〈連載〉青木宣篤の上毛GP新聞

青木宣篤 令和2年の特別激白「僕が語り続ける理由」〈後編〉

  • 2020/4/14
青木宣篤 令和2年の特別激白「僕が語り続ける理由」

今日も青木宣篤は、世界のどこかで語っている。バイクについて、レースについて。人に向かって語り続けている。その原動力はいったい何か。何が口を開かせるのか。自分でも知らなかった自分の素養。信じてくれる人たち。そして…。今、青木宣篤が激白する、テストライダーとしての半生記・後編。

●監修:青木宣篤 ●写真:高橋剛

分かってもらえないなら、分かってもらえるまで伝え続けるしかないんだ

前ページより続く)

エンジニアにはエンジニアの目標があって、少しでもタイムを上げようと思って開発している。だが、新しい仕様のパーツをつけて一発でOKということはほぼない。理論と現実の間には、必ず乖離が生じる。これはもう、必ずだ。

たとえばエンジン。机上では出力がアップしてキレイなパワーカーブを描いていても、車体を加速させるためのトルクがキレイに出ていなかったり、スロットルワークに対してわずかに遅延したり過敏だったりする。

解析技術やベンチテストではまったく見つけられないぐらいの、わずかな弱点だ。だが、そこを直せば確実にいいエンジンになる。せっかくのパワーがより有効に生かせるようになるのだ。

ある時、さまざまな走り方をしながらエンジンのテストしているうちに、プラグの点火状況に気付いたことがある。

…いや、1分間に数千回転以上回るエンジンで、1発1発のスパークなど感知できるはずがない。だが、パーシャルで旋回した時、点火にごくごくわずかな波打ち感があり、走りに影響していることが分かったのだ。

「ホントかよ」という話だ。しかも、自分が分かるだけではまったく意味がない。リアリティをもってエンジニアに的確に伝えるのが、ワタシの仕事だった。

「どう表現すれば分かってもらえるかな……」ずっと考えている時、何気なくテレビを観ていたら、オーディオについて解説していた。コンデンサは、蓄電により増幅しているらしい。蓄電が十分ならボン、ボンと低音が効くし、不十分だとポン、ポンと肩すかしの音になる、とのことだった。

「これだ!」と思った。エンジン回転数のわずかな波打ち感は、蓄電不十分で肩すかしになってしまった低音に似ていて、力強さが足りないのだ。あくまでも例えだし、的確なのかどうかも分からない。でも、自分の感じたものを表すにはピッタリだった。

さっそくエンジンが波打つ現象をコンデンサに例えてレポートを書いたら、エンジニアに「イメージできたよ!」と喜んでもらえた。そして改善策を練ってくれたのだ。

そんなことを繰り返しながら、「そうか」とワタシは思った。「バイクの挙動を感じ取ることは、テストライダーの最低条件だ。大切なのは、エンジニアに伝わるまで伝えることなんだ」と。分かりにくいことを、分かってもらうために工夫するのが仕事だ、と。

自分が100%分かっているとも思わないし、100%正しいとも思わない。でも、間違っているわけでもない。ブリヂストンのタイヤテストでは伊藤さんとインプレッションが食い違ったが、どちらかが正解なのではなく、どちらも正解なのだ。

そんな経験があったから、ワタシは自分の感覚を信じることができた。それをできるだけ分かりやすいレポートにまとめた。

そういったことの積み重ねで、テストライダーとしてのワタシは少しずつ信用してもらえるようになった。信用が得られれば、こちらもセンサーを全開にできる。

こんなこともあった。今ほど空力が注目されていなかった頃、「ラジエターのまわりに空気が溜まって、接地感が薄まってる」と感じたのだ。ちなみに空気の抜けがいいと適度なダウンフォースが感じられる。いずれにしてもごく微小だが、テストライダーとしては看過できないものでもあった。

「ラジエターのまわりに空気が溜まって接地感が薄まる」なんて、それこそ「はぁ?」と疑いたくなる話だ。だがスズキのエンジニアたちは大マジメにワタシの話を聞いてくれた。ワタシもうれしくなって、より分かりやすいレポートを書くよう頑張った…。

自分のどこにそんな素養があったのか、まったく分からない。人生というのは本当に面白いものだ。でもワタシはバイクという素晴らしい乗り物で自分が感じたものを人に伝えるのが好きだし、もしかしたら少し得意なのかもしれない。

相手がエンジニアならバイクの挙動を、レースファンの皆さんならレースの魅力を、伝える。伝わらないなら、伝わるまで伝え続ける。それが自分の使命だと、今は思っている。

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