今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はヤマハFZ750の修理/販売を専門に請け負う、兵庫県のクロスロード代表・山田將人氏に話を伺った。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:クロスロード
フルパワー化と足まわりの全面刷新
クロスロードではFZ750の中古車を豊富に準備している。実際に同店で車両を購入するとなったら、どんな手順を踏むことになるのだろうか。
「ウチでは通販も行っていますが、できることなら来店して、予算と好みに応じてベース車両を選んでいただいて、そこからどのレベルで仕上げましょうか、という相談がしたいですね。新車に近いコンディションを目指すと、トータルでの価格は300万円近くになりますが、それを強要するわけではありません。とりあえず普通に走れる状況から、徐々に完調に近づけていくという手法もアリだと思いますよ」
’80~’90年代以前のナナハンでよく話題になるのは、海外仕様のパーツを用いたフルパワー化。ちなみにFZの場合は、日本仕様の77psに対して、海外仕様の最高値は110psだった。
「それは確かによく話題になります。でも実際のパワーに数字からイメージするほどの差はなくて、2次減速比を同じにすればほとんど判別できません。と言っても、日本仕様の吸排気系が絞られているのは事実ですから、キャブセッティングやマフラーの変更を行う価値は十分にあるでしょう」
フルパワー化と同様に、FZ750でよく話題になるのは、FZR1000の部品を用いた足まわりの刷新だ。
「現役時代は最新にして豪華な構成だったのですが、現代の視点で考えると、フロント16インチはタイヤがあまり選べないですし、φ270mmベンチレーテッドディスク+対向式2ピストンの前後ブレーキも、利きやタッチは良好とは言えません。だから足まわりに物足りなさを感じる人には、ウチでは’87~’88年型FZR1000用(ホイールサイズは3.50×17/4.50×18で、ブレーキはφ320mmディスク+対向式4ピストン/φ267mmディスク+対向式2ピストン)への換装をオススメしています。この変更には、カスタムパーツの選択肢が格段に増えるというメリットもあるんですよ」
最後になってこんなことを聞くのも何だが、そもそも山田さんは、FZ750のどこに魅力を感じたのだろう。
「どんな用途にも使えるバランスのよさ…でしょうか。もちろん単純な速さでは、後継のFZR750や兄貴分のFZR1000のほうが上ですが、ツーリングとスポーツライディングの両方が存分に楽しめて、日常の足として気軽に使えるという見方なら、私の中ではFZ750に勝るモデルは存在しません。それに加えて私がFZ750を好きになった背景には、’86年のデイトナ200マイルで優勝した、エディ・ローソンのFZ750にシビれた…という事情もありますね(笑)」
かつては個人的な趣味としてFZ750を愛用していた山田さんだが、現在はこのモデル本来の素性を多くの人に味わって欲しいと考え、他店やネットオークションで購入した車両でも修理やパーツの相談を受け付けている。言ってみればクロスロードと山田さんは、多くのFZ750ユーザーにとって、心強い味方になっているのだ。
20台以上のベース車両と豊富な補修パーツを準備
クロスロードを訪れたら、誰もが驚くに違いないのは、販売を前提としたベース車両の数。20台以上のFZ750がズラリと並ぶ姿は圧巻のひと言で、こんな光景が見られるショップは、世界で唯一、同店だけだと思う。
ちなみに、ほとんどのベース車両にはプライスタグが付いていて、最も安いEランクの車両は15万円前後(整備履歴が不明で外観に問題アリ。走行距離は4万km以上か不明)。もちろん、そういった車両のレストアには相当な手間とコストがかかるから、購入してすぐにFZ750の世界を堪能したい人は、AランクかBランク(無事故で機関と外観のコンディションが良好。走行距離は、Aが1万km以内で、Bは2万5000km以内)、価格が60万円以上の車両を選ぶべきだろう。
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