![[祝! 2025MotoGP開幕] かつてのロッシvsマルケスのバトルはダイネーゼとアルパインスターズの代理戦争だった!? レーシングスーツ戦国絵巻を振り返る](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
待ちに待ったMotoGPが2025年2月28日に開幕! これから約9カ月にわたり、世界各国で激しいバトルが展開されますが、その裏側ではレーシングスーツの覇権争いが…。2025年は日本のクシタニもプレミアムクラスに帰ってきましたが、メーカー同士の代理戦争ともいえる戦国絵巻を振り返り、最新の情報を交えてお届けします。
この1枚の写真、どこかに違和感を感じませんか?
さて、この1枚の写真、どこかに違和感を感じませんか? アレっと思ったそこのアナタ、鋭い! そして、かなりのマニア(ぴったんこカンカン)です。
一見、ヤマハ陣営に移籍したジャック・ミラー(プリマプラマックヤマハ)が格好良く、YZR-M1を走らせているだけなんですが、じつはダイネーゼのレーシングスーツに宿敵アルパインスターズのヘルメットという呉越同舟の組み合わせ。
なぜこんな禁断(?)のペアリングが実現したのかというと、2025年2月、ミラーが加入したプラマックとダイネーゼのパートナーシップが発表されたからなんです。もっとも、アルパインスターズがブーツのみ製造していた頃は、ダイネーゼのスーツ×アルパインスターズのブーツという組み合わせは、普通にありましたが。
2025年から2027年の3年間、プラマックレーシング(プリマプラマックヤマハおよびプラマックヤマハMoto2)の衣料品サプライヤーをダイネーゼが務めるという内容で、その一環として、ミラー、Moto2のトニー・アルボリーノとイザン・ゲバラの3人が、ダイネーゼのレーシングスーツを着用。チームスタッフたちも、同社アイテムを着ることに。ダイネーゼが、レーシングチーム全体の公式ウェアサプライヤーとなるのは初めてのなんだとか。
まぁ、2022年までミラーはダイネーゼ傘下となっているAGVのヘルメットを被っていたので、そっちも揃えれば良かっただけの話なんですが、アルパインスターズとのヘルメット契約が残ってはいるものの、その頃もダイネーゼを着ていたミラーに白羽の矢が立ったということなんでしょう(同僚のミゲール・オリベイラはIXONを着用)。
過去にはエアバッグシステムを巡る法廷での番外戦もありましたが、ここ数年、ダイネーゼとアルパインスターズの覇権争いを中心に、新興メーカーを交えたスーツのシェア争いが熾烈さを増しているのです。
囲い込み戦略で逆襲を開始した“ツナギの王様”ダイネーゼ
1980年代から1990年代にかけ、南海部品と最高峰クラスのチャンピオンライダーを分け合ってきたダイネーゼは、南海ユーザーのミック・ドゥーハンが引退し、秘蔵っ子のバレンティーノ・ロッシが2001年に500ccクラスのタイトルを獲得すると、2005年まで連続でチャンピオンツナギ(!)の座を守り、ロッシの全盛期とともに我が世の春を謳歌してきました。
バレンティーノ・ロッシが2001年に500ccのタイトルを獲得すると、2005年までチャンピオンツナギ(!)の座を死守
しかし、過去に“キング”ケニー・ロバーツやフレディ・スペンサー、エディ・ローソンらのレジェンドが着用し、“ツナギの王様”とも称されてきたダイネーゼですが、近年はアルパインスターズに押され気味…。2023/2024年のシェアは、アルパインスターズの11名に対し、ダイネーゼは5名となっていました。
ロッシが率いるVR46レーシングチームも、半ば公式サプライヤーのような感じになっていますが、今回のプラマックとの契約は、シェアを巡る危機感から来たものかも?
そんな囲い込み戦略の効果もあってか、2025年は前述したミラーに加え、ラウル・フェルナンデス(トラックハウスMotoGPチーム)と、ルーキーのフェルミン・アルデゲル(グレシーニレーシングMotoGP)が陣営入りし、アルパインスターズと同数の合計8名。老舗メーカーの逆襲が始まったといえるでしょう。
2006年にMotoGPへ昇格して以来、ずっとアルパインスターズを着てきたKTMのテストライダー、ダニ・ペドロサが、さりげなく250cc時代までのダイネーゼに戻しているのも、ひそかに気になるポイントです。
ここ20年で15回タイトルを獲得したアルパインスターズ勢
アルパインスターズは、1999年にレーシングスーツの開発をスタート。まずAMAスーパーバイク選手権でニッキー・ヘイデンとベン・ボストロムのふたりが使用し、すぐその年から世界GPの500ccクラスでもカルロス・チェカ(マルボロヤマハ)が着用します。
そしてロッシ王が敷いた、ダイネーゼ絶対王政から潮目が変わったのが2006年。ヘイデン(レプソルホンダチーム)がチャンピオンに輝き、翌2007年もアルパインスターズユーザーのケーシー・ストーナー(ドゥカティマルボロチーム)が王座に。2強の時代へと、突入するのです。
2008年/2009年はロッシ、2010年はホルヘ・ロレンソ(ともにフィアットヤマハチーム)と、一旦はダイネーゼ勢に王座が戻りますが、2011年はストーナー(レプソルホンダチーム)が再びチャンピオン。そして2012年はアルパインスターズに宗旨替えをした、ロレンソ(ヤマハファクトリーレーシング)が2度目のタイトルと、再びチャンピオンツナギの座はアルパインスターズ陣営の元に…。
2013年以降はマルク・マルケス(レプソルホンダチーム)の独壇場。2連覇後、2015年のロレンソを挟み、2019年まで4連覇。2010年代後半に繰り広げられたロッシとマルケスの激しいバトルは、ダイネーゼとアルパインスターズのいわば代理戦争のような様相を呈していました。
2020年こそダイネーゼのジョアン・ミル(チームスズキエクスター)が王座を奪いますが、そこからは2021年のファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジーヤマハMotoGP)、2022年/2023年のフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティレノボチーム)、その次の2024年もホルヘ・マルティン(プリマプラマックレーシング)と、アルパインスターズ勢が再び4連覇達成。
2025年のチャンピオン最有力候補もドゥカティファクトリーのバニャイアとマルケスなので、ことタイトル争いに関しては、アルパインスターズ優位がもうしばらく続きそうです。
チャンピオン最有力のバニャイアとマルケス。ことタイトル争いに関しては、アルパインスターズ優位が続きそうだ
アレイシと中上が第一線から退くもリンスと契約したIXON
中上貴晶は2021年から日本&アジアのアンバサダーに
イタリアンメーカー2強にはまだまだおよびませんが、2020年代になって勢力を伸ばしているのが、1996年創業のフレンチメーカー、IXONです。
2010年代半ばにMotoGPクラスへと登場。アレイシ・エスパルガロらが着用し始め、2021年からは中上貴晶もサポート。2025年はアレイシ、中上ともに第一線から退いたため、レギュラーライダーの使用者は4名から3名に減ってしまいましたが、新たにアレックス・リンス(モンスターエナジーヤマハMotoGP)と契約を締結。Moto2時代から愛用するブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリーレーシング)、ミゲール・オリベイラ(プリマプラマックヤマハ)のふたりは継続となります。
2023年にはMFJ公認となるアジアンフィットのレーシングスーツ『VENDETTA EVO A(ベンデッタ エボ エー)」を発売。このモデルはフランスの研究所で制作されたオリジナルデザインを踏襲しつつ、日本人の体型に合わせてプロテクションの位置やサイズなどを検討。型紙から仕立て直されているそうです。
小椋&チャントラのデビューに合わせ、クシタニは限定応援グッズを販売!
1987年はクシタニのレーシングスーツを着たワイン・ガードナーが500ccクラスのチャンピオンに就いた
高い品質と安全性で一般ライダーからも根強い支持を集める日本のクシタニは、久しぶりに世界最高峰の舞台へ。
着用するのは悲願のMoto2タイトルを獲得し、晴れてステップアップを果たした小椋藍(トラックハウスMotoGPチーム)とソムキアット・チャントラ(LCRホンダイデミツ)。ともに世界デビュー前のCEVレプソルインターナショナル選手権時代からのクシタニユーザーです。
テストの合間、ピットでエンジニアと話し合う小椋藍。「着替えて待っている時も快適で、そこがクシタニの大好きなところです」と着心地の良さを絶賛する
最高性能の“柔と剛”を謳うクシタニスーツが持つ美点のひとつは革の柔らかかさ。小椋も「着ていてストレスがなく、気持ちが良いツナギです。着替えて待っている時も快適で、そこが大好きなところです」と過去に話しています。
バイクブーム世代にはワイン・ガードナーやランディ・マモラのイメージが強いかもしれませんが、ごく近い将来、小椋&チャントラが先人並みの活躍を見せ、表彰台の頂点、いや、1987年のガードナー以来となるチャンピオンツナギの栄冠をつかみ取ることも決して夢物語ではないでしょう。
Tシャツやアンブレラ、フェイスタオル、キーホルダーなど、さまざまな限定応援グッズが用意されている
ちなみにクシタニでは、ふたりのMotoGPデビューにタイミングを合わせ、2025年2月26日よりオンラインで限定応援グッズの先行販売および予約受付を開始。
店頭での販売も近日スタートする予定で、入荷したアイテムから順次発売となるそう。
また、クシタニの公式YouTubeで最新インタビュー動画も公開されているので、そちらも必見です。
[小椋藍 限定応援グッズ URL]
[ソムキアット・チャントラ 限定応援グッズ URL]
小椋が1987年のガードナー以来となる、チャンピオンツナギの栄冠をつかみ取ることも決して夢物語ではない!
伝説の英雄アゴスチーニも着用したフランスのFurygan
Furyganを着て走るジャコモ・アゴスシーニ(1975年のフランスGP)。肩に黒豹のシンボルマークが入っている
残るメーカーは、黒豹がシンボルのFurygan。1969年創業と50年以上におよぶ長い歴史を誇るフレンチブランドです。
サポートライダーのヨハン・ザルコ(LCRホンダカストロール)はヘルメットもシャークと、母国の製品を愛用しています(ブーツはイタリアのFormaですが)。
今回の記事執筆に当たり、昔の資料を調べていたんですが、計15回世界タイトルを獲った伝説の英雄、ジャコモ・アゴスシーニ御大もFuryganを着ていた時期があったようです。
創業して数年で高い品質がフランス軍に認められ、パラシュート部隊用の革製ヘルメットと歩兵用のグローブを製造。軍との関係は今も続き、2025年現在は電動二輪車用テクニカルウェアの製造開発にも力を入れているそうだ。
フランスのFuryganはただひとり。着用するヨハン・ザルコはヘルメットもシャークと、母国の製品を愛用している
【使用レーシングスーツ一覧】
■ホンダHRCカストロール
- 36. ジョアン・ミル(ダイネーゼ)
- 10. ルカ・マリーニ(ダイネーゼ)
■LCRホンダ
- 5. ヨハン・ザルコ(Furygan)
- 35. ソムキアット・チャントラ(クシタニ)
■モンスターエナジーヤマハMotoGP
- 20. ファビオ・クアルタラロ(アルパインスターズ)
- 42. アレックス・リンス(IXON)
■プリマプラマックヤマハ
- 43. ジャック・ミラー(ダイネーゼ)
- 88. ミゲール・オリベイラ(IXON)
■ドゥカティレノボチーム
- 63. フランチェスコ・バニャイア(アルパインスターズ)
- 93. マルク・マルケス(アルパインスターズ)
■グレシーニレーシングMotoGP
- 54. フェルミン・アルデゲル(ダイネーゼ)
- 73. アレックス・マルケス(アルパインスターズ)
■プルタミナエンデューロVR46レーシングチーム
- 21. フランコ・モルビデリ(ダイネーゼ)
- 49. ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(ダイネーゼ)
■アプリリアレーシング
- 1. ホルヘ・マルティン(アルパインスターズ)
- 72. マルコ・ベッツェッキ(ダイネーゼ)
■トラックハウスMotoGPチーム
- 25. ラウル・フェルナンデス(ダイネーゼ)
- 79. 小椋藍(クシタニ)
■レッドブルKTMファクトリーレーシング
- 33. ブラッド・ビンダー(IXON)
- 37. ペドロ・アコスタ(アルパインスターズ)
■レッドブルKTMテック3
- 12. マーベリック・ビニャーレス(アルパインスターズ)
- 23. エネア・バスティアニーニ(アルパインスターズ)
【メーカー別レギュラーライダー数】
- ダイネーゼ:8
- アルパインスターズ:8
- IXON:3
- クシタニ:2
- Furygan:1
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