アメリカ大陸を縦横無尽に駆け抜けたサンダンスZAK柴崎氏が、自らの経験からロングライドには何が必要かを考え理想形を徹底追求し、誕生したのが「スーパーXR-TCトランザム(Super XR-TC Trans-am)」だ。快適でありながら、ハーレーらしい味わい深さも同居する。
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:磯部孝夫 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
大陸横断を前提としたホットロッドツアラー
心地良いVツインの鼓動を堪能しながら、快適な移動をいま愉しんでいる。目の前の景色は一瞬にして後ろへ吹っ飛んでいくが、身体も気持ちも何事もなかったかのように、シートの上で悠々たる状態のままリラックスしきっている。
ステップボードにある両足の位置は無意識に投げ出したかのようで、きっとリビングのソファに腰掛けていても、膝の角度や股の開きは変わらないかもしれない。違うのは両腕でハンドルバーを握っていることだが、それも肩に余計な力が入らず、自然に構えることができている。
あるはずの走行風を確かめたくて、ウインドプロテクションの及ばないフェアリングの外側へ身体をはみ出してみようと立ち上がると、頭部から上半身への空気抵抗が凄まじいことが改めてわかる。
全身を守る整流効果に優れるカウルは、サンダンスZAK柴崎氏がアメリカ大陸を幾度もなく横断し、縦横無尽に走り抜いたことで開発設計/完成に至った。
その名はトランザム。トランスアメリカ、つまりアメリカ大陸横断だ!
11月から春にかけた極寒期にロッキー山脈を越えるなど、赤道一周以上に及ぶ4万6000kmもの距離をヘリテイジで走ったZAK柴崎氏が米国で感じたのは、日本のツーリングとは次元の違う過酷さであった。広大な大地を走り続けるためには、ライダーの疲労低減はもちろん燃費性能も向上しなければと考える。
テキサスやオクラホマでは、5ガロンタンクを満タンにしても次のガスステーションに辿り着けない。鈴鹿8耐やデイトナのバトル オブ ツインなど一線級のレーシングシーンでマシン開発に打ち込んできたZAK柴崎氏は、ロードレーサー譲りのエアロダイナミクスをグランドツアラーで追求したのだった。
こだわったのは、誰が見てもハーレーだとわかるシルエット。”ヤッコカウル”と呼ばれるバットウイングフェアリングのフォルムを活かしつつ、ロングライドのためのハードサドルケースもそのままに、空気抵抗を極限まで減らした流線型フォルムを採り入れている。
2000回転以下からでもドコドコドコっとトルクがみなぎるエンジンは、「スーパーXR-TC」と名付けられた空冷45度Vツイン。OHV2バルブで、2本のカムシャフトを腰下に配置するツインカムエンジンは、それぞれにFCRキャブが与えられ、排気量は2030ccにまで拡大された。車体の右側に2つのエアクリーナーが張り出しているが、内ももに存在を感じるのは足を地面に出したときだけで、走行中は一切気にならない。
クルージング領域となる3500回転以下では、ハーレーのビッグツインらしい穏やかさ、味わい深さを伴いつつも従順かつ応答性に優れ、中高回転では図太いトルクフィールをそのままにパワーがよどみなく盛り上がっていく。その加速は強烈としか言いようがない。
ネック角を6度寝かし、抜群の直進安定性を見せつつも、コーナーを迎えるとスムーズに車体が寝ていくのも舌を巻く。4ピース構成のアルミビレットホイールを前後足まわりに履き、バネ下重量を飛躍的に軽減した上に、17インチ化されたフロントがクセのないニュートラルなステアリングフィールを生み、ツアラー然とした見た目からは想像のできない軽快なハンドリングとなっているのだ。
そしてビッグツインでありながら、ドライブチェーンがスポーツスター同様に車体の右側に配置されていることも特筆すべきだろう。リヤは18インチ化され、260mmの超ワイドタイヤを備えているが、チェーンラインを合わせるためにプライマリーケースを左へオフセットするという手法は採られていない。走行中に左に偏るという悪影響が出てしまうからだ。
これを避け、ファイナルドライブを車体の逆にレイアウトし、細くても耐久性の高いチェーンをフレーム外側に通す。たとえライダーが両手を離しても真っ直ぐに走り続けることができる高い直進安定性を獲得した。
剛性の高いシャーシは、ソフテイルフレームをツインショック化した独自設計によるもので、もはやタイヤやLED端子以外のすべてのパーツがサンダンスオリジナルで構成されていると言っていい。
コブラスタイルのアルミ製バイパータンクは戦闘的かつ女性的なラインで、信号待ちで目にするとそのセクシーさについ手で撫でたくなってしまう。前後フェンダー/フェアリング/サドルケースも丸みを帯びていて、エレガントかつ官能的。そのラインや隆起はどことなく艶やかで、妖美な雰囲気に包まれている。
そうした外装にリーフ柄を模した手の込んだペイントが施されているから、筆舌に尽くし難い。ゴージャスでありつつトーンが抑えられ、高貴な格式や品格とともに迫力や躍動感に満ちあふれている。
それはもうモーターサイクルの域を超えた凄みのある佇まいだが、ZAK柴崎氏の言葉の通り、誰が見てもハーレーだとわかるものであり、サンダンスによる大陸横断ツアラーFLHの究極進化系であることを主張しているかのようだ。
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