第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

コーナーは早寝早起きが大切

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.9 「普通のライダーでもMotoGPライダーでも、基本は同じです」

  • 2019/5/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第9回は、インストラクターとして「何が基本中の基本なのか」をお話した件について。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

ハイレベルなMotoGPで20歳がポールポジション

アメリカズGPでは23歳のアレックス・リンス(チームスズキエクスター)が勝ちましたね。スペインGPでは20歳のファビオ・クアルタラロ(ペトロナスヤマハSRT)がポールポジションを獲るし、レース後のテストではトップタイムだし、若手が元気なのはレース界にとってすごくいいことだと思います。若手が活躍してくれると、単純に面白いですしね。

クアルタラロはもともと鳴り物入りでモト3に参戦してきたライダーです。’15年の開幕当時、彼はまだ15歳でしたが、実力は折り紙付きでした。本来は16歳以上でなければモト3には参戦できないのですが、主催者のドルナがレギュレーションに特例を設けて彼が参戦できるようにした、というエピソードがあるほどです。

ところがモト3は2シーズンで2位表彰台が2回、モト2は2シーズンで優勝・2位表彰台とも1回ずつと、大きかった期待ほどの成績は残せませんでした。そんなクアルタラロでしたが、モトGPでは開花しましたね! スペインGPでポールポジションを獲得した時は20歳と14日で、最年少記録を達成。マルク・マルケス(レプソルホンダ)が’13年に成し遂げていた20歳と63日を塗り替えました。

Quartararo, Spanish MotoGP 2019

Fabio Quartararo / Photo:Petronas Yamaha SRT

モト2でもうひとつだったクアルタラロがモトGPで開花した理由のひとつは、ステップアップのしやすさがあると思います。今のところモト2にはトラクションコントロールが禁止されており、モトGPはOK。モト2からステップアップした若手が活躍できるのは、電子制御の恩恵が確実にあると思います。

僕の頃は大変でしたよ(笑)。2スト250ccから2スト500ccの乗り換えは超がつくほどシビアだった……と思います。レーシングライダーとしては与えられたマシンを乗りこなすのが当然なので、実はシビアかどうかなんてあまり意識してませんでしたが(笑)。当時は電子制御といっても良くてマッピングを2つから選べた程度。それも点火時期が少し変わるぐらいのものでした。トラクションコントロールなんて皆無です。「トラコンの『ト』の字はどこですか~?」「切らしてます~」ぐらいのもので、影も形もありません。だからスロットルを開ける時は慎重にしてました。

……なんて話をすると、「やっぱり4スト1000ccのモトGPマシンより2スト500ccマシンの方がスゴイんだ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありません。確かに4スト1000ccは車重があるから滑り出しも穏やかに見えますが、パワーはハンパなくて加速力も猛烈で、しかも車重が重い分ブレーキングもハード。体力的には信じられないほどキツいと思いますし、テクニックもハイレベルです。

まぁ、いつの時代でも、どんなバイクでも、4スト1000ccでも2スト500ccでも速い人は何に乗っても速い!(笑)才能……と言ってしまうと身も蓋もないでしょうか? でも才能は間違いなくあって、ひとつはバイクの動きを感じ取るセンサーが鋭いこと、そしてもうひとつは走らせ方でしょうか。結局のところバイクを速く走らせるには、早く向きを変えて早く立ち上がること、これに尽きます。ちゃんと減速して、素早く向きを変えて、いち早く加速する。この基本は、4スト1000ccでも2スト500ccでも変わりません。もちろんパッケージによって多少の違いはありますが、基本的には同じと言っていいと思います。

皆さん、僕よりもコーナリングスピードが速いんですよね……

タンデムで、インカムを使って走りながら原田さんが解説してくれる。これは嬉しいこと間違いなし!

ちょっと興味深かったのは、5月12日に行われた「BMW Motorrad Circuit Experience in 袖ヶ浦」でインストラクターを務めさせていただいた時のこと。参加者の皆さんの方が、僕よりもコーナリングスピードが速いんです!(笑)ただしずっとバイクが寝ているから、なかなか立ち上がり加速に移行できないようでした。

皆さん「思い通りのラインを通れない」と悩んでいたようですが、簡単に言えばコーナリングスピードが高すぎてはらんでしまっているんですね。そしてバイクを寝かせることで曲がろうとしているから、バンク角が深く、寝ている時間も長くなる。そんな状態でアクセルを開けてしまうから、余計に危ない……という悪循環に陥っていることが分かりました。

僕がお話させてもらったのは、「スピードを落とすべきところでキッチリ落とす」ということです。つまりはブレーキングですね。ブレーキングでしっかりと車速を落とすことが、まず大前提。車速が落ちればグリッと向きも変わりやすくなりますので、バンク角を深める時間も短くて済みます。早めにバイクを起こして、安全に立ち上がりの加速に移れる、というわけです。これはもう、一般の皆さんでもモトGPライダーでもまったく同じ。基本中の基本です。

「ホルヘ・ロレンソみたいにコーナリングスピード重視のライダーもいるよ」とお思いかもしれません。確かに彼のコーナリングスピードは速いから、多少は大回りしています。でも、彼の走りをよ~く観察すると、やはり立ち上がるまでにしっかりと向きが変わっていて、なおかつマシンは起こしているんです。速く走るための基本は、旋回速度重視のロレンソでも変わらないということ。皆さんもサーキットを走る時には「しっかり減速し、早寝早起きしてからの、立ち上がり加速」という原則を意識しながら、安全に楽しんでくださいね。

テイスト・オブ・ツクバにも顔を出しました

永井康友さんレプリカのFZR400と原田さん。当時を知るファンなら涙なしには見られない?

「サーキットを楽しむ」という点では、5月11日に顔を出させてもらったテイスト・オブ・ツクバも盛り上がってましたね! 僕は永井康友さんレプリカのFZR400で参戦した亀作和哉くんの応援がてら行きました。永井さんも亀作くんも、SP忠男レーシングチーム時代を一緒に過ごしたレース仲間です。ふたりとも僕より年上だけど、めちゃくちゃ仲良く遊んでました(笑)。永井さんが亡くなったのは、’95年、スーパーバイク世界選手権のアッセン。その頃は僕も世界GPを戦っていて、顔を合わせるのも年に1回あるかないかぐらいだったので、いまだに実感がないというのが正直なところです。どこかでまた会えるだろう、ぐらいの感じかな……。

テイスト・オブ・ツクバでは、皆さん古いバイクを大事にしていて気持ちよかったですね。しかもレースのレベルは高くて、なかなかの見応えでした。せっかく趣味で楽しむためのレースなんだから、自分の好きなバイクで走るのが1番! 亀作くんの永井さんなりきりレプリカもかなりのレベルで注目を集めてたし(笑)、思い思いの楽しみ方があっていいと僕は思います。

そうそう、「思い思いの楽しみ方」と言えば、個人的に今ものすごく盛り上がっているトライアル熱! 先日はプラッと千葉・印西のトライアルコースを見学してきました。小山知良くんや伊藤勇樹くんも練習に来るそうで、僕も早くやってみたい!(けど忙しくて時間がない……)6月8~9日にツインリンクで行われるトライアル世界選手権にはヤングマシンの取材も兼ねて行こうと思ってます。やるのも楽しみだけど、観るのも楽しみ~!

原田さんの地元近くにある、千葉・印西のトライアルコース。トライアル世界選手権の観戦も楽しみ!

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。