! オンロードバイクに乗っているだけでは気付かないバイク操作の奥深さを、今回も改めて教わりました。

こんなふうにバイクでツーリングをしたり、トライアルをしたり、釣りやゴルフに行ったりと、日本での時間は充実してました。え? 遊んでるだけじゃないかって? とんでもない!(笑)もちろん仕事もいろいろやらせていただいて、結構忙しかったんですよ。来年以降に向けて企てていることもあって、楽しくなりそうです。

モナコも新型コロナウイルスの感染者数が増えていて、子供の学校の友達がかかったりと、油断できない状況です。でも、現地にいる奥さんの美由希さんいわく、街はそんなに危機感がないそう。モナコに帰っても最大限に気を付けて、また日本で楽しい日々を送りたいと思っています。

反復練習に集中する原田さん。 [写真タップで拡大]

左から、先生の本多元治さん、鈴木大五郎さん、原田さん、齋藤栄治さんという豪華な顔ぶれ。 [写真タップで拡大]


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