カーボンニュートラル(以下CN)を達成するための選択肢として水素燃料に注目が集まっているが、それはクルマやバイクといったモビリティにとどまらないようだ。直火で調理する際に利用すると、環境云々だけでなく“美味しさ”という効果も得られるのだという。
調理に使うことで水素燃料の急速な一般化が可能に?
先日、TV(中居正広のキャスターな会)を観ていたら、水素調理をした鶏肉を食べたタレントの高橋真麻さんが「プリンプリンしていてものすごく美味しい!」と感動しているシーンがありました。
水素を調理に使うなんて発想はなかったので、ちょっと調べてみたら、日経トレンディの2022年12月号の記事「ヒット予測2023」で、6位に「水素レストラン」が取り上げられていました。
燃焼してもCO2が出ない「究極のクリーンエネルギー」である水素を調理に使うと、エコなだけではなく、燃焼中に空気中の酸素と結合して水蒸気が発生するため、直火で焼くと食材の水分蒸発が防げて、肉や魚が外はカリっと、中はジューシーに仕上がるのだそうです。実際、業務用の調理器具は存在していて(水素は据え置きのボンベで供給する形)、水素調理を導入するレストランなどが今年は続々と誕生するそうです。
そして、その記事のページの中の囲み記事に興味を惹かれました。
トヨタが建設中のウーブン・シティに水素燃料の調理器具を導入するために、トヨタとリンナイが共同開発を開始したというではないですか(2022年10月4日にリンナイからリリースが出ていました)。
次世代技術の実験都市と称するウーブン・シティであっても、そこで生活するのは一般の人々。その台所に、水素を燃料とする調理器具が導入される(しかも、抜群に美味しく調理できる)となると、将来的にはウーブン・シティ以外の一般家庭にも水素調理器具が導入される→水素の使用量が飛躍的に増える→使い勝手向上のため圧縮技術も進化する→水素燃料自体が一般化して、安価で提供されるようになる→すると当然、エンジンの燃料にもごく普通に使用されるようになる、なんて可能性があるのでは、と思った(妄想した)のです。
そこで、リンナイの広報部に電話取材しました。
調理器具の開発と並行して、うまみが増すことを数値化できないかも検証中
まず、この話はウーブン・シティありきで始まっていて、ウーブン・シティが目指す水素社会の中で使用可能な調理器具を作れないかと、その分野でトップシェアを持ち、技術力と高い信頼性を持つリンナイに声がかかったのだそうです。
実は、昨年5月にリンナイは世界で初めてCO2を排出しない水素100%燃焼技術の開発に成功し、この技術を搭載した家庭用給湯器の試作品を完成させた実績を持っています。そして、水素を用いたカーボンニュートラルへの取組みが進んでいるオーストラリアでこの給湯器の実証実験を行っているそうです。
そういう背景もあって、リンナイはウーブン・シティ向けの水素燃料を使用する調理器具の開発に着手したそうですが、現状ではどういった器具がいいのかを検証している段階で、まだ試作品的なものも公開できる状態ではないようです。しかし、水素で調理すると美味しくできるということは体感的に分かっていて、いまそれを数字的に証明できるかどうかを並行して進めているとのことでした。
こちらの妄想である、水素が大量消費されるようになって価格が下がるのでは? という質問には、燃料の提供方法等にはタッチしていなくて、器具の開発のみなので分かりかねます、という回答でした。
とはいえ、水素を燃料としたさまざまな機器、機械がこれから世に現れてくるのは確実で、その過程で前述の大量消費による量産効果で価格が低下する可能性も十分あるのではないでしょうか。
昨年秋には、ドイツのBMWが「電動化1本に絞るのは危険。自動車メーカーは水素など電動化以外の道も模索すべき」という発言をしています。BEV一辺倒だったヨーロッパでも、違う選択肢を探る動きが起き始めているのです。
ご存じのように、日本では国内二輪4メーカーとトヨタ、デンソーの計6社共同で水素を燃料とする実験車で研究・開発を進めていたり、トヨタが水素エンジンのレーシングマシンで耐久レースなどにチャレンジを行っています。
バイク/クルマの世界だけではなく、それ以外の業界でも水素を活用したCNへの取組みが加速することで、いずれはあちこちに集積された知識や技術が業界の壁を乗り越えて結集されることで、水素を手軽に、安価で安全に活用できる「革新」が生まれる可能性があるのではと思います。
そうなれば、エンジンもこの先、まだまだ生き残ることができるのではないか……。
ということで、まずは水素調理のメニューが味わえるレストランに、近いうちに行ってみようと思います(笑)。
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