バイクと戦闘機を、ゼロヨンで対決させてみたい……! 一度そう思ったら最後、もう我々は止まらなかった。無理かどうかは、やってみなくちゃ分からない。やれるだけのことはやってみようじゃないか! 純粋な男子マインドに突き動かされ、交渉、交渉、また交渉。そしてついに、航空自衛隊入間基地の門が開いた!!
●文:高橋 剛 ●写真:長谷川 徹 ●取材協力:航空自衛隊 入間基地 ●ヤングマシン2013年10月号『【超対決】バイク vs ジェット飛行機:KAWASAKI Ninja ZX-14R vs Japan Air Self-Defence Force T-4』より復刻
- 1 “一番速いバイク”が亜音速の 住人に挑む!
- 2 バイク代表はもちろんニンジャ:[陸]レシプロエンジン代表 Ninja ZX-14R
- 3 実はカワサキ製:[空]ターボファンエンジン代表 T-4
- 4 同門対決!!!
- 5 取材協力 航空自衛隊入間基地
- 6 無駄を削ぎ落とした機能美が、舞台や数値を超えた共通項だ
- 7 [編集部で手元計測]地上ではニンジャが「予想外の」圧勝![ゼロヨン・タイム比較(参考)]
- 8 [T-4]0-400m:約15秒(本誌推定)/最高速度マッハ約0.9(約1040km/h)
- 9 [Ninja ZX-14R]0-400m:9秒907/最高速度297.57km/h(実測)
- 10 ただし、T4にとって300km/hはただの通過点でしかない!
- 11 最高速度くらべ:トップスピードは戦闘機が圧巻!!
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“一番速いバイク”が亜音速の 住人に挑む!
「バイクと飛行機って、競争したら どっちが速いんだ?」
そもそもの発端は、ヨタ話の中か ら飛び出た、軽い一言だった。
いやもちろん、我々だってそれなりのオトナだ。バイクと飛行機の速さを比べたところで、意味なんかないことはよーく分かってる。今さら説明するまでもないけれど、片や陸を駆け、片や空を飛ぶ乗り物だ。両者に求められる性能や機能はまるで違うし、もちろん見てくれだってまったく違う。
でもこのふたつには、共通して我々を惹きつける何かがある。車体を傾けながら、地上を走り抜けるバイク。機体を傾けながら、空を駆け巡る飛行機。「バンクさせて旋回する」ということ以上に、このふたつの乗り物には、何か共通するマインドがある。
結局のところ、バイクも飛行機も、カッコいいのだ。老若男女、誰もが心の中に持っている「男の子」がウズウズするカッコよさ。動機がシンプルだからこそ、長く、我々を突き動かし続ける。
……突き動かされるままに、鼻息荒く航空自衛隊に直撃した。「戦闘機とゼロヨン対決させてくれませんか?」と。 バカげていると思うかもしれないが、バカかどうかは、やってみなけりゃ分からないのだ。
答えはズバリ、NOだった。そりゃそうだ。空気を猛烈な勢いで噴射させるジェット機と一緒に走ることなど、危険極まりない。しかも戦闘機の性能を暴くなんて……。「じゃあせめて、バイクと一緒に写真を撮らせてほしい」と食い下がった。
何と! それはOKだという。しかしコクピットの撮影もリクエストすると、戦闘機は機密上NG、ただし練習機のT-4ならOKとのことだった。
成果アリ! 果たして我々は、ハイエースにニンジャZX-14Rを搭載し、密かにT-4のゼロヨンデータを採らせてもらえないかとポケットにデジスパイス(GPSロガー)を忍ばせて、航空自衛隊入間基地の門をくぐった。そして格納庫脇のエプロンにて、同じ川崎重工業製のZX-14RとT-4中等練習機が、顔を合わせたのである。
それはもう、素晴らしい瞬間だった。バイクと飛行機の巡り会いは、得も言われぬ感動に満ちていた。だが出てくる言葉は「カッコいい!」だけだった。単なる男の子である。
飛行機と共に走る夢は叶わなかった。デジスパイスでのデータ採りも不可能だった。でも、それらを軽く吹き飛ばすカッコよさだった。
ああでも、やっぱり飛行機と共にバイクを走らせてみたい。そういえば戦闘機とのゼロヨン対決、航空自衛隊の回答は「絶対不可能」というより、「相当ハードルが高い」というニュアンスだったな……。純粋系夢追い男子としては、再挑戦か?(※その後、まだ実現していません)
バイク代表はもちろんニンジャ:[陸]レシプロエンジン代表 Ninja ZX-14R
・川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー製
・水冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 1441cc
・最高出力 200ps
・装備重量 266kg
練習機とはいえ、亜音速の住人。T-4と勝負するべきはバイク界の最速王だ。迷わず選ばれたのは、Ninja ZX-14R。最高性能のバイクが、いざ参る!
実はカワサキ製:[空]ターボファンエンジン代表 T-4
・川崎重工業航空宇宙カンパニー製
・IHI製 F3-IHI-30×2基
・推力 1670kg×2 (1040km/h飛行時・約1万2865ps相当)
・運用自重5640kg
小回りの効く軽量な機体による素直な操縦性、ジェットエンジンに よる優れた運動性能で、パイロット成に活用されている。アクロバットチーム・ブルーインパルスの3代目機種でもある。
同門対決!!!
航空自衛隊入間基地のエプロン地区(駐機場)に、ZX-14Rを潜入させることに成功! T-4中等練習機との勝負は、同じ川崎重工によって製造された「同門対決」。果たして実現なるのか……!?(※なりませんでした)
取材協力 航空自衛隊入間基地
池袋から西武池袋線で約40分。埼玉県狭山市と入間市にまたがる首都防衛の要衝。18個の部隊と約4300名の隊員を擁する、航空自衛隊最大級の基地。T-4中等練習機のほか、C-1中型戦術輸送機などを配備している。
無駄を削ぎ落とした機能美が、舞台や数値を超えた共通項だ
国家機密の壁に阻まれ、ZX-14RとT-4のゼロヨン直接対決はならなかった。ちっちゃなデジスパイスをセットして、データを得ることもできなかった。機内に取り付けて万一落下した場合の危険性への配慮と、やはり具体的なデータを公表することの難しさがあった。
しかしT-4は、目の前をバンバンと離陸していく。ターボファン特有のエンジン音を轟かせながら……。
チャンス! 我々が独自かつ目分量でざっくりと手元計測を敢行したところ、T-4のゼロヨンはおおよそ15秒。ZX-14Rの9秒台にははるか及ばず、ニンジャ400R(当時)と同程度、という意外な結果が判明した。
これはターボファンエンジンの特性によるもの。バイクは、2次曲線的に短時間で加速するが、ジェット機は直線的な加速が長く続く。だからバイクほどの加速度(速度の変化量)が得られず、体感加速はさほど強烈ではないのだ。
実際、T-4パイロットにしてCB750乗りの石井真幸さんからは、「離陸時の加速で言えば、バイクの方が速いような気がする」という証言が得られた(後編にインタビュー掲載)。ちなみに「着陸時の減速度はT-4の方が上」とのこと。さすがは飛行機、カーボンディスクやアンチスキッドシステム(バイクで言うABS)を生み出しただけのことはある。
冒頭に述べたように、確かにあまりに異種同士のこの対決、数値を並べたところで事実上の意味はない。しかしZX-14RとT-4を並べて、よく分かった。「目的に対して技術の粋を尽くす」というストイックさこそが、男の子マインドをくすぐる「カッコよさ」の源だということが。
舞台が陸でも、空でも、それは変わらない真理。だから我々はいつまでも、バイクと飛行機に憧れ続ける。
[編集部で手元計測]地上ではニンジャが「予想外の」圧勝![ゼロヨン・タイム比較(参考)]
Ninja 250…………15.58秒
T-4…………………約15秒
Ninja 400R………14.868秒
Ninja 1000………11.626秒
Ninja ZX-14R……9.907秒
[T-4]0-400m:約15秒(本誌推定)/最高速度マッハ約0.9(約1040km/h)
[Ninja ZX-14R]0-400m:9秒907/最高速度297.57km/h(実測)
ただし、T4にとって300km/hはただの通過点でしかない!
最高速度くらべ:トップスピードは戦闘機が圧巻!!
ゼロヨンはバイクが圧倒的に有利だが、ほどなく飛行機は離陸し、さらに加速し続ける。最高速を比較すると、戦闘機が圧勝! 音速をやすやすと突破し、約300km/hで地上を走るZX-14Rの頭上を、その10倍、3000km/hという圧倒的な速さで飛び去っていく。空気抵抗を示すCD値が0.1と言われる機体に(カウル付きバイクは0.3~0.5とされる)、20万馬力以上の超ハイパワーエンジンを搭載した戦闘機。最大出力領域では、バイクとは比べるべくもない超絶パフォーマンスを発揮する。国民の安全を守るための性能は、ハンパないのだ。
F-15イーグル=マッハ約2.5(約3060km/h)
F-4ファントム=マッハ約2.2(約2695km/h)
T-4=マッハ約0.9(約1040km/h)
B747=約950km/h
ゼロ戦=約500km/h
東北新幹線=約320km/h
Ninja ZX-14R=297.57km/h(本誌実測)
国産乗用車=180km/h(リミッター作動値)
Ninja250=158.84km/h(本誌実測)
自転車=約70km/h
スーパーカブ50=約61.7km/h(本誌実測)
ハヤブサ(鳥)=約390km/h
チーター=約110km/h
ウサイン・ボルト=約44.6km/h
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