エンジン全体に言えることですが、製造のしやすさ、コスト、強度、剛性、重量、信頼性といった様々な項目のバランスを考えて設計者が構造を決めるのですが、その過程で新しいアイデアが必要になるわけです。大変前置きが長くなりましたが、RR-Rの新しいシリンダー構造は以下のような思考の過程で生まれたのだろうと推察します。
- 最重要案件としてシリンダーのクローズドデッキ(低圧鋳造)は外せない
- アッパークランクケースは重量や生産性、コストを踏まえ、シリンダーと別体のダイカスト製としたい
- 別体構造で弱点となる、シリンダーの変形とベース面の漏れ対策が必要
- そのために新たな構造を発想、開発する必要がある
その結果として生まれたシリンダーは下部にも二重構造ができていて、締め付けたときにシリンダーベース面の外側にもしっかり荷重が掛かります。シリンダー内面の変形を抑えつつ、ベース面の面圧をより均一にすることで漏れにくい構造にもなっています。重量は少し重いでしょうが、締め付け時の変形抑制には効果的な形状です。
特許には冷却や暖機性能についても書かれていますが、私はそれらの効果には少し懐疑的で、締め付け時のシリンダー変形を抑えるために考えたけど、下の方に空洞が出来たので冷却水のバイパスに使ってみた……ぐらいのことと思いました。ホースが減って外観がすっきりするのはいいことだと思います。
ビルトインボトムバイパス:メーカーは摩擦低減技術と紹介
冷却水路を上下2階建てとし、熱せられた冷却水をシリンダー下部にも回すシステム。シリンダー内の温度分布を均一化し、熱歪みを抑えてフリクションを低減する技術として紹介される。
「ビルトインボトムバイパス」の実物が下の写真。ケースと接するシリンダー下面が肉厚化されており、その内部を冷却水路として使っている。シリンダー温度の均一化が狙いとしても、ケースとの結合剛性も高まるはずだ。
●解説:エンジニ屋 ●写真:真弓悟史、ホンダ ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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