トライアンフ120周年……歴史を受け継いだ現代の名車たち
自動車やバイク、そしてモータースポーツの先進国であるイギリス。その中でもトライアンフは旧くからバイクメーカーとして歩み、今年で創業120周年を迎える。レースでの勝利や性能向上に向けた高い技術は世界のバイクシーンに今なお大きな影響を与え続ける。
●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●BRAND POST提供:トライアンフモーターサイクルズ
1902年から引き継がれる英国の血統
今年で創業から120年を迎えたトライアンフ。その間には幾多ものレースに勝利し、世界中のバイク愛好家に親しまれる名機を世に送り出してきた。現在ラインナップされるモデルたちも、その確固たるバックボーンに支えられている。
厳密に言えばトライアンフの前身として1885年に自転車メーカーとして創業し、勝利を意味する「トライアンフ」の社名を掲げたのが1886年だ。そして自社の自転車用フレームにベルギー製のエンジンを積んだ「FIRST TRIUMPH」が誕生したのが、いまから120年前の1902年。ここからトライアンフの快進撃が始まったのだ。
1906年には自社製エンジンを完成させ、翌1907年には早くも年間生産台数が1000台に到達。そして同年に開催された第1回マン島TTレースの単気筒クラスで2位、3位に入賞し、翌1908年には同クラスで優勝を果たした。
第一次世界大戦では3万台を連合国軍に提供し、兵士たちから「信頼できるトライアンフ」と称えられた。そして第二次世界大戦前の1937年には当時のバイク界をリードする高性能な2気筒モデル「スピードツイン」を輩出。戦後には世界速度記録を達成したり、再びマン島TTで勝利を重ね、銀幕では大スターと共演し、その性能の高さと美しさや力強さを世に知らしめた。
トライアンフの現行モデルたちは、歴代の名機の名を受け継ぐものが多い。そのヒストリーと共に、数多いラインナップを巡ってみよう。
高性能を象徴する『ボンネビル』がモダンクラシックの中心
現在、ネオレトロやクラシック系と呼ばれるバイクの中で高い人気を誇るトライアンフのモダンクラシックの「ボンネビル」。その名の由来は1950年代に遡る。
トライアンフは500ccのスピードツイン(後述)をベースに、アメリカ市場を開拓するために650ccに拡大したサンダーバードを製作した。そしてアメリカのバイク愛好家がこのエンジンをチューンナップして最高速度記録に挑戦した。現在も毎年行われているユタ州の塩湖の平原で行われる「ボンネビル・ソルトフラッツ・スピードウィーク」である。
そして1955年には時速193マイル、翌1956年には時速214マイル(約344km/h)の世界記録を樹立した。その偉業を記念して、アメリカの地名を車名に冠した「T120ボンネビル650」を発売したのだ。
こうしてトライアンフの高性能バイクのアイコンとなった「ボンネビル」の名が、2000年に登場(2001年発売)したモダンクラシックで復活。往年のボンネビルをモチーフとした、端整かつ力強いスタイルは人気を博し、他の追従を許さないモダンクラシックの雄となった。
往年のトライアンフ、中でも名車の誉れ高いボンネビルをオマージュした新生ボンネビルが2000年に発表された。そして翌2001年に発売が開始されると日本でも人気がブレイク! 空冷の並列2気筒790ccのDOHCエンジンは360度クランクを採用し、62馬力を発揮した。翌2002年にはトライアンフ100周年を記念して上級モデルのボンネビルT100が登場。さらに270度クランクを採用するクルーザータイプのボンネビル・アメリカが加わった。その後も2002年にはスピードマスター、2004年に排気量を拡大したカフェレーサースタイルのスラクストン、2006年にスクランブラーとバリエーションを拡大。そしてモダンクラシック・シリーズは2016年にフルモデルチェンジし、水冷2気筒の1200ccと900ccの2本立ての展開となり現在に至る。
『スピードツイン』は戦前の英国モーターサイクルを代表するビッグネーム
トライアンフはかつて四輪車も生産していたが、1936年に自動車部門とバイク部門が分離し、アリエル社を率いていたジャック・サングスターがバイク部門を統率。同時にアリエルで活躍していた名エンジニアのエドワード・ターナーを招聘した。
ターナーは既存の単気筒系をリファインしつつ、1937年に498ccの2気筒エンジンを搭載する「スピードツイン」を開発。このエンジンは後に排気量を650ccに拡大してサンダーバードやボンネビルに搭載され、最終的には1970年代後半のT140まで、基本的なレイアウトは変わっていない(別体式だったトランスミッションが50年代に一体式になるなど進化しているが)。
そんな経緯を持つ名車(名機)だけに、現行モダンクラシックのスポーティなバージョンにも、同じスピードツインの名が与えられたのだろう。ちなみに1994年に登場して現在に至る水冷3気筒のロードスター「スピードトリプル」も、このスピードツインをオマージュしたネーミングと思われる。
ボンネビルT120を下敷きにした公道レーサーが『スラクストン』の由来
世界耐久選手権レースは鈴鹿8時間でもお馴染みだが、その前身のひとつが1955年から始まった英国の「スラクストン500マイル」で、この耐久レースは市販車で競われた。1958年にトライアンフが優勝し、1965年にはボンネビルT120をベースとした「スラクストン・ボンネビル」も少量生産された。
同時期のイギリスではロンドンの「エース・カフェ」を中心にロッカーズやカフェレーサーの文化が栄え、彼らは「TON UP BOYS(タンナップボーイズ)」と呼ばれた。
そんな往年の耐久レースやカフェレーサーを彷彿させるのがスラクストンRSで、モダンクラシック最強のスペックを誇る。
スティーブ・マックイーンを抜きにスクランブラーは語れない
1960年代の初頭、モトクロスやダートレースが盛んになってきた。未舗装路で行われるこれらのレースは横一線に並んで一斉にスタートするが、この様子が「緊急発進=スクランブル」に似ていることから、スクランブルレースの俗称で呼ばれ、そのレースを走るバイクがスクランブラーだった。
トライアンフはロードモデルの単気筒200ccのT20が愛好家たちによってオフロード用に改造されていることから、1962年にTS20 CUB SCRAMBLERを発売。これが現行スクランブラーの原点と言える。
ただ、当時のスクランブラーとは別に、映画「大脱走」の中でスティーブ・マックイーンがきめた大ジャンプが「クラシックなトライアンフが飛んだり跳ねたり」のイメージを印象付けたのも事実で、これがスクランブラーの人気を押し上げた部分も大きいだろう。
ちなみに作中の設定でジャンプするのは「ドイツ軍から奪ったツェンダップ」だが、ツェンダップでは実際にジャンプすることができなかっため、高性能なトライアンフをツェンダップ風に改造して使用したといわれる。
ボバーのスタイルに50’Sカスタムが蘇る
ボバーは「短くする」という意味の『ボブ』が語源(髪型のボブカットにも通じる)。かつてダートトラックレーサーがフェンダー類を切り詰めて太いタイヤを履いたのを真似て、1950年代のアメリカで流行したカスタムスタイルだ。
そして1950年代といえばトライアンフのサンダーバードなど2気筒モデルがアメリカで人気を集めていた時代で、当時はボバーカスタムを施したトライアンフも多かった。
時代的にダートレーサーがリジッドフレームだったこともあり、現行のボンネビルボバーもリジッドフレーム風のリヤサスペンションを採用し、これがスタイルの要になっている。
“上級仕様”の意味を持つ『タイガー』
タイガーといえばトライアンフのアドベンチャーモデル。しかしトライアンフの歴史を遡ると、意外なルーツが見えてくる。
1938年にスピードツインのスポーツタイプとして初代の「タイガー」が誕生。その後もタイガー100やタイガー90等が登場するが、これらも既存の標準モデルに対してスポーツ度を高めたホットバージョン。だから車名に含まれる「タイガー」は、現代で言えばスポーツ車の上級モデルの車名の末尾に付けられるRやSPのような文字と同様の意味を持つのだ。
とはいえ昔のタイガーは皆ロードスポーツ車なので、現在のアドベンチャーモデルと関係無いように感じる。しかしボンネビルT140(70年代後半)の750cc2気筒エンジンを搭載したエンデューロモデル「TIGER TRAIL TR7T」が1982年に発売され、その流れを汲むかのように、1994年に水冷3気筒エンジンを搭載したアドベンチャーツアラーの初代タイガーが誕生した。そこから30年近く進化と熟成を重ね、ラインナップも豊富な現行タイガーへと繋がっているのだ。
3気筒『トライデント』は三又の槍が語源
世界的に大排気量スポーツモデルが続々登場し、高性能化が目覚ましかった1960年代。並みいるライバルが2気筒なのに対し、トライアンフは3気筒750ccのトライデントT150を世に放ち、この3気筒エンジンはレースでも大活躍した。
そして1990年のドイツで開催されたケルンショーで、水冷の並列3気筒DOHCを搭載するトライデント900を発表(1992年に販売開始)。この水冷3気筒エンジンは1994年にリリースされたスピードトリプルに搭載され、現在のスピードトリプル1200RSやスピードトリプル1200RRの祖となる。
また2006年にはミドルクラスの3気筒「デイトナ675」が登場し、ここからネイキッドのストリートトリプルが生まれた。このミドル3気筒は排気量を拡大し、世界選手権ロードレースのMoto2にも供給される。そして2021年にトライデントの名が復活した。新設計の660cc3気筒エンジンを搭載したトライデント660の登場だ。
巨大なロードスターにもルーツが存在
いまは無き英国車の名門ブランドであるBSA。トライアンフとは1950年代からのグループ企業であり、両社の間には現在でいうところのOEMも存在した。なかでも有名なのが、1968年に登場した750ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフのトライデントとBSAのロケット3だ。その名を受け継いで市販量産バイクで世界最大の排気量を誇るロケットⅢが登場したのが2004年。そして2020年にフルチェンジされ、現在のロケット3Rおよびロケット3GTとなった。縦置きの巨大なエンジンとドライブシャフトを内蔵した片持ち式スイングアームや極太の後輪は見る者を圧倒するが、ルックスから想像できないほど走りは軽快。伝統のネーミングが3気筒エンジンと高いスポーツ性を強くアピールする。
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