第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

巨大エンジンの『ちょうどいい』ってなんなの?

バイクと船舶エンジンを比べてみた〈前編〉【バイクで社会科見学】

  • 2019/1/16

エンジンを懐に抱えて走るのがバイクの魅力。じゃあ、他の業界のエンジンはどうなってるの? ということで船舶エンジンの会社にお邪魔してみた。感動を飛び越え、思わず笑ってしまうほどのスケール感。しかしその内部は、驚くほど精密にして精巧に作り込まれている。ただデカいだけじゃない、船のエンジンの真実をえぐる!!

※ヤングマシン2013年11月号に掲載した記事を再構成したものです

文:高橋 剛 Go Takahashi 写真:長谷川 徹 Toru Hasegawa 取材協力:ディーゼルユナイテッド

さすがのNinja ZX-14Rも小さく見える!

同社の工場に初めて潜入することに成功したパイクは、カワサキのニンジャZX-14R。全長2170mmは船舶エンジンのストロークにも及ばず、さすがのフラッグシップモデルもかわいく見える。

【DU-WARTSILA 6RT-flex58T-D】バイク流に言うなら、2ストローク直列6気筒エンジン。しかしながらスケールはまるで異なる。ボア580mm×ストローク2416mm、すなわちボア58センチ×ストローク2.4メートルの超巨大エンジン……と思いきや、ディーゼルユナイテッドの扱う船舶用エンジンとしては小型の部類。それでも重量は322トンととてつもない。安価なC重油を燃料に、最大出力は1万8440psをわずか105rpmで発生。シリンダーごとに電子制御され、低燃費と排ガス規制への対応を両立している。お値段推定数億円。

巨大にして極めて精密 これぞ「ザ・エンジン」

「これがエンジンです」

「冗談でしょう?」

目の前にそびえているのは、ちょっとしたマンションほどどデカい、メカニズムのカタマリだ。

階段があり、手すりがあり、何人もの作業員が上階をてくてくと歩いている。あまりにもデカイ。エンジンの範疇を超えている。どう見ても建造物だ。

「これは小さめですけどね」

「ウソでしょう?」

兵庫県・相生湾に面するディーゼルユナイテッド相生工場は、主に船舶のエンジンを製造している。案内してくれた保坂知洋さん(同社製造部部長:取材当時/現在は株式会社IHIに勤務)は、いたってマジメな様子である。

デーンと置いてある小さいドラム缶のような金属物質は、ピストンだ。あまりにデカくて適切な例えすら思い浮かばないほどの極太コンロッド。体がすっぽりと入ってしまいそうなシリンダー。ハシゴをかけて作業するクランク。思わずフラフープしたくなるピストンリング……。

すべてが途方もない。基本構造は、 確かにバイクのエンジンと同じだ。だからこそ余計にその巨大さが際立つ。目がクラクラして、笑いが込み上げてくる。

しかし徐々に目が慣れてくると、巨大ムービングパーツ群は美しく削り出されていたり、入念に研磨されている様子が見えてくる。まるでチューニングが施されたバイクのエンジン部品のようだ。

途方もなく巨大にも関わらず、途方もなく精密。船のエンジンは、何かとスケールが違う。

【取材協力:ディーゼルユナイテッド】IHIと住友重機械工業のディーゼル部門が合併し、’88年に発足。現在はIHIのグループ会社として、船舶用2ストローク/4ストロークディーゼルエンジンを始め、関連機器の設計、製造、販売、修理などを行う。本社は東京都千代田区。今回は兵庫県にある相生工場にお邪魔した。

求められるのは、馬力よりも『ゆっくり回す』こと

豪快な巨大パーツになぜか男気をビンビン感じ、大ざっぱな気分になってきた船舶エンジンの工場見学。しかしその実情は、大ざっぱとは正反対の緻密さだった。

地球上の内燃機関はすべて同じ方向に向かいつつある

何から何まで巨大のオンパレード。我々は、そのスケール感に完全に圧倒されていた。そしてあまりの豪快さに、どこか「デカい=大ざっぱ」と混同していた。「こんだけデカいんだから、細けえことは気にしないんだろう」「これぞ男の世界だ!」と、勝手に盛り上がっていた。

そんな我々の気配を察知したのか、案内してくれた保坂さんがボソリとこう言った。

「こう見えて、1/100mm単位の精度で作るんですよ」

「また、冗談でしょう……?」

いや、決して冗談ではなかった。保坂さんは続けてこう言った。

「船の航行って、バイクやクルマで言えば、1か月間、スロットル全開のまま走り続けるようなものなんですよ」

「そっ、それはすごい!」

突然、リアルに船舶エンジンの過酷な使用状況が伝わってきた。凄まじい轟音とともに、2m以上のストロークで激しく上下動する直径約60cmのピストン。回転数は100rpmと、クルマやバイクのアイドリングに比べても10分の1程度の超極低回転だが、何しろストロークは2mだ。巨大ピストンが行ったり来たりする様子を想像しただけでも、タダゴトではないことが分かる。

「しかも」と保坂さん。

「最近は、不景気のあおりで低燃費を求める顧客が多い。だからエンジンも、より低回転化が求められています。でもゆっくり回すのって、実は結構難しいんですよ」

船舶エンジンにも排ガス規制が課せられており、NOx(窒素化合物) などの放出はできるだけ抑えなければならない。しかし、2ストディーゼルでは、燃費向上のために燃焼効率を高めるほどに、NOxが多く排出されてしまうという特性がある。

「低燃費と排ガス規制とのバランスの取り方が、非常に難しいんです。最近の船舶エンジンが高度に電子制御化されているのも、そういった理由からなんですよ」

船舶の世界では、燃費を「リッターあたり何km」などと悠長な計算をしない。ずばり、「一航海あたりいくらかかるのか」だ。巨大タンカーなどでは、40日の航海で2億円近い燃料代がかかる。多少時間がかかっても構わないから、少しでも燃料代を安く抑えようとする。そのためにエンジンの精度を高め、制御を高度化する。これはあくまでも、シビアなビジネスなのだ。

今はメカニカル面の進化よりも、電子制御の進化が著しい。そして求められるのは低燃費・高効率・環境性能。資源が有限な地球にいて、内燃機関を動力源とする限り、船もバイクも向かう先はまったく同じだ。

【どデカくても精度は1/100mm単位】バイクとしては最大ボア(ピストンの直径)を誇る1199パニガーレと言えども、船舶エンジンのピストンの前ではチビッ子。しかも高精度で作り込まれているから恐るべし、だ。 ※写真はともにピストンの裏側

【DUCATI 1199パニガーレSトリコローレ 2013】量産市販車では最大ボア(2013年当時)となる直径112mmのピストンを有する、最強の2気筒スーパーバイク。ストロークは60.8mmと超ショートで、日本仕様で135ps、本国仕様は195psを1万750rpmで発生する。

船舶用エンジンのピストンは、ボア580mm、840mm、960mmなどが一般的。最大級のものでは980mmとほぼ1mだ。裏側にはオイル孔が多数空けられている。ストロークは約2400mmから3000mmにもなる。最近では低燃費を狙ってロングストローク化が進んでいる。船の大きさやニーズによって気筒数はさまざまだという。

【コンロッド】ウソのような大きさのコネクティングロッドがずらりと並ぶと、完全に感覚がおかしくなる。しかも大きいだけではなく、美しく研磨されており、見応えアリ。

【ピストン&ロッド】ピストンロッドが装着されたピストン。ストロークが長く、コネクティングロッドだけでは足りないため、ピストンロッドで延伸する。

【ピストンリング】すさまじくデカく、ブ厚いピストンリング。役割はバイク用エンジンとまったく同じだが、あまりに頑丈。人力ではビクとも動かない。

【パーツ名はなじみ深いが……】 右上:エンジンを試運転するための制御盤。スロットルは5段階。/右中:巨大だが形状はバイク用とほぼ同じクランクシャフト。/右下:シリンダヘッド部分。スタッドボルト穴が周囲に空く。/左:スーパーチャージャーとターボチャージャーを装備。ツインチャージャーなのだ。

【見る物全てが新鮮】右上:シリンダーヘッドの外側は、燃料・潤滑油系のオイルラインが複雑に張り巡らされている。/右中:煙突ではなくシリンダー。消耗品で、10年ほどで交換するという。/右下:クランクシャフト(中央オレンジ)からプロペラ(スクリュー)へと出力。これは試験用。/左:ワタクシただいま、クランクケース内にしゃがんでおります……。

【巨大エンジンは分割式で、下から積み上げて組み立てる】船舶用エンジンの組み立ては、バイク用エンジンのようにひとりでよいしょ、というワケには到底いかない。工場には大物用の積載量80~130トンの天井クレーンが6台設置されており、クランクケース、クランク、シリンダーロワーケース、シリンダーアッパーケースというように下から順に積み上げていく。スタッフの数は意外なほど少なく、作業は効率よく素早く行われている。

【このような状態でマウントする ※模型】デカすぎて全容が分かりにくい船舶用エンジンだが、模型だと少し見えてくる。船の進行方向に対して縦置きされたエンジンの出力は、クランクシャフトを介してプロペラへ。高さは10mオーバーだ。

【完成品はクレーンで運び出す】大きいものだと工ンジン単体でも2000トンを超える。あまりに重いが、それを持ち上げて運んでしまうクレーンがあるのもまたスゴイ。高圧の圧搾空気を使いホバークラフト状態で運搬するメーカーもあるとか。

↓後編に続きます↓

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高橋 剛

高橋 剛

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カート上がりのバイク野郎。心震わす原稿が得意で、あのスポーツ名門誌・Sports Graphic Numberにも寄稿したりしなかったり。セッティングさえ出れば怖いものなしの隠れ文豪。