速さはある。だが、強さが足りない──。’19年型の反省を生かし、全面的な見直しを受けたヤマハ’20年型「YZR-M1」は、しかしながらライディングとのマッチングに苦しむ結果となった。前記事のヤマハモトGPグループリーダー・鷲見崇宏氏へのインタビュー続き、ヤマハ’20シーズンの戦績とライダー別の活躍ぶりを振り返る。
ヤマハ’20シーズンのランキング推移
開幕2連勝を果たしたファビオ・クアルタラロの速さは誰の目にも明らかだった。マルク・マルケスの欠場が続く中、もはや敵が見当たらない。手が付けられない速さだった。
だが、第5戦オーストリアGPでブレーキングに苦しむと、一気にスランプに陥ってしまう。激情型のクアルタラロは、いったん崩した調子を取り戻せなかった。敵は彼自身の中に潜んでいた”脆さ”だったのだ。
脆さという点では、ファクトリーチームのエース=マーベリック・ビニャーレスも同様だった。中盤に調子を崩すと、それきり浮上できずにずるずるとランキングを下げた。その一方で、冷静沈着なフランコ・モルビデリは、激しいバトルにも我を失うことなく着実にポイントを重ね、’19年型の進化版YZR-M1でランキング2位につけている。
マシンだけでもライダーだけでもタイトル獲得は成し遂げられない。ヤマハの浮沈が、そのことを改めて示したシーズンだった。
ライダー別に振り返る、ヤマハの’20シーズン
前記事にてインタビューを掲載したヤマハモトGPグループリーダー・鷲見崇宏氏が、ライダー(ビニャーレス/ロッシ/クアルタラロ/モルビデリ)別にシーズンをあらためて振り返った。
#6 マーベリック・ビニャーレス〈ランキング6位〉(モンスターエナジーヤマハMotoGP)
メインのタイトルコンテンダーとしてもっとも期待の懸かる存在でしたが、’18/’19年と抱えていたパフォーマンスの安定性不足という課題が、’20年もクリアできませんでした。我々もマシンづくりの面でサポートし切れなかったのが悔しいところ。決勝で彼本来の速さを発揮させてあげられませんでした。
彼自身は、人間的な成長が見られたシーズンでした。シーズン中は良い流れの時はもちろん、あまり良くない時も、何とかいい面を見つけようと頑張ってくれた。落ち着きを身に付けて、チーム内の雰囲気も良かったです。
しかし中盤戦以降、マシントラブルなどが彼に多く降りかかってしまい、集中を乱してしまいました。そのあたりは申し訳なかったと思っています。
それでも常に希望を失わず、ヤマハライダーとしてベストを尽くすという姿勢は頼もしいものでした。来季こそ彼のチャンピオン獲得に向け、全力のサポートを続けます。
#46 バレンティーノ・ロッシ〈ランキング15位〉(モンスターエナジーヤマハMotoGP)
ここ2年ほど「自分のマシンとして気持ちよく乗れない」という状況でしたが、’20シーズンは、序盤にガラッと変えたベースセッティングがうまく機能し、彼曰く「マイバイクが戻ってきた」と、 序盤は期待通りのパフォーマンスを発揮してくれました。
中盤以降はクラッシュが続きましたが、特に第9戦カタルニアGPなどは2番手走行中にさらに攻めての転倒。残念ですが、さらに上を目指してのことですから納得しています。
第11戦アラゴンGPを前に新型コロナウイルスの陽性反応が出て、けっきょく調子を取り戻すには至りませんでしたが、パフォーマンスはまだまだ健在。彼からのフィードバックはヤマハとしても大いに参考になります。
新しいマシンは、形になったら完成ではなく、そこからいかに煮詰めていくかが重要。スピードのある若いライダーのコメントと、経験豊富なロッシ選手のコメントの両方を参照できることは、ヤマハの大きな強みです。
#20 ファビオ・クアルタラロ〈ランキング8位〉(ペトロナスヤマハSRT)
初戦で優勝したクアルタラロ選手。遅かれ早かれ勝ってくれると確信していたので、予想通りのパフォーマンスを見せてくれました。
続けて2連勝し流れに乗ると期待しましたが、第5戦オーストリアGPではブレーキングで苦戦。ライダーの勢いとマシンとのマッチングで噛み合わない部分が出始めました。
あの時点ではそれほど深刻に考えていませんでしたが、その後かなりの成績不振に陥り、スランプに近い状況になってしまいました。
若いライダーが一度失った感覚を取り戻すのはなかなか難しい。マシンセッティングを変えて感覚を取り戻すための努力もしましたが、だいぶ時間がかかってしまいました。
最終戦ポルトガルGPは14位と結果としては振るわなかったんですが、やっと感覚を取り戻せたレースです。これでポジティブにシーズンを終えることができました。
チームもライダーもこの経験を生かし、ひと皮剥けてさらに強くなれると信じています。
#21フランコ・モルビデリ〈ランキング2位〉(ペトロナス・ヤマハSRT)
彼には唯一、サテライトAスペックに乗ってもらいました。’20年型のファクトリーマシンとは異なり、’19年型をベースとしていますが、よりよいパーツを組み込むことでパフォーマンスを高めた仕様です。
サテライトチームで2シーズン目となった彼は、’乗り慣れたマシンの強みをきちんと理解したうえで、各走行セッションでもチームスタッフと一緒にひとつひとつ積み上げていくというスタイルをさらに改善。第7戦サンマリノGPで待望の1勝目を挙げた後は、その自信を糧に常にトップ集団で戦えるだけの安定性を身に付けていました。
落ち着いて、地に足を着けて、彼本来の能力を安定して発揮し、ランキング2位まで上り詰めることができたのは、本人とチームのやり方がうまく噛み合った成果でしょう。
来季も同様にサテライトAスペックを供給する予定。安定して高いパフォーマンスを見せてくれることと期待しています。
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