ロッシとビニャーレスの回避は奇跡としか言いようがない

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.40「あのクラッシュは、コースレイアウトにこそ問題があった」

  • 2020/9/1

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第40回は、様々な意見が出たザルコとモルビデリのクラッシュなどについて。

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レッドブルリンクで行われた2連戦は、どちらも波乱の展開

MotoGP第5戦オーストリアGP、そして第6戦スティリアGPは、2週続けて同じオーストリア・レッドブルリンクで行われました。どちらも波乱含みのレースでしたね。第5戦の恐ろしいクラッシュは、コースレイアウトの問題が大きく影響したように思えました。僕もA1リンクと呼ばれていた’96年と’97年にここでのレースを経験していますが、「怖いコースだな」という印象を持っていました。特に強烈な印象を残したのは、’02年F1での佐藤琢磨くんが3コーナーで巻き込まれた大クラッシュ。最悪の事態も覚悟する恐ろしい事故でしたが、今回のMotoGPも同じ状況で、本当に肝を冷やしました。

話はちょっと逸れますが、琢磨くんと言えば世界3大レースのひとつ、インディ500で2勝目を挙げましたね! 本当におめでとうございます。彼は以前僕と同じモナコに住んでいたので交流があるんです。インディ500で2度の優勝は本当にスゴイ! 前回優勝した時は、しばらくの間かなり忙しかったらしく、忘れた頃にLINEが返ってきましたからね(笑)。今回もうれしい忙しさに追われていることでしょう。4輪SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)の校長を務めている琢磨くん、生徒たちにとっても最高な刺激となりました。

3か月遅れで開催された第104回インディ500で、自身2度目となる優勝を遂げた佐藤琢磨選手。翌週の別のレースでも2位に入るなど好調だ。 [写真タップで拡大]

と、偉業をお祝いできるのも、琢磨くんが奇跡的に無事だったからこそ。MotoGP第5戦でヨハン・ザルコとフランコ・モルビデリが2コーナーでクラッシュし、コントロールを失ったマシンが3コーナーを走行中のマーベリック・ビニャーレスとバレンティーノ・ロッシに直撃しそうになりましたが、ギリギリ当たらずに無事だったのも、奇跡としか言いようがありません。ビニャーレス、ロッシともに素晴らしい反射神経で回避行動を取っていましたが、ぶつからなかったのは運でしょう。そういう強運の持ち主だけがMotoGPまで上がってくるのは確かですが……。

ザルコとモルビデリの接触は、ゆるく左に曲がる高速の2コーナーで発生しました。モルビデリをパスして前に出たザルコに、モルビデリが追突した形のクラッシュです。この接触についてはいろいろな意見が交わされ、実際にザルコには次戦でのピットスタートペナルティが課せられましたが、僕の考えとしてはどちらが悪いというものではなかったと思います。

2コーナーのRは映像ではゆるく見えるので、「ザルコがパスしたモルビデリに配慮してラインを変えればよかった」という意見が見られましたが、実際に走ってみるとちょっとでもラインを外すとリカバリーが難しいポイントです。高速なうえに曲がりながらのブレーキングになるので、僕が現役時代に走らせていた軽量な2スト250ccマシンでも自由なライン取りはほとんど不可能でした。それよりももっと速く、もっと重く、さらに空力パーツでダウンフォースまで効いている今のMotoGPマシンなら、「ちょっとラインを変える」なんてできないでしょう。

「後ろに配慮を」という意見はもっともです。僕も常に「ライバルたちへのリスペクトが欠かせない」と言っています。でも、今回のザルコの抜き方に問題があったとは思いませんし、完全にモルビデリを交わして前に出切ってからのクラッシュです。危険が伴うモータースポーツですので、他車を抜く際に必要以上のリスクを冒さないことは大事ですが、抜いた後に関してはやりようがないというのが実際のところではないでしょうか。また、「追突した」という事実だけ捉えれば、モルビデリの操縦にも問題ありと見ることもできてしまいます。でも、スリップストリームが効くような高速コーナーでは、いつものようなブレーキングはできなかったでしょう。わずかなタイミングのずれが、クラッシュを招いたのだと思います。

いろいろな見方ができ、いろいろな意見が出るクラッシュでしたが、もっとも問題なのは、他車が走行中の3コーナーにクラッシュしたマシンが戻ってしまうようなコースレイアウトでしょう。レースをしている限り、アクシデントの発生は起こり得ます。ザルコとモルビデリのクラッシュも、誰かに悪意があって起きたことではなく、いわゆる「レーシングアクシデント」の部類です。それが発生した時に、トラブルが拡大しないよう最大限配慮することが、コースには求められると僕は思います。第6戦スティリアGPでは急きょ3コーナーにエアフェンスが設けられましたが、昔から2〜3コーナーに限らず危険性が取り沙汰されているコース。もう少し進んだ問題解決を望みたいところです。

地元で好調さを示したKTM、まとまりのいいスズキに対し、心配なホンダとヤマハ

レッドブルリンクで行われた2レースでは、チェコGPに引き続きKTMが活躍しましたね。ポル・エスパルガロはどちらのレースでも優勝争いに絡み、第6戦スティリアGPではポールポジションも獲得。さらに同レースでミゲール・オリベイラが初優勝を挙げました。KTMにとっての母国GPに気合いも入っていたでしょうが、マシンのまとまりの良さは現時点でベストと言えそうです。チェコGPで新人のビンダーが、そしてスティリアGPではサテライトチームのオリベイラが優勝(タイトル写真)していますから、総合的なパフォーマンスの高さが窺えます。経験豊富なダニ・ペドロサが開発ライダーとして参画したことで、エンジニアに役立つコメントが増え、開発スピードがアップしたのでしょう。

マシンのまとまりは、スズキもいいですね。アレックス・リンス、ジョアン・ミルともに上位争いに加わっています。特に2年目のミルは初優勝に向けて元気いっぱい。第6戦スティリアGPでは赤旗さえなければ優勝していたはず。表彰台に立った3人ともが口を揃えて「ミルのレースだったね」と語っていましたが、本当にその通り。めきめきと実力をつけています。冷静にレースを組み立てられるタイプなので、今後が楽しみです。

一方で、ホンダの不調が気になるところです。中上貴晶くんが健闘していて、スティリアGPでは赤旗がなければ2位表彰台に立てていたと思います。マルク・マルケスのデータや乗り方を参考にしているとのことですが、だからと言ってすぐに自分の走りに反映できるものじゃありません。かなり努力をしているからこその成果ですよね。それにしても、ここまでホンダの表彰台はナシ……。マルク・マルケス不在でリザルトは不発が続いています。ホンダは常に「誰かのスペシャルマシンを作ることはない」と言っていますが、誰もが好調なKTMと比べると、「うーん……」と唸りたくなりますね。

ヤマハも心配です。第2戦、第3戦とファビオ・クアルタラロが連勝し、1-2-3も達成したヤマハでしたが、その後は苦戦続き。エンジンやブレーキのトラブルも含めて、今季はコロナ禍によるテスト不足が影響しているように思えてなりません。第6戦スティリアGPではビニャーレスがブレーキトラブルに見舞われ、マシンから飛び降りましたね。僕も経験ありますが、「あっ」と思ったら意外と体が動くものです(笑)。ビニャーレスはその前にいったん手を挙げてペースダウンしていましたが、もしあれがブレーキに変調を感じてのことだったら、僕ならすぐにピットインします。他を危険にさらすことはもちろんですが、それ以前に自分が怖いですからね(笑)。

クアルタラロもブレーキやフロントまわりに不安を抱えているようで、フラストレーションの溜まるレースが続いています。気付けばポイント争いでもアンドレア・ドヴィツィオーゾに肉薄されていて、ますます焦っているでしょう。こんな風にヤマハが苦境に立たされている時こそ、ベテランのロッシに期待したいのですが、彼ももうひとつ。やはりキッチリと世代交代が行われていて、ロッシもその波には勝てないのかな、とちょっと思います。

マシンとチームのまとまりがいいスズキ(写真はジョアン・ミル選手)と、#30中上貴晶選手がひとり気を吐くホンダ。 [写真タップで拡大]

ややフラストレーションがを抱えているように見えるファビオ・クアルタラロ選手。 [写真タップで拡大]

若手……という点では、Moto3で日本人ライダーが頑張っていますね! 特に小椋藍くんはここまでの6レースで4回表彰台に立っていて、素晴らしいと思います。彼のマシンは決してエンジンが速いわけではないようで、Moto3としては珍しく、早めにマシンを起こして立ち上がる走りを自分のものにしています。この走り方は、大排気量になっても通用するもの。僕としては早くMoto2にステップアップしてほしいなあ、と思います。

先に触れた中上くんを始め、Moto2の長島哲太くんも調子を取り戻してきていますし、Moto3では小椋くん、鈴木竜生くん、鳥羽海渡くん、山中琉聖くん、佐々木歩夢くん、そして國井勇輝くんと6人もの日本人ライダーが頑張っています。僕の頃と違って、今は全日本とGPの間に大きなマシン差があって、なかなか厳しい状況だと思います。でも、やっぱり日本人選手の活躍は楽しみだし、応援しがいがあります。今年はMoto2の哲太くん、Moto3の鈴木くんが優勝しており、みんな内心では「アイツが勝てるならオレだって!」と気合いが入っているはず。ぜひともみんなで優勝を重ねて、明るい話題を振りまいてほしいと思います。

アジ釣りにハマりそう!

僕個人の話をさせてもらうと、せっかく日本に来ているのに新型コロナウイルスの影響でイベントやロケの多くが中止になってしまい、非常に残念です。9月半ばにはモナコに帰るので、それまでにいろいろやろうと計画していたことがなかなか進みませんが、こればかりは仕方ありませんよね。もっと大変な目に遭っている方も多いので、贅沢は言っていられません。

そんなわけで自由な時間が増え、今は釣りにハマッています(笑)。自分のYouTubeのロケで初めて船でアジ釣りをしたんですが、それが面白かった!「アジの引きはたまらないなあ」と、2度目に行った時には、すごい体験をしてしまいました。ハリに掛かったアジに青物が食いつき、糸をブツブツと切られたんです。その引きが強烈! あまりにも悔しいのでリベンジで行った3回目、なんとハリ掛かりしたアジで2枚のヒラメをキャッチ! なかなのサイズで、ヒラメの引きもスゴイ! ネットに収まった瞬間はちょっと感動してしまいました。

ところがこの時も青物が食ってきたんですよ! ヒラメよりさらに強い引きに耐えながら、どうにかやりとりしてたんですが、糸が根本からブツーン! もう完全に頭に来た!! 今まではレンタルの道具を使っていたんですが、竿やリール、糸、クーラーボックスなどの釣り道具をひととおり買い揃えてしまいました(笑)。なんとしても青物を仕留めてやる! 今はめちゃくちゃ燃えています。台風、それてくれないかな……。

原田哲也

レンタルの道具から、マイ釣り道具へ。ファクトリー体制になる日も近い……?? [写真タップで拡大]

TEXT:Go TAKAHASHI
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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。