’20年モデルでユーロ5対応に伴い、排気量を561ccに拡大したヤマハのオートマチックスポーツ「TMAX」が、早くもモデルチェンジを実施した。今回の目玉はスピンフォージドホイールの採用と、利便性を高める新機能の数々だ。上位グレードのテックマックスの実力やいかに。
【テスター:大屋雄一】’01年デビューの初代TMAXで衝撃を受けたモーターサイクルジャーナリスト。国内外を問わずマキシスクーターの試乗経験も豊富だ。
●文:ヤングマシン編集部(大屋雄一) ●写真:長谷川徹 真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ
ケーブルレスの電子制御スロットルに上質なエンジンフィール
初代TMAXのデビューは21年前の’01年のこと。フルカバードのボディやシート下のトランクなど、見た目や装備こそスクーターに準じるが、ヤマハ自身はこれを「オートマチックスポーツ」と呼ぶ。その最大の理由は車体構成にある。
一般的なスクーターのリヤサスペンションは、エンジンと駆動系が一体となって上下するユニットスイング式なのに対して、TMAXはエンジンをメインフレームの剛性メンバーとし、スイングアームのみが可動する方式を採用。つまり、モーターサイクルと同様の構成とし、リヤサスペンションのバネ下重量を大幅に軽減しているのだ。
この新しいコンセプトは欧州を中心に支持され爆発的にヒット。’08年にはフレームがスチールパイプからアルミダイキャストに、’15年には倒立フォークやラジアルマウントキャリパーを採用するなど、モデルチェンジのたびに装備が豪華になっているが、開発思想や車体構成は初代から不変なのだ。
さて、今回試乗した最新の’22年モデル、コンセプトは「ザ・ビースト・アンベイルド」で、外装を一新するとともにライディングポジションを見直している。機能面では、ヤマハ独自のスピンフォージド技術による軽量ホイールをはじめ、スロットルケーブルを排除したAPSG/ナビ機能に対応する7インチカラーTFTメーター/ヤマハ初となる電動タンクキャップの採用などが挙げられる。なお、バリエーションは上位グレードのテックマックスとSTDの2種類で、価格差は18万7000円となっている。
エンジン/マフラー:エンジンは前作を継承
まずはエンジンから。360度クランクと往復式ピストンバランサーを採用する水冷並列2気筒は、初代から基本設計は変わっていない。ストロークは73mmのまま、’13年にはボアを2mm拡大して499→530ccに。’20年にはさらに2mm拡大して排気量を561ccとしている。最高出力は’20年モデルで46psから48psへとわずかに引き上げられたが、それでも排気量の大きさにしては控えめだ。これは欧州のA2ライセンスで乗れる上限が35kW(48ps)という事情も関係しているのだろう。
’22年モデルは、ユーロ5対応となった’20年型をベースにAPSG(アクセラレーターポジションセンサーグリップ)を新採用。電子制御スロットルYCC‐Tは’17年モデルから採用しているが、今回はケーブル自体を完全に省略した最新型となったのだ。
右手をわずかにひねるとすぐに遠心クラッチがつながり、スムーズに加速体勢に移行するのは’20年型と大きく変わらない。そこから先では、最大トルクを発生する5000rpm付近を維持しながら淀みなく速度が上昇し、体感的には750ccクラス並みの速さで100km/hに到達する。ドライブモードはT(ツーリング)とS(スポーツ)の2種類があり、後者の方が街中や峠道でややレスポンスがいいと感じたが、大きな差ではない。なお、トラクションコントロールがあるという安心感は大きい。
スロットルをガバッと開ければ力強く突進するものの、不快な振動やノイズは極力抑えられており、巡航時は必要以上に主張してこない。ラグジュアリーと表現できるほど上質なフィーリングであり、だからこそロングツーリングでも疲れにくい。他のマキシスクーターとは一線を画すエンジンだ。
ホイール&タイヤの進化で乗り心地の良さを底上げ
シャーシにおける主な変更点は、スピンフォージドホイールおよび新設計タイヤの採用と、それに伴うサスセッティングの変更だ。ホイールについては、慣性モーメントがフロントで約10%、リヤで6%低減したとのこと。
冒頭で説明したように、TMAXの車体構成は一般的なモーターサイクルに近いので、スロットルのオンオフやブレーキングで自然なピッチングが発生する。φ41mm倒立式フォークとアルミフレームによる剛性感はスポーツバイクに匹敵し、フロントブレーキを残しながら安心してコーナーに進入できる。ホイールベースが1575mmと長いこと、また積極的に舵角が付くタイプではないので、旋回力自体は決して高くはない。だが、バンク角の深さもあって、ワインディングロードの快走を心ゆくまで楽しめるうえ、それを支えているのはスロットルワークに集中できるオートマチックミッションだからこそという点にも気付かされる。
軽量ホイールについては、前作と直接比較していないので断言はできないが、乗り心地が良くなったように感じた。サスペンション設定はむしろ従来よりもややハードにしたとのことで、バネ下重量の軽減や新設計タイヤなどが総合的に乗り心地の向上に寄与したようだ。
主要装備:メーターはジョイスティックで直感的操作可
さて、新型で最も感心したのは、7インチ高輝度TFTディスプレイの採用だ。スマホとの連携機能はもちろんのこと、新設されたジョイスティックで直感的に操作できるのだ。今や高機能メーターは珍しくないが、スイッチが多すぎたり、必要な項目を呼び出すのに階層が深すぎたりして、使いづらいものが多々ある。その点、新型TMAXは扱いやすさでトップクラスにあるといっても過言ではなく、多くの人にこれを体験してほしいと思った。
上位グレードであるテックマックスの装備について説明しよう。今回試乗した車両がそれに該当し、電動調整式スクリーンやグリップ&シートヒーター(これらは先のジョイスティックで操作)のほか、クルーズコントロール/エンジンワンプッシュスタート/調整機構付きリヤショックユニットを標準装備している。電動スクリーンは、私の身長だと最も低い状態でも十分な防風効果が得られるが、風向きその他によって快適な高さは変わるので、それを手元で無段階に調整できるというのは非常に便利だ。また、高速道路の空いている区間ではクルーズコントロールを多用したし、ワンプッシュスタートはボタンを押し続けなくてもいいというイージーさが気に入った。グリップヒーター以外は後付け不可なので、買うならテックマックスを強くお勧めする。
スポーツモデル顔負けの走行性能は初代から変わらないが、それに磨きをかけつつ、さらにラグジュアリーかつ利便性を徹底的に追求したのが最新型のTMAXだ。個人的には、初代を彷彿させるイエローがSTDグレードにしかないことを残念に思ったが、テックマックスの都会的なカラーも嫌いではない。気になる方はぜひ試乗を!
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