CP2エンジン搭載のスクランブラー“ファンティック キャバレロ700”を試乗!
Moto2での初優勝や欧州モトクロス選手権で表彰台を獲得するなど、レースやニューモデル投入と絶えず精力的に活動しているファンティック。そのファンティックが2022年のEICMA(ミラノショー)で発表した、ヤマハ製CP(クロスプレーン)2エンジンを採用した「キャバレロ700」を、フリージャーナリストのクラウス・ネネヴィッツ氏が試乗。ファンティック初となるツインエンジン新型スクランブラーの走りが明らかになった!
●Text:Klaus Nennewitz ●翻訳:KOJI&Co. ●写真提供:FANTIC MOTOR SPA ●BRAND POST提供:MOTORISTS
ミナレッリを介し、ヤマハとのパートナーシップ強化で誕生
2022年11月に開催されたミラノショーで、ヤマハはテネレやMT-07のパワープラントである2気筒のCP2エンジンを、ファンティックに供給することを発表した。
ヤマハ・ヨーロッパの責任者エリック・デ・セインズと、ファンティック代表マリアーノ・ローマンは、数十年来の知り合いである。ローマンがアプリリアの開発部門責任者だった1990年代、エンジン供給に関して日本とイタリアの間では活発なやりとりがあった。ローマン自身が関わってきたアプリリアとスズキのコラボレーションは、そのひとつの例と言える。
2002年、ヤマハはヨーロッパにおける現地生産戦略を進める中で、ボローニャのエンジンメーカー・ミナレッリを買収した。ミナレッリは小排気量車向けのエンジンを中心に、ヤマハのみならず多くの欧州メーカーに優秀なエンジンを供給し続けてきた。だが、買収から20年近くを経て、ミナレッリはヤマハの世界戦略に合わなくなっていた。一方、ファンティックは近年の急成長に自社工場のキャパシティーが限界を迎えていた。
互いのニーズが一致し、ファンティックは2021年にミナレッリをヤマハから買収。日本の品質管理手法などの重要なノウハウを吸収することになった。この譲渡契約にはCP2エンジンのことも書かれていたと思われるが、それは典型的なWin-Winの状況だった。
改めて見るキャバレロ スクランブラーの特徴とは
ファンティックは、1968年にミラノの北東50kmに位置するバルサーゴで生まれた。1970年代から1980年代にかけては、小排気量ながら高性能なエンデューロモデルが高く評価され、ヨーロッパ選手権をメインに実績を築き上げていった。
スペイン語で「ホースライダー/紳士/騎士/騎兵」といった意味を持つ「キャバレロ」の名前は、レースでの活躍とともに多くのライダーに知られるところとなったのだ。
しかし放漫経営がたたり、1995年にその灯は消え、オリジナルのファンティック社は破産を申請したのだ。
その後2003年に、ローマンはヴェネト地方の投資家グループとともにファンティック社を引き継いだ。会社を引き継いで1年後、他ブランドのスクランブラー販売を開始して、ディーラーネットワークを構築していき、ついに2015年にファンティックブランドを再興。
2018年のEICMAでデビューしたキャバレロ・スクランブラー125/250/500は、美しいスタリングと鮮やかなカラー、魅力あふれる走りを兼ね備え、世界中から注目されることとなった。エンジンは125ccをミナレッリが供給し、250ccは中国のZongshenが供給。500ccはファンティックが設計し、同じくZongshenに製造委託し、供給を受けている。
私(クラウス・ネネヴィッツ)は2019年秋、キャバレロ ラリー500で「Hard alpinetour Sanremo-Sestrieres」というアドベンチャーラリーに参加した。
ファンティック ラリー500がハードアルパインツアーを走破!! 標高2000mを超えるイタリアの高山を巡り、オン/オフ含めた総走行距離1000kmを42時間で走破するHAT(ハードアルパインツアー)。[…]
キャバレロ ラリー500は、オフロード向けに多めのストロークを与えられただけで、基本はスクランブラーと共有する。そのマシンで、地中海沿岸からイタリア領マリタイム・アルプスのスキーリゾートまで、36時間でオン/オフ合計1000km以上を走りきった。
本質的にオフロードモデルではないキャバレロでの走行は、サスペンションの想定をはるかに上回る負荷が連続してかかり、決して楽なイベントではなかった。
しかし、何度か大きな転倒を喫したにも関わらず、マシンは何ひとつトラブルを起こすことなく、リエゾン区間を含めた合計3000kmにも及ぶ旅路を走り切り、私をゴールまで運んでくれたのだ。エンジニアリング的にも極めて優秀なファンティック キャバレロは、デビュー以来、さまざまなバリエーションを含め2万台ほどが世界中のファンの手元に送り出されている。
だから、ミラノショーから半年後、約束どおりキャバレロ700の量産試作モデルがイタリアでテストできるようになった時、私は好奇心と期待の高まりを止めることができなかった。
キャバレロ700には最新のスポーツ性能と流麗なスクランブラースタイルが調和する
キャバレロ700は、スクランブラースタイルをまったく崩すことなく2気筒エンジンを見事にまとめ上げていて、よく見なければキャバレロ500との違いにすぐには気づかないほどだ。チーフデザイナーのリッカルド・キオージは、キャバレロシリーズのスタイリング要素を700にも適用するという見事な仕事を成し遂げたのだ。
キャバレロ700の車体は非常にコンパクトで、500よりもわずかに大きいだけだから、シートにまたがった時にも重いモデルに乗っている気がしない。700のテールラインは500に比べるとやや後ろ下がりなデザインで、150mm幅のリヤタイヤを実際よりも太く見せ、短いマッドガードとヴィンテージシェルフの円形テールライトとともに、セクシーなリヤエンドになっている。
シートに座った時に気づくもうひとつの特徴は、エキゾーストパイプのデザインだ。これまでのキャバレロは、エンジンの右側にエキゾーストパイプを走らせていたが、700はエンジン下を通るよう設計されているため、スタンディングポジションをとった時に快適なレッグポジションが得られるようになった。
同時に、エンジン下にプレサイレンサーを配置することでユーロ5に適合。吸気音とエンジン音を抑えつつ、喉の奥まで響くようなサウンドを提供してくれる。それでいて200mmの最低地上高と830mmの低シート高を両立し、700のサイドスタイリングも美しく見せる。
押し歩いた時の軽さも特筆すべきポイントだ。誰もが感じられる軽さは700の重心バランスがいいことを意味し、ファンティックのデザイナーたちの大いなる尽力はもちろん、楽しめるバイクという印象を受けるからだ。
そして、ひとたびセルモーターを回すと、スロットルを開けた途端にしびれるような加速が私を直撃した。ファンティック初のスロットルバイワイヤーが息もつかせぬレスポンスを提供し、175kgの車体を軽々とウイリーさせる74hpを発揮する。ヤマハテネレ700よりもコンパクトなフレームのキャバレロ700は、重心位置も低く、その豊かな低回転トルクを前進するためのトラクションだけに使い切ることができる。
そのフレームはライダーをリードするかのようにマシンコントロールしやすく、次々に現れるコーナーも思うがままにクリアしていける。装着されていたピレリ スコーピオンラリーSTRタイヤのグリップ力もよく、安定性も高いので、ハンドリングも軽快さと正確性を両立している。一方で、ハンドルバーの幅は広く感じ、シッティングポジションではもう少し狭いほうがさらにマシンコントロールしやすくなると思った。
サスペンションは前後マルゾッキ製で、ストローク量は150mm。フロントは倒立式φ45mm、リヤはプログレッシブレバーリンクを介して一体鋳造アルミ製スイングアームと組み合わせられる。激しいブレーキングでもフロントサスペンションは底突きすることなく、負荷のかかる高速走行や段差をクリアする際にもスムーズに反応し、快適な乗り心地を提供してくれる。
ダートではセッティングをやや硬めに感じるかもしれないが、容易に底突きさせないという意味では正しいセッティングといえるだろう。ABSとトラクションコントロールをオフにしたダート走行では、いわゆるスクランブラーモデルをはるかに超えたパフォーマンスも発揮してくれたからだ。
ちなみに、このキャバレロ700には「ストリート/オフロード/カスタム」の3種類のライディングモードが用意されているが、エンジンのパワー特性には影響せず、ABSとトラクションコントロールの設定を変更するのみ。これはCP2エンジン本来の特性とファンティック独自のフレームが、高バランスで完成している証左といえるだろう。
ただし、問題もある…
キャバレロ700は、単気筒スクランブラーが求め得られない全てを兼ね備えたマシンといっていいだろう。コンパクトで車重は抑えられ、エンジンはパワフルかつ潤沢なトルクを提供し、精緻なマシンコントロール性を実現し、ツイスティな峠でも楽しさにあふれたライディングができるのだから。スクランブラーらしい美しいスタイリングを持ちながら、純粋にスポーツライディングを楽しめるマシンを求めるライダーたちへの回答として、ファンティックが用意したのがキャバレロ700なのだ。
ただし、CP2エンジンはヤマハ内でも需要が高く、キャバレロ700は現状では1500台に満たない台数しか生産できないという。だが、ファンティックはこのCP2エンジンを真摯に扱い、ラインナップを拡充していく計画だという。当面は欧州での販売が先行されるだろうが、モータリストにより日本への導入も決定している。導入台数も少ないことが予想されるので、興味を持ったならすぐに問い合わせてみるのが得策だ。
※本記事はモータリストが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。