“ツアークロスV”に込められた思い Vol.2【アライヘルメットの歴史を振り返っても最長の開発期間。細部のディテールに愛が宿る】
今夏、アライヘルメットのツアークロスVが登場。2018年より開発がスタートし、ついに登場した新しいヘルメットには、アライヘルメットの矜持が表れていた。その開発背景などを尋ねた。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:真弓悟史 長谷川徹 高島秀吉 ●BRAND POST提供:アライヘルメット
“ツアークロスV”に込められた思い Vol.1【11年ぶりのモデルチェンジ! アライヘルメットの中で最も高級な多機能ヘルメットに!】>>記事はこちら
様々なニーズに応えるマルチパーパスヘルメット
アドベンチャーバイクに与えられた使命は多岐に渡る。ロングツーリングとしての相棒でありながら、ツーリング先の林道にも入り込めて、季節や天候に左右されずに突き進めるタフさが求められる。実際にはそう使わなくても、そんな姿に憧れてオーナーになるライダーが多い。
そして時には巨大なガソリンタンクを満タンにして、仲間とインカムで会話をしながら一気に長距離を駆け抜ける。1日に1000km走るサバイバルなツーリングをする日もあるかもしれない。どちらもアベレージは高めだ。日本でもその光景は決して珍しくはなく、用途はオーナーによって様々なのだ。
そしてそうした層のライダーは、もう1台バイクを持っていることもある。もっと気軽に乗ることのできるロードバイクだ。もしくは逆も然り。普段はロードバイクやクルーザーに乗っているが、たまにオフロード遊びをする方もいるだろう。
ツアークロスVは、そんなすべてのユーザーをターゲットに開発された。1つのヘルメットでオンロードもアドベンチャーもオフロードもマルチにこなすのだ。
「丸さの追求=安全性の追求」に終わりはない
『頭を護る』ためのアライヘルメットの哲学は、ツアークロスVでも様々なところで具現化。転倒時に頭部にその衝撃のエネルギーを極力伝えないようにするには、コンパクトであることと衝撃をかわす丸さ、そして強い帽体が必須。転倒後に地面や他車などに接触した時に、ヘルメットがストッパーになってしまわないことが大切なのだ。
近年、ヘルメットの規格が厳しくなり、帽体は大きくなりがちだ。しかし、ツアークロスVはツアークロス3よりもコンパクトになった。衝撃を受け止めない形をアライヘルメットは追求し続け、この異なる曲率を繋ぎ合わせてその形状を追求した。実は異なる曲率を繋ぎ合わせていくのは、至難の業。金型も最後は手で磨いてその曲率を繋げるのだという。
それはヘルメットだけでなく、シールドにも言えること。アライヘルメットのシールドは、よく見ると一定の曲率ではないのである。
「これまでに転倒した様々なヘルメットを見てきましたが、やはり圧倒的に衝撃を受けていることが多いのが側頭部なんです。シールドのホルダーが上にあると、転倒した際にそこが破壊され、シールドが外れ顔を守れなくなるかもしれません。だからツアークロスVでは、シールドのホルダーを下に移動して、側頭部の丸く滑らかな面積を増やしたのです」と大野さん。
帽体やシールドの異なる曲率を繋ぐのは至難の技
シールドやシールドホルダーの設計を担当した開発部の林王さんが、その場でシールドを外してみてくれた。ツアークロスVはワンタッチで簡単にシールド交換が可能。これなら天候や気分によってシールドを変えたり、バイクによってはバイザーを外したりすることもできそうだ。
「この機構自体はある程度作れると思っていたのですが、この機構を安全性を一切損なわずに小さくすることは難しかったです。機構を小さくできれば、滑らかな丸い面積を増やせます。ただ、小さくすると取り外したり開閉させたりする機構が凝縮し、強度を確保するのが難しくなります。
また、今回はシールドの視認性も確保。それでいて安全性を追求するチャレンジをしました。シールドも一定のアールで作るのは簡単なんです。アライヘルメットのシールドをよく見ていただくと、曲率が一定じゃないことが分かると思います。アライヘルメットのポリシーに合わせるためには、シールドも曲率を変化させないといけないのです。曲率の異なる部分を繋げて製品化するのは大変なのですが、作りやすさよりも安全性能、護る性能を高めることを意識しました」と林王さん。
被り心地の追求のほか、アライヘルメット初採用のサイズ調整機構を採用
確実なフィット感を出すために、アライヘルメットとしては初のサイズ調整機構を採用しているのも見逃せない。
「ツアークロス3は内装のネック部分の取り外しができませんでした。ツアークロスVは取り外しができるようにしよう、と開発。走行中の暑さを和らげるためにメッシュ素材を採用し、取り付け時にも高級感を出すためにパンチングレーザーをあしらっています。
前頭部はエアダクトの効率を下げないよう、アストロGXと同じフロントロゴダクトを採用。風をダイレクトに感じられます。またサイズ調整は、側頭部に関してはこれまで通りパッドを抜くことでフィット感を変更できますが、後頭部にも同じようにパッドを入れ、前後方向の調整も可能にしました。これはアライヘルメットとしては初採用の機構です」と開発部の赤谷さん。
インカムの装着のしやすさやフィット感にもこだわった
昨今のニーズの一つに“ヘルメットにインカムを装着する”ことがある。特にアドベンチャーユーザーはその傾向が大きい。帽体にはインカムを装着する座面を確保し、内装はホールド感と快適性、そしてインカムを違和感なく装着できることを追求した。
「ツアークロスVの特徴の一つにインカムの装着のしやすさがあります。インカムのコードを収納するポケットを左右に付け、発泡スチロールにスピーカーのポケットも設けています。さらにシステムパッドのカバーを取り外さずにスピーカーの取り付けが可能。もちろんヘルメットを被った際のスピーカーの違和感もなくしています」と赤谷さん。
女性ならではの気遣いが嬉しい、頬周りを包み込むホールド感
ヘルメットを被った際の頭や顔のホールド感は、メーカーの考え方が出る部分。ツアークロスVは長時間走行に使われるヘルメットだけに、被り心地にもこだわった。そんな頬周りを担当した女性の信澤さんが話を始めると、場の空気がふわっと柔らかくなった。
「ツアークロスVは、視野がツアークロス3から上下で2mm=計4mm広がっています。視野が広がることは良いのですが、そのぶん顔を押さえるポイントが下がってしまい、被り心地を追求するのが難しかったんです。
頬骨部分で気持ちよく押さえたいので、システムパッドのポイントを上げることで解消。だからシールドを開けて真横から見ると、システムパッドが開口部より上に出ているのがわかると思います。
また、頬よりも骨で押さえた方が痛みが出にくいんです。頬で押さえようとすると、どんどんギューッと締め付けられていきます。なので、長年にわたって培ってきた伝統の被り心地の秘伝のようなものをベースに、頬骨と顎でしっかりホールドするのです」と内装の顎周りのシステムパッドを担当した開発部の信澤さん。女性ならではの視点で被り心地を進化させる。
組み立て工場を見学して思う。ヘルメットは大切にしなければならない
僕は今回だけでなく、これまでにもアライヘルメットの開発の方や職人の方、現場の方などに話を聞いたり、作業もたくさん見せていただいた。
驚くのは皆が“ライダーを護る”という同じ目標を持ち、そこに一丸となって向かっていることだ。当たり前のようにそこに向かっているが、これはとんでもなく凄いこと。今回のツアークロスVの開発陣も同じだった。ベテランが受け継いできたアライヘルメットのフィロソフィーに若い力や女性の視点が加わり、色々なアプローチで『護ること』を進化させている。
また、今回は組み立て工場も見学。ヘルメットはすべて手で丁寧に組み立てられていく。安全性や命に直結することのやりがいを皆が共有し、作業を進めている。人の手に委ねられる部分があまりにも多いため、大量生産は難しい。これだけの人の手をかけ、情熱が込められているからこそ「ヘルメットは大切にしなければならない」と切に思う。
ツアークロスVの開発陣の話を僕はとても愛おしく聞き、現場の方々の働きをとても愛おしく見ていた。そこにある絶大な安心と信頼は、ビジネスを超えた何かを感じさせてくれる。改めて人の手の凄さを思った。
すべてを機械に委ね、同じようなカタチの物を作ることはできるかもしれない。しかし、その製品に愛おしさは生まれない。アライヘルメットの最新技術やアイデアが集まったツアークロスV。その一つひとつのディテールに宿る愛情は、やっぱり人同士が生み出すことを強く感じたアライヘルメットの本社訪問だった。
ツアークロスVのソリッドモデル(6万9300円)を見てみよう!
ツアークロスVのモデルグラフィック(7万9200円)を見てみよう!
サイズ/(54) (55-56) (57-58) (59-60) (61-62)
規格/スネル JIS
帽体/PB-cLc2
※本記事はアライヘルメットが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。