「独特すぎる!」と揶揄されながらも、自分を決して曲げなかった。ノブ青木が貫き続け、今もこだわるライディングフォーム「ハルナ乗り」。実は憧れの人をマネしたことが発端だった。だが、その「憧れの人」も、あるライダーに影響を受けていた。体と頭をイン側に大きく落とすフォームに隠れた真実に、今、迫る。
中学生の時、ミニバイクレースで注目を集め始めていたワタシだったが、速さだけが要因だったのではない。独特なライディングフォーム──インに大きく体を落とすハルナ乗り──によるところが大きかったように思う。[…]
時代はすっかり便利になったもので、なんとFacebookを通じて髙槗さんとコンタクトを取ることができた。さっそくLINEで通話。なんとなくIT最先端のイメージである……。
青木──僕が髙槗さんに憧れてハルナ乗りを始めたの、ご存じでしたか?
髙槗──いえいえ、全然! まさか憧れられてたなんてビックリだし、お恥ずかしい限りですよ……。
青木──髙槗さん、ズバ抜けて速くてカッコよかったから。
髙槗──いやぁ、そんなことないですよ。でも、あの頃の榛名のミニバイクレースは、ものすごくレベルが高かったですよね。遠征で埼玉や千葉の初コースに行っても、普通に勝てましたから(笑)。
青木──そうそう! 全国一と言ってもいいんじゃないかなー。ところで髙槗さん、あのライディングフォームはどうやって編み出したんですか?
髙槗──うーん、あんまり覚えてないんだけど(笑)、原点はフレディ・スペンサーだったかもしれないな。スライド走法と言われてたスペンサーだけど、僕の印象では「滑らせないライダー」だったんです。限界を超えてスライドして、それをどうにか滑らせないようにして走っていた。ミニバイクのノーマルクラスは、すぐに限界がやってくる。そこで滑らせていたら速く走れないんですよ。思ったより早く滑ってしまうから、その分を体でカバーしようとして、気付いたらあのフォームになってました(笑)。
青木──ハルナ乗りの元祖、髙槗さんがスペンサーの影響を受けていたとは! ってことは、ハルナ乗りはスペンサーが生んだ!?
髙槗──ははは、そう言えるかもしれませんね!
さすが、ワタシが憧れた人だけのことはある! 髙槗さんはサラリと話してくれたが、実はめちゃくちゃレベルが高く、なおかつ鋭い内容なのだ。
スペンサーといえば、ガンガンアクセルを開けて豪快にパワースライドし、向きを変える走りが特徴だった。だがスライドは横方向の動きで、前進することに対してはどうしてもロスになる。だからスペンサーもスライドさせつつ、「いかにスライドさせないようにするか」を考えていたはずだ。
速く走ることとは、常に限界を超えていくことだ。スライドは物理的な限界のように思えるが、実は本当の限界じゃない。その先の領域にどうにか辿り着こうとライダーは努力する。
スペンサーももちろんそうしていただろうし、そのことをズバリと見抜いた髙槗さんは、自らの環境にその考え方を当てはめて、ハルナ乗りを導き出したのだ。
そして少年時代のワタシは、意味も分からないまま髙槗さんのライディングフォームをマネして、それが自分のスタイルとして定着した。ロードレースにステップアップしてもハルナ乗りを続け、そのまま世界グランプリを戦うようになったのである。
【ロッシだって(マネして)ハルナ乗りに…】︎’13年にモトGP参戦を開始したマルク・マルケスはまさにハルナ乗り。その速さに反応したバレンティーノ・ロッシはすぐフォーム改造に取り組み、モノにした。努力を怠らない姿勢が、ロッシを帝王たらしめている。
……と、さんざんハルナ乗りについて熱く語っておいてナンですが、実はワタシ自身はライディングフォームにそれほど重きを置いていない(笑)。フォームというのは速く走るための副産物であって、人それぞれでまったく構わないと思っている。体格も違えば体の可動性も異なり、走り方も考え方もまちまち。マシン特性も違えばタイヤも違うのだから、いろんなフォームがあっていい。
特にレースしているレベルのライダーは、スピードを求める結果として基本を押さえざるを得ない。自分独自のライディングフォームは、それよりずっと先のステップの話だから、誰かに何かを言われる筋合いはない。
ただひとつ言えるのは、「速く走るためには、努力が必要だ」ということだ。ライディングフォームは、努力が形になって見えているだけのこと。人としての生き様、文字通りの”姿勢”なのだ。
●監修:青木宣篤 ●写真:青木家所蔵 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
中学生の時、ミニバイクレースで注目を集め始めていたワタシだったが、速さだけが要因だったのではない。独特なライディングフォーム──インに大きく体を落とすハルナ乗り──によるところが大きかったように思う。[…]
子供の頃は、ひたすらポケバイに乗っていた。最初に走った「コース」は、群馬県北群馬郡子持村の村役場駐車場だ。今ではあり得ないが、昭和50年代半ばのグンマは大らかだったのだ。ちなみに子持村は、合併により'[…]
ドゥカティがまた企んでいる。とりあえずここでは「ホールショットデバイス2.0」と仮称しよう。長いので「HSD2.0」と省略することにする。 ホールショットデバイスはサスペンションの動きを抑制することで[…]
公式テストにて生き生きとヤマハYZR-M1を走らせていたのは、ホルヘ・ロレンソ。'19年までとは別人のように楽しげに走っていたが、ホンダRC213Vとはよほど相性がよくなかったようだ。 ただ、初乗りか[…]
マレーシア公式テストで注目したのは、各マシンのウイリーの仕方だ。コーナーの立ち上がりでずーっとフロントタイヤを眺めているのだから、我ながらちょっとアブナイ香りがする…(笑)。 加速効率がもっとも良いの[…]
最新の記事
- 1
- 2