航空自衛隊 入間基地にて中等練習機 T-4の取材を終えた我々は、さらに飛行機とバイクの魅力に共通点はないか探るべく“ライダーでもある航空自衛隊員”にインタビューをさせてもらうことに。ご登場いただいたのは、支援飛行隊安全班長を務める(当時)石井真幸さんだ。
●文:高橋 剛 ●写真:長谷川 徹 ●取材協力:航空自衛隊 入間基地 ●ヤングマシン2013年10月号より復刻
航空自衛隊入間基地支援飛行隊安全班長(取材当時):石井真幸氏
いしいまさき:20歳から飛行機に乗り始め、パイロット歴26年になるベテラン。平成元年から18年間は、戦闘機F-4ファントムを操縦していた。その後福岡・芦屋基地でT-4の教官となり、平成21年、入間基地に配属。現在(当時)は安全班々長として、航空総隊司令部飛行隊に所属する各隊の安全管理に目を光らせる。T-4でのフライトは週に3~4回、地上勤務にあたっているパイロットの技量維持のための指導を行うなどしている。バイクはいわゆるリターン組。20歳過ぎから乗り始めたが、30歳前でいったん休止。入間基地への転属を機に返り咲いた。「基地周辺は、渋滞がひどくて。主には通勤の足として楽しんでいます」
操作技術よりも重要な「冷静で正確な状況判断]
「飛行機の操縦そのものは、さほど難しいものではありません」と、航空自衛隊のベテランパイロット、石井真幸さん。「フライトゲームの操作ができれば、飛行機を飛ばすこと自体はできる」のだと言う。
実際、ただ飛んでいるだけの状態では、パイロットの技量の差を感じることはほとんどないそうだ。
「操縦技量そのものよりも、もっと重要なことがあるんです」
それは、できるだけ多くの情報を取得し、その情報をもとに総合的に状況を判断し、正しい操作をする、という流れをきっちりこなせるかどうか。そして、状況に変化が生じた時にもそれに正しく対応し、最終的な目的を達成することだ。
「パイロットの任務で大事なのは、定められたプロシージャー(手順)を正確にこなすことなんです。離着陸にしても、『速度は何ノット』だとか、『アングルは何度で進入する』など、すべて定められている。それらの決まり事をより正確にこなすことが必要です」
「しかし現実には、予定したことを阻害する要因に突き当たることも多々ある。そういう予期せぬ状況でも、正しく対処することも大切ですね。だからパイロットは、常に冷静でいなくてはならない」
航空自衛隊の戦闘機は、領空侵犯の恐れがある国籍不明機に対して、スクランブルと呼ばれる緊急発進を行い、警告する。石井さんも、数多くのスクランブルを経験したが、カッとなることは皆無だったと言う。
「よく、マンガや映画で戦闘機乗りが必要以上に盛り上がったり、『よっしゃー、やってやるぞ!』と熱くなっているシーンがありますよね? 実際にはそんなことはない。もし熱くなっているヤツがいたら、『冷静になれ! と注意します(笑)」
「熱くなる」とは、何かひとつのことに集中している状態だ。正しい判断を下すために、より多くの情報を的確に取得することが重要なパイロットにとっては、冷静さを欠くことは非常に危険なのだと言う。
3、4年前からCB750Fに乗り始めたリターンライダーである石井さんは、「バイクも同じだと思いますよ」と笑う。
交通の流れを読み、天候や路面状況をしっかりと認知し、それらの情報を正確に判断して、正確な操作を行う。そして、失敗すれば手痛いしっぺ返しを食らう。飛行機とバイクに共通項は多い。
操縦感覚そのものに関しては、「まったく別ですが……似ているところがないこともないかな」と石井さんは笑う。
「基本的にはどちらも傾けて曲がる乗り物ですからね。縦Gが中心という感覚も似ていると思います。スキーなんかも同じですよね。……でも、やっぱり別の乗り物かな(笑)」
整備した飛行機の確認をするために、整備員を後部座席に乗せて飛ぶことがある。気分が悪くなった時のために、エチケット袋を用意するのだが、バイク乗りの整備員はたいてい「大丈夫、大丈夫」と言い、そして気分が悪くなるのだそうだ。
「結局は、慣れなんですよ。船だって最初のうちは酔うけど、慣れてしまえばどうってことはない。同じです」
「別の乗り物」と言いつつ、「練習機のT-4は、250ccバイクのように軽快。ロールさせた後もピシッと止まる。戦闘機であるF-4は、ビッグバイクのような重さがあって、動きを止めるのが難しい」と例えるあたりは、さすがにバイク乗りだ。
そして「重いということは、思い通りに操りにくいのですか?」というこちらの問いに対して、「いえ、思い通りにします」とキッパリ。プライドと自信を覗かせる。
飛行機とバイク、どちらを操縦する時も石井さんは、「言われた通りに、言われたことをやる」。
「大型2輪免許を取った教習所でも、言われた通りに操作しましたよ。「一本橋を渡る時は、3000rpmまで回数を上げれば落ちないよ』と言われて、その通りにしたら飛び出しそうになったりとかね (笑)」
人一倍の安全運転を心がけているのも、飛行機とバイクに共通する。
「自衛隊には『安全会議があって、毎月1回、安全教育を行っているんです。私は今、そこで指導する立場なんですよ。だからバイクでも不安全じゃマズイ。『口先だけじゃないか』と言われてしまいますからね(笑)」
今回取材した飛行機:中等練習機 JASDF T-4
信頼性と整備性に優れた純国産の練習機。プロペラ機での訓練を終えたパイロットがジェット機の基本操縦を学ぶ。運動性能は高く、’95年から航空自衛隊の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」でも使用されている。
もっとスゴイのもあるぞ!:JASDF F-15
航空自衛隊の主力戦闘機として、全国の基地に約200機が配備されている。優秀な基本設計をベースに、レーダーなどの電子機器や搭載装備が近代化され、トップクラスの実力を有する。
JASDF F-4
ファントムのニックネームで知られる戦闘機。F-15が導入されるまで、主力戦闘機として防空の要を担った。高性能カメラなどを搭載した偵察型のRF-4Eは、災害対策の支援にも活躍している。
ライター・高橋剛の「バイク×ヒコーキ」:見てくれだけじゃない カッコよさの本質
入間市在住(当時)のオレは、毎年11月3日、自転車で入間基地の航空祭に行く。そして、バイク乗りたちが大挙して押し寄せ、バイク駐輪場が満車になってあふれるサマに、例年驚かされるのだ。
航空祭に訪れるライダーのほとんどが、きっと映画「トップガン」を見たはずだ。トム・クルーズが操るGPZ900R & F-14は、「バイク×戦闘機」という男の子の憧れがモロにイメージ化されており、あまりにも強力な吸引力を発揮した。
バイクと飛行機。ひたすらカッコいい。しかし今回の取材を期に航空自衛隊員の方たちと交流するようになり、このカッコよさがイメージや見てくれだけのものではないことを痛感している。
彼らは「国を守る」という強い使命感のもと、任務にあたっているのだ。有事の際には、現実に命を賭して空へと舞い上がる。実際、領空侵犯に対応する戦闘機の緊急発進(スクランブル)は、昨年度(2012年度)で567回。1日1回以上の頻度だ。
バイクも飛行機も、舞台は違えど非日常に身を置くという点で共通する。そこに得も言われぬカッコよさがあるのも確かだ。しかし、バイクは趣味、航空自衛隊は任務。いつまでも「趣味としての非日常」が楽しめる平和が続くことを……。
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