
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年からは全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けたいと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文と写真:真弓悟史
長島哲太×ダンロップ×CBR1000RR-R、2年目の戦いへ
2025年の全日本ロードレースの第1戦が4月20日にモビリティリゾートもてぎで幕を開けた。
ダンロップタイヤを3年計画でチャンピオンの座に──。長島哲太の2年目のチャレンジが始まった。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
昨年は中盤戦からかなり苦戦を強いられた。だが今年、長島は本番1週間前の事前テストから昨年とは明らかに違う走りを見せていた。今年は何かが違う。#10長島哲太の名前がいつもリザルトの上位に名を連ねる。そして予選でも5番手。上4台はすべてワークスマシン、このポジションはキット車最上位だ。
「1月のセパンテストで始まり岡山でもテストを重ねて来てタイヤの明らかな進化を感じています。昨年まで一発タイムは予選用タイヤに頼ったり、決勝レースも中盤戦以降はかなりキツイ状況で、トップ10に入るのがやっとでしたが……」(長島)
レースでは、得意のスタートダッシュを決めると1周目3コーナーでトップに浮上する。ライバルとの圧倒的トップスピードの差がある中、抜かれても、もう一度抜き返すあたりは昨年には見られなかった姿だ。飛躍的なタイヤの進歩をここに感じる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
「今年はトップを走れたり、何とか5・6位はキープ出来そうな勢いがあったので、“前に進んでいる”という実感を持っています」
長島がそう話す通り、昨年後半戦には影を潜めていた“勢い”を見ている者に感じさせる。昨年も序盤トップグループに付けたり5・6位あたりを走る事はあった。しかし昨年のそれとは明らかに違う存在感。昨年まではここでペースを維持できなかった。
抜かれたら終わりのバトル。だからこそ「今だけでも」の思いで観客を沸かせる「魅せるレース」をしているように私には映っていた。ライバルに抜かれると、ついて行くのがやっとの忍耐のレース……。
だが今年は違った。見ていてマシンの差はあれども、苦しさを感じない。“ちゃんと戦えている”のが印象的だ。
「トップに出て何周抑えられるかなっていうのはありました。5周くらい抑えられましたけど、次は10周持たせる、その次は15周持たせる、そして次は20周持ちましたってなって来ると思います。そもそも、あそこを走れないタイヤは持たしても勝負出来ないじゃないですか。だから今回は進化したなって感じられる部分です」
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
今欲しいのは“結果”
タイヤの進化について長島は話す。
「去年進歩していた部分をまとめたのが今のタイヤです。去年は“イイところ”を探るためにいくつものタイヤを確認する作業が必要でした。しかしその“イイところ取り”がなかなか出来なかった。悪い部分もたくさん出て難しかったんです。でもそれを今年1本にまとめる事が出来たイメージですね」
目に見えないタイヤの“中身”の進歩だ。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
昨年後半の10位あたりを走る姿と比べれば進化は歴然。だが目指す目標は来年のチャンピオン獲得だ。ポジティブにとらえるだけでなく、ネガティブな方向から冷静に物事を見る──。すると、まだワークスマシン勢との差は歴然で、やっと5位争いをできるようになったというのが自分たちの現在位置なのも事実である。
この件について聞くと「正直言って、ライバルとの差はまだかなりデカいと思います」と語気が強まる。
「ただ、開幕戦のもてぎに関してはBMWがいたりHRCがいたりして難しい部分もあったんですけど、この2チームは年間エントリーじゃないんですよね。どこまで戦えるレベルに行けるのか、厳しいかもしれないけれど、ワークスマシンがドゥカティとヤマハしかいなければ間違いなく表彰台のチャンスはあると思っています」
表彰台という“結果”を切に求めているのは、応援しているファンだけでなく本人も同じ。しかし現状、まだワークス勢と真っ向勝負が出来ていないことも残念ながら事実だ。直近の目標、表彰台やその先の優勝はまだ、“すぐそこ”には位置していない。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
早く表彰台が欲しい、でも、まだまだ届かない現実。この現状について長島はどのような心境なのだろうか? それこそ今、長島哲太がワークスマシンに乗れば優勝争が出来る実力なのは誰もが認めるところだと私は思う。勝てるライダーの実力がありながら目標に届かない現在についてこの事を問うと長島は少しだけ笑った後、より真剣な表情でこう語ってくれた。
「実力があるかないかで言えば、選択の重要性だったりとか、これも含めて実力だと思います。同じタイヤを使ってもトプラク(・ラズガットリオグル)や(マルク・)マルケスが乗れば勝てるかもしれないですし、その辺りは自分が勝てる実力かと言われると、これを使って勝てていない以上は、そうじゃないんだなって。
このタイヤに合わせた走り方が、もっともっとあると思うし、このタイヤをどうすればもっと使えるかは日々考えて行かないと」
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
ライダーも、タイヤも、まだまだこれから
客観的な目線と自分の目線の両方からやるべき・やれる事を冷静に見ている。そして長島はレーシングライダーとしても、まだまだ進化しているのだという。
「今までは進入のスライドや130Rの立ち上がりで、すごく滑っていたのが、ずいぶん前に進められるようになってきました。その辺りは昨年出来なかったこと。今年は出来るようになったので進化できたなって実感はあります。しかしまだまだ進歩しないと……。WSB(ワールドスーパーバイク)のライダーと走ってみて『自分はライダーとして、まだまだだな』って実感しました。
全日本では自分は頑張っている方だと思っても、向こうに行けばまだまだだなって感じたので(WSBを走って)そこは忘れずに済んだなって思います。世界基準で考えるのが大事だなと改めて感じました。進化すること、そこを諦めたらレース引退ですよ」
この向上心こそが、長島の強さであり魅力なのだと思う。
そんな気持ちが表に溢れ出たような今回の決勝レース。序盤でトップ争いを演じた走りは見ている者を熱くした。このままイケるんじゃないかと思わせる、期待感を持たせる走りだった。そして絶対に抜かせないという気持ちを感じた5位争いのバトルでは、タイヤの進化とライダーの進化、今年仕様の長島+ダンロップが昨年とは違うことを大いに印象付けた。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
決勝レースは、しかしマシントラブルにより14周目にリタイア。結果は残らなかった。大きな希望と無念のレース──。
次回、5月24・25日に開催される第2戦SUGOに向けた、長島の意気込みを聞くと──。
「自分としては、やれることはいつもと変わらず常に全力で走ること、そしてフィードバックをちゃんと返す。それ以外ないですし、今回得たものをダンロップとちゃんと話し合ってタイヤをもっと良くしてもらう。今は急ぐしかないかなという状態ですね」
『急ぐしかない』とは?
「時間はあっという間に過ぎてしまうので。去年はいろいろ試す年でしたけど、今年はそれを仕上げないといけない。来年チャンピオンを取りに行くためには今年は絶対表彰台に乗らないとそんなことは言ってられないので」
言葉にいっそう力がこもる。確実に進歩している現実と、まだまだ遠い目標──。昨年の最終戦とは明らかに違う、2年目の長島哲太がそこにいた。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
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