1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第92回は、日本の晩秋~初冬をバイクで満喫している話。
TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:Tetsuya HARADA, HONDA, MICHELIN, SUZUKI, YAMAHA
レーシングマシンは初乗りの第一印象がかなり大事
’22シーズンのレースがひと通り終わってしまい、少し寂しい冬の到来ですね……。スーバーバイク世界選手権は最終戦オーストラリア大会に長島哲太くんが代役参戦し、レース1で10位、レース2で9位になりました。最終戦ともなると、年間通して戦っているライダーたちのマシンセッティングはかなり仕上がっている状態です。にも関わらずトップ10以内に入れたのは、相当頑張ったうえでの好成績と言えるでしょう。今シーズン終盤、哲太くんはMotoGPにSBKとスーパーサブとして活躍しましたね。
MotoGPは、最終戦バレンシアGP終了後にすぐさま’23シーズンに向けてのテストが行われました。移籍組で目立っていたのは、KTMからアプリリアに移籍するミゲール・オリベイラと、ホンダからドゥカティに移籍するアレックス・マルケスでしたね。
逆に、もうひとつだったのはスズキからホンダに移籍する、ジョアン・ミルとアレックス・リンスです。テストはテスト。特に移籍組は「乗ってみただけ」というのが実際のところでしょう。でも僕の経験上、初乗り1発目の印象ってかなり大事なんです。来季がどうなるか、少しずつ見えてきた気もしています。
マンツーマンのレッスンはコース貸し切りで25分枠を5本!
僕自身は、日本の晩秋と初冬をバイクで満喫しています。袖ヶ浦フォレストレースウェイではマンツーマンレッスンを始めました。企画自体は2、3年前から動いていたんですが、コロナ禍の影響と、僕の忙しさでなかなか実現できていなかったのが、ここへきてようやく形になったんです。
茂原ツインサーキットでは定員10人のスクールを行っていますが、時間の制約があり、どうしてもひとりひとりの走りをじっくりと見ることができません。その点、マンツーマンだと細やかなアドバイスができます。また、袖ヶ浦FRWの本コースを貸し切るので、コース上に止まって「ここを通ってくださいね」と、より具体的なアドバイスも。25分の走行枠を5本使うので、受講していただいた方の満足度も高いようです。
今後、僕が日本にいる時は、茂原で月2回ほど、袖ヶ浦では月3回ほどスクールを行っていく予定ですが、どちらも基本的にはサーキット走行ビギナーの方限定で、内容自体もほとんど同じ。集団で教わる塾と個別で教わる家庭教師の違いのようなものでしょうか。「集団の方が気楽でいいな」という方もいらっしゃいますしね(笑)。
スーパースポーツを筆頭にして、最近のバイクは非常にポテンシャルが高くなっています。公道でバイクの能力を引き出すのは大変危険ですし、確実に違反ですよね。でも、せっかくの高性能ですから、時には思いっ切り楽しんでほしい。その舞台として最適なのが、サーキットなんです。
だから僕のスクールでは、サーキットを速く走ることよりも、楽しむことを重視しています。長く、安全にバイクと付き合っていくために、ちょっとしたアドバイスをさせていただき、より楽しいバイクライフのお手伝いをしたいと思っています。
袖ヶ浦FRWでは、「BMW Motorrad Circuit Experience in 袖ヶ浦」に参加。ミシュランプログラムとしてタンデム走行とレッスンをさせてもらいました。タンデム走行は、面白いらしいですよ(笑)。後ろに乗った方に感想を聞くと、皆さん口を揃えて「ブレーキングは1発目から『バーン!』とハードなんですね!」「フロントブレーキはコーナーのあんなに奥まで握り続けてるんですね!」と、ブレーキについて驚いていたのが印象的でした。
ここであまり細かい話をするとネタバレになってしますので、少しだけ(笑)。僕のブレーキングは、皆さんよりかなり早い段階でかけ始め、なおかつ、最初からかなり強くかけています。擬音にすると、まさに「バーン!」(笑)。でも本当に「バーン!」では、フロントから足元をすくわれてしまいます。自分ではあまり意識していませんが、最初から強くブレーキをかける中でも、短時間で微妙にコントロールをしているんだと思います。
よく、「レーシングライダーの1秒は、一般の人の1秒よりはるかに長い」と言いますよね? あれは実際に真実で、「短時間でもやれることが多い」ということだと思います。ですから、ブレーキのかけ始めも擬音では「バーン!」ですが、その間にきめ細かくコントロールしているんです。本当に単純に「バーン!」とかけているわけではありませんので、くれぐれもご注意を。
フロントブレーキを「コーナーのあんなに奥まで握り続けている」のは、いわゆる制動のためもありますが、主には車体の姿勢をコントロールして、より高い旋回性を発揮するためです。フロントブレーキをかけるとフロントフォークが沈み、前下がりの姿勢になって旋回性が高まります。フロントブレーキをリリースすると、フロントフォークが伸び始めて前上がりの姿勢になり、旋回力が落ちていきます。これをできるだけ避けるために、コーナーのクリッピングポイントでスロットルを開け始めるまで、フロントブレーキを弱く握り続けています。
このあたりの話は、とても複雑で難しいものです。ライディングスタイルやスキル、セッティングにもよりますので、「ハラダがブレーキはバーンとかけていた」とか、「ハラダがブレーキは奥まで握っていた」と、マネしないようにしてくださいね(笑)。今はあちこちのサーキットでいろんなスクールが行われていますので、ぜひ参加してみてください。
話がだいぶ逸れてしまいましたが、タンデム走行では、運転している僕も貴重な経験をしています。すごく印象的なのは、後ろに乗っている人によって、曲がりやすかったり曲がりにくかったりすること。そして曲がりやすいのは後ろに乗っているのが女性の場合が多い、ということです。
タンデム走行する時、後ろの人には「なるべく動かないでくださいね」とお願いします。そして女性は素直な方が多く、言われた通りに動かない。意外と度胸も据わっているみたいで、デーンと構えています。だから僕としてはいつも通りに近いコーナリングができます。
一方男性は、自分なりのライディングスタイルがあったり、怖がりの方も多いようで、つい動いてしまう方が目立つんです。後ろの人が怖がって体を起こすとと曲がりにくくなるし、逆にやる気マンマンすぎて体をインに入れられると想定以上に曲がってしまいます。男性の方が体重が重く、影響が大きく出やすいのもありますが、結構な男女差があって面白いですよ。
仲間と参戦できる耐久レース、来年はどうするか……
11月19日には、筑波サーキットで行われた「耐久茶屋」、いわゆる茶耐に参加しました。仲間たちとのワイワイ楽しい参戦で、マシンはカワサキZX-25R。予選ではルールをイマイチ理解していなかったために順位を下げてしまったり、決勝もいろいろあって思うような結果が出せなかったりしましたが、そんなの関係ない! だいたい、メインはレース後の打ち上げですからね(笑)。とにかく楽しい1日でした。
茶耐は惜しくも今回で終了とのこと。仲間内で気軽に参戦できる耐久レースが大好きな僕としては、ものすごく残念……。来年はどのレースに出ようか、今から考えているところです。
セロー&アナキーワイルドで房総ツーリング
プライベートではツーリングにも行きました。セロー250のタイヤをミシュラン・アナキーワイルドに代えたので、テストと慣らしを兼ねての房総ご近所ツーリングです。アナキーワイルドは手で触るとソフトな印象ですが、走ってみると意外としっかり。オフロードタイヤにありがちな腰砕け感があまりなく、セローでのオンロード走行も快適でした。ブロックタイヤなのにタイヤノイズが少ないのもお気に入りポイントです。
ツーリングで行ったのは、養老渓谷と粟又の滝。……と言いつつ、粟又の滝は遊歩道を降りるのが大変そうだったので、上から眺めただけ(笑)。代わりと言ってはナンですが、大多喜・遠見の滝にも行ってみました。人工の洞窟はなかなかワイルドでしたが、滝は……。「えっ!?」という感じが房総っぽくて逆に楽しかったので、皆さんもぜひ行ってみてくださいね。
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