
●文:ヤングマシン編集部
振動の低減って言われるけど、何の振動?
ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。400ccクラスから上の排気量帯のバイクで採用例が多いが、これって何のためにあるのだろうか?
シンプルにいえば振動対策だ。特に、エンジンの振動がライダーの手に伝わるのを低減させるのが主な役割。エンジンの振動は、回転を上げるほど、また排気量が大きいほど強くなり、ハンドルバーを握るライダーの手をシビレさせたり、疲れの元になったりする。また、強すぎる振動は特にフロントの挙動を感じ取るのにも邪魔になる。これをどのように低減するのかは、バイクの開発でけっこう重要なのだ。
エンジンには1次振動(クランク1回転毎に発生する振動)と2次振動(クランクの回転の2倍の周波数で発生する振動)、カップリング振動(クランクの非対称性が基になって発生する振動)などがあり、例えば単気筒では1次振動が強く、並列4気筒だと高回転時に高周波の2次振動が顕著に出る。
これを低減するには、エンジン自体にバランサーを仕込むとか、振動が車体に伝わりにくいようにエンジンマウントを工夫するといった方法がある。そして本記事のハンドルバーウエイトのように、振動が出る部分の末端に錘を仕込んで共振する周波数を変え、一種のマスダンパーのように使うことで振動を吸収・低減する手法があるわけだ。
ここで注意したいのは、ハンドルバーやバーエンドを交換するカスタムだ。ハンドルバーの材質や重量にもよるが、何も考えずにウエイトを外すと振動が増えることもあり、またウエイトの重量を変えると共振ポイントが変わったりして、思わぬ振動を感じることになるかもしれない。
カスタムにあたっては、自分の用途や普段走る道で振動が出ないか、許容できる程度かなどを確認しながら進めるといいだろう。また、たとえ振動は増えても軽量化したいとか、ポジションを操縦しやすくしたいとか、転倒時のプロテクションのためにウエイトよりも樹脂などの素材のバーエンドを使用したいといった場合もあるだろうから、そこは好みに合わせて自己責任で。
ちなみに、ステップバーの下にウエイトが装着してある機種もあるが、こちらも同じく振動軽減のためのバランサーウエイトだ。
じつは影響があるもうひとつの振動
もうひとつ、ハンドルバーウエイトがあると低減できる振動がある。それはシミーだ。走行中にフロントタイヤが左右に小刻みに切れる振動で、80km/h以下で出ることが多い。また、100km/h以上で出る高速シミー、もっと周波数の低いウォブル(こちらは前後とも振られる)もある。
シミーやウォブルが酷くなると、左右の振れがどんどん増幅し、最悪は転倒に結び付くことも。原因はさまざまだが、最新のバイクであればタイヤの空気圧低下や偏摩耗、ホイールバランスの狂いなど、整備不良によるものが多いとされる。
これが平成中期くらいまでのバイクになると、車両自体のジオメトリーや剛性バランス、タイヤの構造などが現代ほど洗練されておらず、ちょっとしたタイヤの摩耗程度でも誘発されやすい場合がある。これを解消するには、低コストな順に、1)着座位置を変えてみる、2)サスペンションセッティングを調整してみる、3)タイヤを最新スペックのものに交換してみる、4)ステアリングダンパーを装備する、といった方法がある。
ちなみにウォブルがタイヤの構造に起因する場合、リヤに原因があることも。その場合はリヤのセンター付近でバンク角に対する旋回力の立ち上がりが早く、わずかな傾きでフロントを左または右に振る力が発生してしまうから、ということらしい。
さて、すでに読者諸兄もお気づきのように、このステアリング振動の対策として、ハンドルバーウエイトが一定の仕事をしてくれる。ハンドルが左右に振れる現象も振動であり、速度域によって共振すると増幅してしまう。これの対策として、ステアリング軸から遠いハンドルバーエンドに錘を付けることで、振動が発生しにくく、また増幅を抑制する効果を得られるのである。
ここで再びカスタムの話をすると、ハンドルバーを交換してステアリング方向の振動が増えたケースでは、ライディングポジションの変更に起因する場合だけでなく、ウエイトの影響による場合もあると知っておくと、対策する際に役立つかもしれない。意外なところでは、アルミ製のナックルガードを装備して重量が増えると、特定の速度域で振幅が増えることもあるので、「もしかして」と思ったら付けたり外したりして挙動を確認してみるといいだろう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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