バイクの性格や乗り味にけっこう影響アリ!

【Q&A】エンジンの燃焼はどうやって後輪に伝わっている?【スペック表の「減速比」と「変速比」って!?】

スペック表に載っている「減速比」や「変速比」の数字。なんとなくギヤチェンジに関係ありそうな感じがするけど……イマイチよくわからない。ドコのことを言っているのか、これで何が変わるのか? そもそも減速と変速って同じ意味じゃないの??


●文:伊藤康司 ●写真:山内潤也、カワサキ

エンジンが爆発して後輪が回るまで

バイクはエンジンがガソリンを燃やして爆発し、そのエネルギーを後輪に伝えて動いている。その仕組みを知るには、まずは「減速」や「変速」がバイクのドコの部分で行われているのかを知っておくと理解しやすいだろう。エンジンの構造や車種によって違いはあるが、次に記すのが一般的なスポーツバイクのエンジンから後輪への動力伝達方法で、その過程に「一次減速」→「変速」→「二次減速」が存在する。

シリンダー内で発生した爆発エネルギーがクランクシャフトで回転運動に変換され、その回転力をトランスミッションに伝える過程が「一次減速」。

その回転を変速するのがトランスミッションの役目で、ギヤチェンジ操作で「変速比」を選択できる。

そしてチェーンなどを介して後輪を回す際に「二次減速」が行われるのだ。

バイクの動力伝達の概念図

エンジンの爆発エネルギーが、クランクシャフト→トランスミッション→後輪へと伝わっていく

クランクシャフトに設けたギヤと噛み合うクラッチハウジングに設けたギヤのセットが「一次減速」。クラッチハウジングはトランスミッションのインプットシャフトと同軸になっている。この部分をチェーンやコグドベルトで伝達するバイクもある。

ギヤチェンジに用いるトランスミッションが「変速」。写真はカワサキのZRX1200DAEGのトランスミッションで、6速車なのでギヤが6セットある。左がインプットシャフトで、写真左上の軸にクラッチハウジングがセットされる。右がアウトプットシャフトで、写真右下の軸にドライブスプロケットがセットされる。

トランスミッションのアウトプットシャフトに設けたドライブスプロケットと、チェーンで動力が伝達される後輪側のドリブンスプロケットのセットが「二次減速」。ベルトドライブ車の場合はプーリーの歯数、シャフトドライブの場合は傘歯車を用いたファイナルドライブギヤが二次減速になる

「減速」と「変速」はナニが違う? 何のために行う?

「減速」や「変速」はエンジンが生み出した力を、効率よく後輪に伝えるために行っているが、それぞれ異なる役割を持つ。

まずは「減速」。じつはエンジンが生み出す力(トルク)は意外と小さく、そのままではバイクやライダーの重量を存分に動かすことができない。そこで減速ギヤ(一次減速)やドライブ/ドリブンスプロケット(二次減速)によって、「テコの原理」を使って回転数を下げる代わりに「回す力」を増やしているのだ。

仮にトルクを無視して、クランクシャフトから直接後輪を回すとしたら、アイドリング(約1000回転)でも約120km/hも出てしまうので、その意味でも「減速」が必要になるだろう。

次に「変速」。こちらは走るシーンや速度域に対して、扱いやすく効率の良い回転数の「守備範囲」を切り替えている。

たとえば変速機付きの自転車に乗ると、発進する時はペダルを踏む力の軽いギヤを使い、スピードに乗ってきたら徐々に重いギヤ(スピードの出るギヤ)に切り替えているはずだ。バイクのトランスミッションも意味合いとしては同じで、ギヤの切り替えは燃費や加速、最高速にも大きく影響する。

そして次に記す表のZ900RSのギヤレシオに注目。1~5速は変速比が「1を超えて」いる、すなわち減速しているが、6速だけは「1を下回り」、増速していることになる。このようにトランスミッションでは減速も増速も行うため「変速」と呼んでいるわけだ。

カワサキZ900RSの減速比および変速比。( )内の数字はギヤやスプロケットの歯数で(左=伝達される側/右=伝達する側)で表記し、割った数値が比率になる。一次減速比の51はクランクシャフトのギヤで、83がクラッチハウジングのギヤの歯数。ギヤレシオは、たとえば1速の12はトランスミッションのインプットシャフト側のギヤ、35がアウトプットシャフト側のギヤの歯数。二次減速比は15がトランスミッション側のドライブスプロケットで、42が後輪側のドリブンスプロケットの丁数。

ちなみに6速すべての変速比が1を超える車種もあるし、5~6速が1を下回る車種もあり、トランスミッションの変速比は、馬力やトルクだけでなく、回転数の上限なども含んだエンジンの特性や、バイクのキャラクターによって設定されている。

かつては定速での巡航時に燃費を向上したり音や振動を下げるために、5速または6速のトップギヤをエンジン回転数をグッと下げられるような変速比を採用して「オーバートップ」と呼ぶこともあった。

また各ギヤの変速比の間隔を詰めたモノを「クロスミッション」と呼んで、スポーツ度の高いバイクに採用。これはシフトアップ時に回転の落ち込みが少なく(加速が鈍らない)、シフトダウン時も回転差が小さく(エンジンブレーキが強く効かない)、レースやスポーツ走行に向くためだ。ところが近年のスポーツバイクの多くが、かつてのクロスミッションと同等以上に接近した変速比に設定しているため、あえてクロスミッションという表現をしなくなった。

ともあれスーパースポーツやネイキッド系、ツアラーなどバイクのジャンルによって変速比の設定はけっこう異なる。

「減速比」や「変速比」を変えることはできるの?

減速比や変速比を変更すれば、加速や最高速はもちろん、常用する回転域も変更できる。ということは乗るシーンやライダーの好みに合わせて、スポーツ度や快適度、燃費など経済性も変わるはずだ。

そこでまず一次減速だが、これはクランクシャフトに直接ギヤが刻まれる場合が多く、クラッチハウジング側も丸ごと交換しなければならないので、現実的には車両メーカーが設計段階で変更しなければ無理だろう。

次にトランスミッションの変速比の変更はケースバイケース。レース用のパーツとして異なる歯数のギヤが用意されている場合もあり(または他車種のギヤを流用)、スーパースポーツ系の車種の中には、エンジンを車体から降ろしたりクランクケースを完全に分解しなくても、トランスミッションを脱着できる「カートリッジ方式」も存在する。なので「簡単に」とは言えないが、エンジンの種類によっては変速比を変えることは可能だ。

そしてもっとも現実的なのが二次減速比の変更。チェーン駆動のバイクなら、基本的には歯数の異なるドライブスプロケットまたはドリブンスプロケットに交換すれば良いからだ(歯数によってはチェーン交換も必用)。スプロケットは消耗部品でもあるので、ドリブン/ドライブともにアフターパーツとしてけっこう充実しており、ノーマルと歯数が異なるモノも相応に販売されている。

ちなみに近年のバイクは燃費向上と騒音低下のために、二次減速比を若干小さめ(高速重視=ロング)に設定している傾向がある。そこで減速比をノーマルより少し大きく(加速重視=ショート)すると、低~中回転域で扱いやすくなる場合もある(あくまで傾向であり、乗るシーンやライダーの好みでフィーリングは異なる)。

スプロケット交換はメンテナンス作業が得意なら個人でも可能だし、バイクショップに依頼することもできるので、試してみる価値は大いにある。

スプロケット交換で二次減速比を変更できる

ドライブスプロケット(写真左)は歯数が大きいほど高速重視(ロング)になり、歯数が小さいほど加速重視(ショート)になる。反対にドリブンスプロケット(写真右)は歯数が大きいほど加速重視(ショート)になり、歯数が小さいほど高速重視(ロング)になる。


※本記事は“ミリオーレ”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

最新の記事