石油元売り5社がそれぞれにオリジナルブランドとして販売してきたハイオクガソリンが、実は貯蔵タンクを共有する「混合出荷」だったとの報道が2020年6月27日付の毎日新聞に掲載された。これを受け、ヤングマシンの姉妹誌「NSR専門誌・PRO SPEC」が過去に掲載した“ガソリン銘柄別テスト”の結果を改めて振り返りたい。
石油会社4社のハイオクガソリンを比較する
2020年6月27日に毎日新聞が報道した「ハイオクガソリン、実は混合」という記事。ざっくり言えば、石油元売り5社が「各社が独自技術で開発した」オリジナルブランドとしてしてきたハイオクガソリンが、実は物流コスト削減を目的に貯蔵タンクを他車と共同利用していた、というものだ。
記事によれば、約20年前からこうした「混合出荷」は各地で行われてきており、メーカーもそれを事実として認めているという。ただし、こうした流通形態を取る地域や開始時期は「他社との契約に関わる」として明らかになっていない。
この報道を受け、ヤングマシン姉妹誌のNSR専門誌「プロスペック(PRO SPEC)」が2019年5月発売のVol.2に掲載した「ガソリンで出力は変わる?」という記事をWEBヤングマシンに緊急掲載することにした。というのも、現在の石油元売り5社となる「ENEOS、出光昭和シェル、コスモ石油、キグナス石油、太陽石油」とは構成が異なる(業界再編による)ものの、この記事ではENEOS、コスモ石油、昭和シェル、出光の4社のハイオクガソリンをNSR250Rに入れ、パワー測定をしているからだ。当時はテスト結果に不思議な印象を覚えたものだったが、読み返してみると、毎日新聞の報道を数値で補完するかのようなパワーグラフが描かれている――。
では、改めて当時の記事を掲載(一部再編集)していきたい。
ハイオクガソリンは、燃費の改善や排ガスのクリーン化、出力向上といったメリットが昔から謳われてきたほか、「どこのガソリンがいいのか?」という話題はバイク好きの興味を引いてきている。実際、銘柄を決めて変えずに使い続けるショップもあるし、ネット上には「〇×△は体感で違うぞ!」といったコメントも数多い。われらがNSRでそこを追求してみよう。
【TEST.1】4社のハイオク比較「データで違いは確認できない!」テスト車両では出力差はほぼなし、バラつきはあるも計測誤差内
4種のハイオクガソリンは全てテストの直前に購入。テスト車はSTDエンジンにライズオンチャンバー、リミッターカットというライトチューンのMC21(NSR250R)だ。ピーク後の1万1500rpmから先に若干のバラつきはあるものの、これは計測ごとに入れ替わる程度の差で、その前のパワーカーブはピタリと一致。少なくとも今回の車両では“ハイオクのブランドによる出力の差はない”が結論だ。 ※補:気温や湿度、エンジンやチャンバーの温度等の条件により、わずかな誤差は必ず生じる
出光[赤]:64.9ps/11425rpm・4.1kg-m/11125rpm
シェル[青]:65.0ps/11535rpm・4.1kg-m/11153rpm
コスモ[緑]:64.9ps/11483rpm・4.1kg-m/11087rpm
エネオス[黄]:65.0ps/11485rpm・4.1kg-m/11193rpm
【TEST.2】出光のハイオクとレギュラーを比較「レギュラーだと頭打ちが早い」下はハイオクと同じ
ハイオクガソリンとレギュラーガソリンも比較。結果は「上が伸びてレブもいいハイオク、とはいえ下はレギュラーと同じ」と、グラフ上でもハッキリと違いが現れた。比較したのは出光のハイオクとレギュラーで、1万1200rpm程度をピークに落ち込むレギュラーに対し、ハイオクはもう100rpmほどピークが高く、その後の落ち込みも緩やか。出力も1.3psの差が付いた。とはいえ、レギュラーも頭を打つまでのパワーカーブはほぼ同一。ピーク以前は差がない、という見方もできる。
ハイオク[赤]:65.5ps/11316rpm・4.2kg-m/11199rpm
レギュラー[青]:64.2ps/11173rpm・4.1kg-m/10781rpm
以上がPRO SPEC[Vol.2]に掲載されたハイオクガソリン比較の記事だ。これら全てのハイオクガソリンが同じ成分だったのか、今となっては調べ上げるすべもないが、JIS規格ではオクタン価の下限しか決められていないことから、銘柄によって多少のオクタン価の違いはあってもおかしくないところ、パワーグラフが不自然なほどに酷似していた、ということだけは事実としてお伝えできる。
なお、ハイオクガソリンは、ガソリンのオクタン価が高いことから自然発火しにくく、その特性ゆえに圧縮比を上げてもノッキングが起こりにくいことから高性能エンジンに使われることが多い。JIS規格で決まっているので性能差は基本的にないものの、添加剤などによって燃焼室のクリーン化といった違いをアピールするメーカーも多かった。そんな時代は、過去のものになろうとしているのだろうか。
※「プロスペック」は、登場から30年以上を経てなお高い人気を誇る「ホンダNSR250R」の専門誌です。“世界一マニアックにNSRに迫る!”をテーマに、すでに深い知識を持つNSRオーナーですら唸るほどのディープな情報を満載。2016年秋にVol.1、2019年5月にVol.2を刊行しています。
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