エンジンが高出力化し、車体や足まわりも強化されてスポーツライディングを楽しめるよう高性能化している昨今のハーレーダビッドソン。カスタムもより運動性能が向上するよう、サスペンションやホイールがモディファイされ、アグレシッブに走るためのメニューが目につく。そんなハイパフォーマンスクルーザーを好むユーザーらの「もっとハイグリップなタイヤを」という声にも応え、メッツラーが新作タイヤ「クルーズテック」をリリース。イタリア・シチリア島で行われた試乗会に、ハーレーダビッドソン専門誌『WITH HARLEY』編集長・青木タカオが赴いた。
ヤングマシンを刊行する内外出版社がハーレー専門誌「WITH HARLEY(ウィズ・ハーレー)」を新創刊し、今日から販売がスタート! 編集者もユーザーも“一緒に”ハーレーという乗り物を楽しむことをモット[…]
際立つコーナリング性能、カーブが待ち遠しい!
「METZELER CRUISETEC(メッツラー クルーズテック)」のジャーナリスト向け試乗会は、イタリア・シチリア島にて行われた。メッツラーは1863年に創立したドイツの老舗ブランドだが、1986年に同じ欧州の名門タイヤメーカーであるピレリの傘下となっている。
ピレリもまた1872年と創業が早く、二輪・四輪を問わずモータースポーツシーンで実績は輝かしい。ヨーロッパ各地で開発テストを重ね、製品化へと至るが、古くからシチリア島にも開発拠点を置く。今回は、そこへ招かれたのだ。
テストライドは、ヨーロッパのジャーナリストらと4人で、高速道路から欧州最大の活火山エトナの麓を駆け抜ける豪快なワインディングを経て、さらにウェット性能も確かめるべくサーキットへも場を移す。アイアン1200やファットボブに乗り換えつつ走るが、メッツラーの先導ライダーによって終始ハイペース。開発陣はみな熱狂的なバイク好きで、走りに対する情熱がとても強い。
情熱あふれる開発者
二輪タイヤ部門の開発責任者・サルヴァトーレ・ペニーズィ氏も、まさにそうだ。レース経験も豊富で、モーターサイクルに対する熱いパションを持っている。クルーズテック開発の経緯から聞いた。
「ハーレー乗りたちの求めるものが、変わってきました。現在はタイヤもハイパフォーマンスでなければ、満足してもらえません。以前なら、真っ直ぐな道をVツインの鼓動に揺られてノンビリ流すというのが醍醐味として考えられていましたが、いまはビッグトルクを存分に活かしつつスポーツライディングを堪能するという楽しみも重視されていることが、我々のリサーチによってわかったのです」
メッツラーにはすでに「ME88マラソン/ウルトラ」というロングライフ(長寿命)と耐候性に定評のあるクルーザー向けタイヤを発売済みだが、よりコーナリング性能に優れた新作も、ラインナップに加える必要があると決断したのだ。
果たして、乗るとすぐに納得ができた。ワインディングが楽しくて仕方がない。
気になるその性能は?
まず、コーナーエントリーでの車体の寝かし込みがスムーズで、フロント19インチのアイアン1200はよりクイックに車体が寝ていくし、前後16インチのファットボブはノーズから鋭く向きを変えてくれる。ヘヴィになりがちな旋回初期で、こんなにも身のこなしが軽いのは、タイヤに刻まれた細かな溝のおかげ。斜めに入る切り込み角を徹底追求したことで、軽快なハンドリングを実現している。
また、交互に配した前輪のトレッドパターンは、長い溝が水膜の排出性や制動力に貢献し、短い溝がタイヤの温まりやすさを高めた。冬場の走り始めはタイヤが冷えて要注意だが、クルーズテックは冷間時にも安定したグリップを発揮する。
そして、旋回中は接地面が柔らかくたわんで、路面を掴む。しっとりとしたグリップ感が乗り手に伝わり、フルバンクもまったく不安を感じない。
コンパウンドはリヤでデュアル化され、センター部はロングライフに、ショルダーはしなやかに路面を掴むよう分けて、偏摩耗も抑止。早々にステップが路面と接地してしまうバンク角の浅さが恨めしい。もっと深く寝かせても平気だ!
タイトコーナーでもグイグイ向きを変え、トラクション性能に優れるから、大排気量Vツインの強大なトルクもお構いなしにアクセルをワイドオープンできるのだから、痛快としか言いようがない。
ハイウェイでもアクセルを緩めることはほとんどなく、追い越し車線を駆け抜けた。高速コーナーでは、タイヤの剛性不足から腰砕けになって、アクセルを開けるのをためらいがちになる場合があるのは、上級ライダーならわかるだろう。
その点、クルーズテックはショルダーの剛性がしっかりあって、ハイスピードのままに旋回できたことも報告しておく。たとえば、高速道路の出口にあるダラダラと続くカーブ。猛スピードでランプギャップ通過時の衝撃吸収性にも優れ、乗り心地が良くコンフォート性に優れるのもありがたい。従来なら縦方向のバネをハードにし、ガッチリとするのがクルーザー用タイヤだが、クルーズテックは縦バネをソフトにし、疲れにくい快適なライドフィールを獲得している。
ウェット路面も強く耐候性にも優れる
そして、最後に走ったクローズドコースにはタップリと水がまかれ、濡れた路面をテストできた。専用開発のニュー・コンパウンドは路面温度が下がっていても性能を発揮しやすく、雨天時や冬の乗り始めでも高いグリップ力を維持。タフな旅の相棒として用いられるハーレーに履くタイヤとして、耐候性にもこだわったことがわかる。ウェットでも不安なく車体を寝かし込め、疲労感も少ないのだ。
グリップに余裕があるから気を遣う必要がなく、ペースを上げようともクルーザーならではの心地良さやイージーさが、このタイヤのおかげで余計に感じられた。それでいながら寿命はME88シリーズと同等を維持し、高性能を長く体感することもできる。
リア側デュアルコンパウンドでハイグリップとロングライフを両立
旋回初期の寝かし込みがヘヴィになりがちなハーレーダビッドソンも、交互に配したトレッドパターンによってスムーズで軽やか。高いウェット性能を実現しつつ、コーナリングも得意。また、リヤはスポーツバイク用に見られるデュアルコンパウンド技術が採用され、長距離走行後もセンターだけが極端に擦り減ってしまうことを抑止。均一性のある摩耗で、軽快なハンドリングが維持されるだろう。
サイズは、ハーレーダビッドソンに対応するラジアルおよびバイアスプライタイヤをラインナップ。リヤは260mmという超ワイドも設定し、カスタムにも最適だろう。
カスタムハーレーにもよく似合う!
エンジンがよりパワフルになり、足まわりも強化されたスポーツ志向のニューモデルを続々と登場させ、エキサイティングなスポーツライディングを提案しているハーレーダビッドソン。ユーザーらの間でも、エンジンの排気量をスケールアップしたり、ハイカムキットが組み込まれるなどのモディファイがおこなわれ、サスペンションやホイールをより高性能なものに交換するカスタムが昨今よく見られるようになった。そんなスポーツクルーザーにベストマッチするタイヤとして登場したのが、今回のクルーズテックと言えるだろう。
※取材協力:ピレリジャパン
●文:青木タカオ
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