
BMWのヘリテイジファミリーの一角を成すRナインTシリーズは、ユーロ5適合に伴い’21年にモデルチェンジを実施。シリンダーヘッドを新作とし、新たに電子制御スロットルを導入した。果たしてどれほどの変化があったのか、往年のR80G/SをオマージュしたアーバンG/Sでじっくりとチェックした。
●文:ヤングマシン編集部(大屋雄一) ●写真:柴田直行 ●外部リンク:BMW
BMW RナインTアーバンG/S:より力強くスムーズに、電制増の影響は最小限
’21年のモデルチェンジでユーロ5に適合したRナインTシリーズ。その中の人気モデル、アーバンG/Sに遅ればせながら試乗することができた。排ガス規制強化で大排気量の空冷モデルが次々とディスコンになる中、BMWはRシリーズとして2世代前にあたるこの空油冷フラットツインを、主にシリンダーヘッドを新造してまで残してくれたのだ。
BMW RナインTアーバンG/S:スタイリング
【BMW RナインTアーバンG/S】■全長2175 全高1175 軸距1530 シート高850(各mm) 車重230kg ■空油冷4スト水平対向2気筒DOHC4バルブ1169cc 109ps/7250rpm 11.83kg-m/6000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量17L ■ブレーキF=ディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR19 R=180/60ZR17 ●色:紺 白 赤×黒×銀 ●価格:208万4000円~
2世代前の1169cc空油冷フラットツインを搭載するBMWのヘリテイジシリーズ。アーバンG/SはRナインTスクランブラーをベースに’17年に登場したモデルだ。電子デバイスはABSとASCのみだったが、’21年のモデルチェンジで電子制御スロットルを導入。ライディングモード切り替えやクルーズコントロールを新採用したほか、ABSは同プロに、ASCはDTCへと進化した。グリップヒーターやETC2.0も標準装備。
BMW RナインTアーバンG/S:ライディングポジション
外観はデュアルパーパスだが、ハンドルが遠めなのでライポジはネイキッドに近い。日本仕様はローシートなので足着き性は良好。[身長175cm/体重68kg]
BMW RナインTアーバンG/S:試乗インプレッション
まずはそのエンジンから。新たに電子制御スロットルが採用され、これに伴いライディングモードの切り替えとクルーズコントロールが追加された。前者はロード/ダート/レインの3モードで、スロットルレスポンスだけでなく新装備のABSプロやDTCの設定も連動して切り替わる。最高出力は1psダウンしたものの、ロードやダートモードではむしろ力強くなったとすら感じた。
主に4000~6000rpmのパワーとトルクカーブが進化しているとのことで、1169ccの加速力は伊達ではない。一方、そうしたパワフルさを見せながらも全体的に微振動が減ったようで、レインモードで高速道路を巡航しているときの穏やかな雰囲気は、2バルブ時代の空冷フラットツインを思い出させるものだ。
シフトチェンジなどスロットルのオンオフのたびに伝わるトルクリアクションも含めて、最新の排出ガス規制に適合しつつも、エンジンとの対話の濃密さは不変だ。
続いてはハンドリングだ。倒し込みや切り返しなどロール方向の軽さがRシリーズの特徴だが、アーバンG/Sは100km/h付近から直進安定性が明確に強まる。フロントホイールが19インチで、しかもキャスター角が28.5度と寝ていることが影響しているようだ。とはいえ、トンネル出口で横からの突風を食らってもびくともしないのは長所であり、また峠道など低中速域ではヒラヒラとした切り返しの軽さが楽しめる。前後軸間距離が1530mmと長いので旋回力はそれなりだが、このグライド感はRシリーズならではの美点だ。
ブレーキは、ABSがバンク角を考慮した「プロ」へと進化した。とはいえフィーリング自体に大きな差はなく、コントロール性もストッピングパワーも高いレベルにある。
BMW RナインTアーバンG/S ディテール解説
BMW RナインTアーバンG/S:エンジン/マフラー
【新造シリンダーヘッドでユーロ5をクリア】1169cc空油冷水平対向2気筒エンジンは、排気量をそのままに混合気のスワール流によってクリーンな燃焼を促進させる新型シリンダーヘッドに。最高出力は110→109psへ微減したが、4000~6000rpmではパワー/トルクとも向上。合わせてヘッドカバーやインジェクターも変更する。
試乗車はRナインTスクランブラーと同じアクラポヴィッチ製のデザインオプションサイレンサー(メーカーオプション、6万4000円高)を装着。標準サイレンサーはダウンタイプの1本出しだ。日本仕様のホイールはチューブレスタイヤ対応のクロススポークで、リムのカラーはブラックとゴールドが同一価格で選べるようになっている。
車体中央にあるエアクリーナーボックスとバッテリーハウジングを隠すようにカバーが左右に追加され、よりスマートな印象に。新型の判別ポイントの一つだ。
BMW RナインTアーバンG/S:足まわり
φ43mm正立式フロントフォークとリンクレスのモノショックを採用。ホイールトラベル量はフロント125mm/リヤ140mmで、リヤショックのプリロード調整は新型でダブルナットから油圧ダイヤル式に。ブレーキディスクはフロントφ320mm/リヤφ265mmで、ABSのキャンセルボタンを設けるのは同シリーズではほかにスクランブラーのみ。
BMW RナインTアーバンG/S:主要装備
電子制御スロットルの採用によりケーブルが省略された。右側にはライディングモードの切り替え、左側にはクルーズコントロール用のスイッチを新設する。
メーターは220km/hフルスケールのまま書体など文字盤のデザインを小変更。液晶パネルの左側上段には選択したライディングモードが表示されるようになった。
日本仕様は座面高さ820mmのローシートを標準装備。プラス30mmのハイシート(5万5660円)などディーラーオプションで各種用意する。タンクの左下に設けられた電源ソケットは、新型でヘラーからUSBとなり利便性が向上。
[△] タコとギヤ段数表示は今回も残念だが非採用
タコメーターやギヤポジションインジケーターは、スピードメーター内の液晶に組み込んでも良かったのでは。それと、前後サスは減衰力が弱いのか、ギャップ通過後の上下動が長く続く。ゼッケンプレート風のカウルは、サイズが小さいので防風効果はないに等しい。
[こんな人におすすめ] 気楽に乗れるビッグツインは貴重な存在だ
アドベンチャーバイクのベンチマークと言えばBMWのR1250GSであり、走破性や快適性は究極レベルにある。そのGSが進化の過程で失った要素の中から、主に味わいを抽出したのがアーバンG/Sだ。原点的な楽しさを求める人にぜひ。
※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
人気記事ランキング(全体)
新設計の4気筒・502ccエンジンにEクラッチを搭載! ホンダは、中国で開催中の重慶モーターサイクルショーにて新型モデル「CB500スーパーフォア(CB500 SUPER FOUR)」を世界初公開した[…]
レースで勝つために進化を重ねたトップパフォーマー 「GSX-Rの40年」ではまず、”アルミフレーム+カウリング+4スト最強水冷4気筒”のGSX-R(400)を紹介。 1980年代初頭に始まった空前のバ[…]
その姿、まるでハンターカブ×ミニトレ?! タイ仕様は新型に切り替わるとともにカラーバリエーション変更&グラフィックが変更された。 一方ベトナム仕様は、従来モデルを標準仕様として併売。この標準モデルはカ[…]
ダークカラーに往年のオマージュカラーを乗せて 特別仕様車の製作を定期的に行うカブハウスは、1970年代のダックスをオマージュしたような限定仕様「DAX Royal Limited Edition」を発[…]
国産4社の400cc4ストツインの系譜 排気量上限が400cc以下の普通2輪免許、一昔前の言葉で言うなら中型限定免許は、日本独自の制度である。もっとも欧州では大昔から、排気量が400cc前後のロードス[…]
最新の記事
- フレディ・スペンサーがCB1000Fを語る!「ホンダ ホームカミング熊本2025」開催 | GP500&250ダブルチャンピオン車展示&トークショーも
- 意外に短命だった2バルブGS:スズキGS400【1976~1980】の系譜
- 【元警察官が語る】実録! 私はこうして白バイ隊員になった
- 「スズキの矜持に刮目せよ」GSX-R 40年の軌跡を追う | GSX-R1000/R復活記念【ヤングマシン電子版10月号】
- メーカー主導のカスタムブーム:カワサキZ1-R【1978~1980】を巡る歴史
- 1
- 2