MotoGPのドーピング検査はオリンピックに準じている

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.25「ドーピングよりも、信頼できる仲間づくり」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第25回は、モトGPにおけるドーピング検査の話から、仲間づくりの話へと進んでいきます。

TEXT:Go TAKAHASHI

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新年早々に二日酔いでダウン……

皆さんはどんなお正月休みを過ごしましたか? 僕はここ数年の恒例、ロリス(カピロッシ)や家族、友人たち15人ほどでの「年末カウントダウンパーティー」でかなり盛り上がりました。

イタリアの別荘がある街のレストランでのパーティーでしたが、日本と同じように30秒前ぐらいからカウントダウンをして、年が明けた瞬間に乾杯! それから午前2時半ぐらいまで飲んで、語って、踊っている人もいて、それはそれは気持ちよく酔っ払いました。

男性グループ、女性グループ、そして子供グループに分かれて、とにかくしゃべるしゃべる!(笑)大人はイタリア語、子供たちはフランス語で、もはや何が何だか分かりません。翌日──つまり元日は、もちろん新年早々の二日酔いでダウン。ロリスとスキーに行く約束でしたが、完全に寝てました……。まぁ、新年ぐらいそんな過ごし方もいいですよね?

ロリスとは先週の金曜日も一緒にディナーを食べました。ロックレーシングというサイクルウエアブランドを紹介してもらったりしましたが、ロリスは主に電動アシスト付きMTBで楽しんでいるようです。オフロードが本当に好きみたい。

ロックレーシングの自転車用ウエアです。

そういえば彼はこの1ヶ月で6kg痩せたんですよ!「友達とどっちが痩せるか賭けたんだ。食事は朝にシリアルバー、夜にヨーグルト。それだけであっという間さ」なんて言ってましたが、ホント、スッキリしてましたね。

ロリスとは本当に一緒に過ごす時間が長いし、妙によくしてくれるんですよ。献身的と言ってもいいぐらい気を遣ってくれるのは……、やっぱり過去の“あの”出来事に対する負い目、引け目があるんじゃないかなぁ? 僕は全然気にしてないのに、勝手に気遣ってくれるのはありがたいことです!

ステロイドは、あまり意味がないと思います

彼はMotoGP安全委員を務めているので、レースの話もたくさんします。最近僕たちの間で話題になったのは、アンドレア・イアンノーネのドーピング疑惑。ステロイドの陽性反応が出たということですが、イアンノーネは薬物使用を否定しているそうだし、真偽のほどはまだ分かりません。

僕も現役時代、ドーピング検査を受けてました。’95年は1シーズン中に5回ぐらい検査がありました。レース後、パルクフェルメ(車両保管のために定められた場所)にマシンを止めてからず~っと、監視の人が付きっきりになります。尿検査なので、まぁその、おしっこするのを待ってるってことですね。

ところがレースでは汗をたくさんかくので、そんなにすぐトイレになんか行きたくならない。仕方なく水をがぶがぶ飲んで、ひたすら待つことになります(余談ですが、おしっこをしているところは違法行為がないように全部見られてしまいます……)。

ドイツ・ニュルブルクリンクでの検査の時は、焦りました。レースが終わってフライトまで時間があまりないので、頑張って水を飲んで飲んで、小1時間待ってようやく出るものが出て、検査もOKということで「よしっ!」と空港に急いだら、その頃になって逆におしっこしたくてしたくてたまらなくなり、パーキングを見かけるたびにメカニックが運転してくれていた車を止めては股間を押さえて「トイレ! トイレ!!」と駆け込む始末。まるでマンガみたいでした(笑)。

イアンノーネといえば、2019年モトGP第17戦オーストラリアGPでは一時トップを快走して周囲を驚かせた。アプリリアRS-GPの戦闘力は着実に向上している模様。

もちろん僕はドーピングなんてしていなかったので検査に引っかかったことはありませんが、風邪薬などを飲む時は気を使っていました。レースウィーク中はクリニカモバイル(サーキットの移動診療所)のドクターが出してくれる、問題ない成分の薬を飲んでました。

僕の現役時代はGP独自のドーピング検査でしたが、今のMotoGPはオリンピックのルールに則っての検査だからもっと厳格で大変。いきなり家にやってきたりするそうです。

ただ、ステロイドのような筋肉増強剤を摂ったところで、レースにはあまり効果がないんじゃないかな……。今のMotoGPは重くて速いマシンで競われているので、ハードブレーキングに耐えるためにそれなりの筋肉が必要です。速さを維持するためにある程度の筋力も必要でしょう。でも大事なのは、やっぱりテクニック。こればかりは練習と才能あるのみで、いくら筋肉があっても意味がありません。

それにモータースポーツは道具を使うので、体ひとつの陸上競技などに比べると求められるものがだいぶ違います。陸上だってシューズやウエアなどのギアが大事ですが、バイクレースの場合は勝敗に道具が占める割合は非常に大きいんです。

周囲のスタッフをいかにして味方につけるか

じゃあ、どうやっていい道具を手に入れるか。これにはまわりの人たちを味方につけることがとにかく大事。協力してくれる人、自分を理解してくれる人をいかに増やすかが大きなカギになります。

僕は現役時代、ファンやメディアの皆さんには冷たくしてしまっていたんですが(今となっては謝るばかり……)、スタッフとの関係は密で、信頼し合っていました。一緒に食事に行ったりしてたくさんの時間を過ごし、僕はスタッフを、スタッフも僕を理解するように務めたんです。

もともと僕は決してクールな人間じゃなくて(笑)、信頼できる人とともに過ごす時間は大好きです。だからスタッフとわいわいやったのも、「レースでよりよい道具を手に入れるため」というより、基本的に好きだったから。それが結果的にレースをうまく運ばせるために大切な要素だった、という感じです。

そんなこんなで年明けの5日まではイタリアの別荘で過ごしましたが、結局まだスキーはしていないんですよね……。今じゃもうすっかり娘たちにブチ抜かれてる始末です(笑)。娘たちはスクールでスキーを習っているので、すごく速いし上手なんですよね。ロリスもウチの娘たちにはついていけないので、むりやり直滑降でスピードを乗せています(笑)。

スキーも面白いけど、今年は雪が少なくてアイスバーンが多く、コンディションはあまり良くありません。正月休みはスキーヤーもどっと増えて衝突事故なんかも起きていたようなので、リスクを避ける意味でも無理に滑らないようにしてました。

今年はバイクに乗る仕事も増えそうなので、ケガして迷惑をかけるわけにもいきません。まるで現役時代みたいにマジメな話ですが、グランプリじゃなくても仕事は仕事。穴を開けたら失格ですよね……。

モナコではドゥカティ・スクランブラーを持っていますが、乗る時間がなかったり、天気が悪かったりとなかなかタイミングが合いません。ヨーロッパはさすがにバイクが多くて、モナコの街中でもあちこちに駐輪場が設けられていて、スクーターを中心にたくさんのバイクが止まっています。そんな様子を見ると、「乗りたいな~」と思うんですけどね。

こっちは14歳でスクーターの免許が取れることもあって、やっぱり二輪がすごく身近な存在なんですよね。モナコでも、ショップの店員さんや会社員の人たちがカジュアルにスクーターに乗って通勤してるんです。ごく一般的な通勤の足としてスクーターが使われていて、年齢や性別に関わらず幅広い人たちが走らせています。

子供たちもスクーターでの通学が当たり前。そこから好きな人がギア付きバイクにステップアップする、という図式ができているのは、日本とはだいぶ様子が違っていてうらやましい限りです。

それに、小さい頃からエンジン付きの乗り物に慣れ親しんでいるからか、ヨーロッパはみんな軒並み運転がうまい! おばちゃんなんかでもガンガン飛ばしてますよ(笑)。ただ、みんな闇雲に飛ばしているかと言えばそんなことはありません。高速道路や郊外のペースは速くても、街中に入ると意外とキッチリ速度を落とすんです。街中でつまらない出会い頭の事故をあまり見ないのは、しっかりとメリハリが利いているからでしょうね。

ヨーロッパでは駐輪場が充実しているので、バイクで出かけやすい環境もある。

……とか言いつつ、モナコではバイクに乗る機会がないまま、今週また日本に行きます。今年の初乗りは、どうやら1月19日のサーキット秋ヶ瀬でのイベントで走らせるグロムか、ポケバイの74Daijiroになりそう。どっちもちっちゃいバイク、さて、ちゃんと膝が開くかな……。

日本には1週間ほどいるので、またプライベートでプラッとテキトーなツーリングに出かけようかな。皆さんには「カッコ悪い~」と言われそうですが、セローにハンドルカバーを付けようと思ってるんです。ハンドルカバーを付けて、グローブは薄手にして操作性をキープする。きっといいはず! うん、誰に何て言われようと、ハンドルカバーを付けるぞ!

1月19日に秋ヶ瀬サーキットで行うイベントに原田さんが参加! 4輪も本山哲さんをはじめとした豪華布陣。2輪では本誌でお馴染みの岡崎静夏さんも参加ライダーのひとりに名を連ねている。

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