
首都圏からもっともアクセスのよい秘境・西丹沢。新東名高速道路が開通すればさらに身近なエリアとなり、深い山々と湖、美しいブルーの川面が人気となるだろう。ひと足早く、その深遠に触れる旅へ。
⚫︎文:田中淳麿 ●BRAND POST提供:BMW Motorrad
神奈川の奥座敷・山北町の秘境を駆け歩く
秘境という定義は本当に難しい。難しいというか、奥深い。関東平野の西端・神奈川県にも秘境と呼ばれる場所は多い。身近なところでいうと、湘南平や足柄山地、世界的に知られる箱根にだって秘境はある。人によっては「そんなの秘境じゃない」というが、実際に行ってみれば納得できることが大半だ。
真夏は気温が高いため、午前9時ごろには富士山は雲に隠れてしまうことが多い。WEBサイト「富士見予報」などを確認して向かうとよい。
秘境というのは、ジャングルに広がる未開の地ではなく、むしろ都会のなかの小さなジャングルだったりする。そういう小さな、取り残されたようなスポットにも、調べてみると、歴史や文化、すでに失われてしまった人の営みの痕跡が残っている。
大野山(標高723m)は「関東の富士見百景」にも選ばれており標柱も立っている。このエリアにやたら多い動物の彫り物はチェーンソーアートだ。
バイクはそんな秘境にたどり着く移動手段として最適だ。今回最初に向かったのもそんな場所。神奈川県の最西端・山北町(やまきたまち)だ。その山中に分け入れば、なんとも不思議な空間が目白押しだ。
大野山から望む丹沢湖周辺の景色。丹沢湖は細長く複雑な形なので全景は見られない。手前の三保ダムはロックフィル形式。
新東名高速道路の延伸/接続に向けて、ひと気のない渓谷に突如巨大な工事現場が現れたと思ったら、軽自動車1台がギリギリ通れるかという狭路が網の目のように延びている。ガタガタにひび割れた急勾配のコンクリート道路を上っていくと、まるでひと目を避けるかのように民家数件という集落が突如現れる。「こんなところバイクじゃないと来れない」と体中から汗を垂れ流してしまうような最奥の地。これが人口第2位の神奈川県に残された、今はまだ秘境とも呼ばれていない山間の僻地の実態だ。そんなどん詰まりの西丹沢を駆け、歩く旅へ。
大野山の山頂に設置されていた石造りの祠(ほこら)。安全登山を祈願するためのもので、すぐ近くには大型の方位盤も置かれている。
まさかの大野山ルート間違い
超個人的な感想を言ってしまえば、自分にとって秘境の探索は恐怖の連続であり、それを克服することが求められるという、はっきり言ってマゾヒスティックなツーリングだ。
県道725号線から狭く急こう配の山道が分岐していた。ブーツにヒル除けスプレーを吹いてから出発したが…。
西丹沢の絶景である大野山の山頂を目指し、ニーヨンロク(国道246号の愛称)から3ケタ県道に分岐してグーグルマップが示したルートの分岐点に立った時、正直「もう帰りたい」と思った。これって本当に正しい道なのかと数秒の間に反芻思考し、一瞬でぶわっと汗が吹き出してくるのを感じてヘルメットを脱ぐ。
路面のひび割れ/苔/落石。最初の300mで心が折れそうになった。
こういう時はとにかく水を飲む。迷いをもってヤバい道に進むと、立ちゴケなどロクなことがないからだ。落ち着きを取り戻したのち考えて、ここは助けを求めるべきだと判断できた。
稜線上に出たかと思ったら一面の茶畑。その先に民家数件の集落があった。
新東名の工事関係者に道路状況を聞くと、県道725号線はこの先で通行止めで、大野山へ向かうには目の前に佇む急こう配の山道を上るか、一度国道まで戻って新たなルートを探すしかない。自宅で調べたうえでのこのルートである。山道、確定。
秘境あるあるだが、なぜここに住居を構えたのかという疑問。民俗学者・故宮本常一先生の「山に生きる人びと」を読むと理解しやすい。
さて、こんな時のためのBMWR1300GS、そしてASA(オートメイテッドシフトアシスタント)である。機構上エンストすることのない相棒のおかげで、タイトな坂道を切り換えしながら少しずつ上る。
大野山への道沿いにある「地元深沢リンゴ」の看板。かつては栽培されていたようだ
カーブミラーがない、あっても機能していないブラインドカーブの上り坂は、普通に走るにはあまりに危険だからだ。油断した隙に上から軽トラックが下りてくるのが常で、これで何度逝きかけたことか(どこに?)。でだ、グーグル先生よ、なぜにこのルートを示されたのですか(号泣)。
ブラインドカーブも多い。頂上付近に農場があるため意外とクルマが多く肝を冷やす。
訪れる人が少ないからこそ自然が残されている
西丹沢の魅力は、この狭いエリアの四方八方に秘境と絶景がちりばめられていることにある。山と谷が無数に続く山峡には、大野山のような開けた絶景地もあれば、暗がりが続く幽玄の渓谷もある。丹沢湖以外には大きな観光スポットもなく、登山者や釣り人が週末に訪れるエリアというイメージだ。
大野山の東側山稜には24 時間365日の放牧を行う「薫る野牧場」がある。観光牧場ではないので車両では近づけないが、登山道「地蔵岩コース」を少し歩くと牛を間近に見られる。
大野山では山地酪農がひっそりと行われているが、これも観光牧場といった体ではない。登山道を歩いて放牧牛に近づくことはできても、施設で食事やソフトクリームをいただけるわけではない。
だからこそこれだけの自然が残っているのだろうが、現在、山中では新東名高速道路の延伸工事が佳境を迎えているのも事実。異様な空間を醸し出しつつも、今しか見られない、秘境を貫く大動脈という景観も見ておきたいところだ。
増築工事中(7月末まで予定)だった道の駅山北の駐車場から工事を見られる。
かつての森林鉄道跡を踏み、知る人ぞ知る密かな絶景へ
西丹沢の絶景といえば、まず第一に挙げられるのがユーシン渓谷のユーシンブルーだろう。ただし玄倉林道を歩くこと片道3時間、歩きの前後でクルマのようなエアコン空間もないライダーにとっては高いハードルだ。それに比べて、1時間ほどのハイキングで到達できる絶景がある。それが大又沢ダムの大又ブルーだ。沢沿いに延びるフラットな大又沢林道を淡々と歩くだけで、途中に真っ暗なトンネルもない。飲料と食料を持ち、ヤマビルやクマ対策をしっかりしておけば、ヒノキの香るすがすがしい山歩きを楽しめる。
大又沢林道は、自転車も含めて車両通行止めなので訪れる人も少ない。しかし大正から明治にかけては林業で栄えた土地で、奥地の地蔵平には集落も形成され、現在の林道上には世附森林鉄道が敷かれていた。そんな歴史や文化に思いを馳せながら歩いていると意外と時間を感じないもので、想像よりも早く到達できた。貯水池にはエメラルドグリーンに光り輝く澄んだ清水が蓄えられており、よく見ると池の底からはポコポコと地下水も湧き出している。
【1917年竣工の古参ダム秘境で人知れず碧く輝く】大又沢ダムの貯水池の美しさは、登山者/ハイカー/修験者など一部の人にはよく知られてきた。が、いかんせん車両進入禁止の林道を1時間以上も歩いてくる者は少ない。その碧さはユーシンブルーにも劣らないと評されているが、片道3時間のユーシン渓谷に比べればアクセスはだいぶマシ。晴れた日の昼前後がもっともきれいな時間帯となる。
週末の昼前後、こんなに清々しい絶景が見られるというのに、自分以外には誰ひとり訪れる者がない。そんな不議な空間にありがたみも感じつつ、35度という猛暑のなか池のほとりで水面がたゆたうさまをぼーっと見ていると、ここまでの暑さも疲れもふっとんで「来てよかったな」としみじみ思えた。秘境・西丹沢の懐の深さをまたひとつ知ることができたのだ。
【大又沢ダム】大又沢林道を約1時間、5kmほど歩くと現れる発電用ダム。1914年着工/1917年(大正6年)竣工と関東でもっとも古いダムのひとつ。当初は石積ダムだったが、改修を受け堤体などはコンクリートとなった。
歴史/文化/成り立ちなど、西丹沢を深く知るための旅
丹沢湖には玄倉川(くろくらがわ)/世附川(よづくがわ)/中川川(なかがわがわ)という3つの川が流れ込んでおり、その川沿いに3本の道路が延びているが、どれも貫通しておらず、ピストンで戻ってくることになる。また、湖岸道路は災害の影響から世附地区で通行止めとなっている区間があり、湖を一周することもできない。ゆえに本エリアを探訪する際は行っては戻るということを繰り返すことになるが、急峻な山々と変化に富む湖岸の風景が心地よく、まったく飽きることがない。縄文時代から続くも三保ダム建設の際に沈んだ世附集落とその歴史/文化、さらには伊豆半島が本州に衝突した際にできたシワとも呼べる丹沢山地の成り立ちなど、知れば知るほど興味が湧いてくる地域だ。行き止まりとわかっていながらも山の奥深くへと分け入っていく過程では、どん詰まりの秘境感ビシビシと感じられる。
【県道710号線】丹沢湖東南部の湖岸に沿って玄倉/ユーシン渓谷方面へと延びる快走路。その先の玄倉林道は車両通行禁止だが、手前の橋を渡ることで北岸の道路(一方通行)へと走りつなげる。
【丹沢湖】
西丹沢レジャーの中心であり、三保ダムの建設によって1978年に誕生した人造湖で、湖底には世附(よづく)集落が沈んでいる。相模湖/津久井湖/奥相模湖/宮ヶ瀬湖とともに神奈川やまなみ五湖のひとつに数えられ、ブラックバスやマスなど釣りが盛んだ。
【丹沢湖記念館】
丹沢湖・永歳橋(えいさいばし)のたもとにある公共施設。縄文時代中期からの土器や江戸時代の農機具などの展示を通して地域の歴史や文化/習俗を紹介している。また湖底に水没した世附地区の集落のうち、江戸時代末期の一軒家を「三保(みほ)の家」(旧渡辺家住宅)として復元、屋内では生活道具なども展示する。
【西丹沢ビジターセンター】
丹沢大山国定公園/県立丹沢大山自然公園内に位置し、登山者や入渓者に情報を提供する入山拠点として、また丹沢の自然や成り立ちについても詳しく展示/説明している神奈川県の自然公園施設。スペース自体はこじんまりとしているが、実物の展示も多く展示/説明内容の充実度が目を引き、丹沢についての理解を深められる。
丹沢で見られる岩石を集めて展示。河原に多い白い石はマグマが固まった石英閃緑岩だ。
プレートが本州に衝突したのち、伊豆半島が玉突きして誕生!?
丹沢山地の成り立ちも図解で説明されている。まず丹沢山地を乗せたフィリピン海プレートが約600年前に本州(ユーラシアプレートと北米プレート)に衝突、次に約70万年前に後追いでやってきた伊豆半島がそこに玉突きし、丹沢山地は激しく隆起して現在の急峻な山容がつくられた。
西丹沢おすすめグルメ
一休食堂
谷峨(やが)駅から200mほどの県道76号線沿いにある大衆食堂。長距離ドライバーにも人気で、シャワールームも設置する。写真はミックスフライ(920円)を定食(+400円)にしたもので、アツアツのサクサクかつボリューム満点!
食堂 ふる里
丹沢湖から北に向かった県道76号線沿いにある人気の食堂。鳥から揚げやアジフライといった定食や丼物のほか、大和芋でつないだ手打ちそばも絶品。写真はざるそばの大盛り(1050円)で、香りが良くコシが強めで、歯ごたえも楽しめた。
【今回の旅の相棒】BMW R1300GS Option719 “Tramuntama”
GS ツーリング AUTOMATED SHIFT ASSISTANT 装備
「オプション719」とはBMW のカスタム製品に使われるモデルコードで、レバーやペダルなどに高品質なビレット(アルミ削り出し)パーツが採用されるほか、専用カラーなどデザイナーオプションの装備が与えられた特別なカスタマイズモデルのこと。ゴールドアルマイト仕上げのホイールは、ツーリングASA装備のアウレリウスグリーンメタリック(写真)等の専用装備。
※写真はバリオパニアケースセットなどオプションアクセサリー装着
[SPEC]
- 全長2210×全幅1000×全高1490mm(※ウインドスクリーンハイ時)/ホイールベース1520mm/シート高820~850mm
- 車両重量:アダプティブビークルハイトコントロール装備)258kg(燃料100%時)
- エンジン:4ストローク空冷/水冷2気筒DOHCボクサー常時噛合式6段リターン/総排気量1300cc/最大出力145ps/7750rpm
- 価格:358万7000円~
※本記事はBMWが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。




















































