‘80s国産名車 ヤマハFZ750 完調メンテナンス【現代の視点でも万能車の資質は一級品です】

今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はヤマハFZ750の修理/販売を専門に請け負う、兵庫県のクロスロード代表・山田將人氏に話を伺った。


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:クロスロード

フルパワー化と足まわりの全面刷新

クロスロードではFZ750の中古車を豊富に準備している。実際に同店で車両を購入するとなったら、どんな手順を踏むことになるのだろうか。

「ウチでは通販も行っていますが、できることなら来店して、予算と好みに応じてベース車両を選んでいただいて、そこからどのレベルで仕上げましょうか、という相談がしたいですね。新車に近いコンディションを目指すと、トータルでの価格は300万円近くになりますが、それを強要するわけではありません。とりあえず普通に走れる状況から、徐々に完調に近づけていくという手法もアリだと思いますよ」

【クロスロード:山田將人氏】’58年生まれで現在64歳の山田さんは、日本のバイクが世界の頂点に向かって駆け上がっていく姿をリアルタイムで体感。これまでに数多くのバイクを愛用してきたものの、FZ750だけは別格で、所有歴は36年に及ぶ。

’80~’90年代以前のナナハンでよく話題になるのは、海外仕様のパーツを用いたフルパワー化。ちなみにFZの場合は、日本仕様の77psに対して、海外仕様の最高値は110psだった。

「それは確かによく話題になります。でも実際のパワーに数字からイメージするほどの差はなくて、2次減速比を同じにすればほとんど判別できません。と言っても、日本仕様の吸排気系が絞られているのは事実ですから、キャブセッティングやマフラーの変更を行う価値は十分にあるでしょう」

フルパワー化と同様に、FZ750でよく話題になるのは、FZR1000の部品を用いた足まわりの刷新だ。

「現役時代は最新にして豪華な構成だったのですが、現代の視点で考えると、フロント16インチはタイヤがあまり選べないですし、φ270mmベンチレーテッドディスク+対向式2ピストンの前後ブレーキも、利きやタッチは良好とは言えません。だから足まわりに物足りなさを感じる人には、ウチでは’87~’88年型FZR1000用(ホイールサイズは3.50×17/4.50×18で、ブレーキはφ320mmディスク+対向式4ピストン/φ267mmディスク+対向式2ピストン)への換装をオススメしています。この変更には、カスタムパーツの選択肢が格段に増えるというメリットもあるんですよ」

最後になってこんなことを聞くのも何だが、そもそも山田さんは、FZ750のどこに魅力を感じたのだろう。

「どんな用途にも使えるバランスのよさ…でしょうか。もちろん単純な速さでは、後継のFZR750や兄貴分のFZR1000のほうが上ですが、ツーリングとスポーツライディングの両方が存分に楽しめて、日常の足として気軽に使えるという見方なら、私の中ではFZ750に勝るモデルは存在しません。それに加えて私がFZ750を好きになった背景には、’86年のデイトナ200マイルで優勝した、エディ・ローソンのFZ750にシビれた…という事情もありますね(笑)」

かつては個人的な趣味としてFZ750を愛用していた山田さんだが、現在はこのモデル本来の素性を多くの人に味わって欲しいと考え、他店やネットオークションで購入した車両でも修理やパーツの相談を受け付けている。言ってみればクロスロードと山田さんは、多くのFZ750ユーザーにとって、心強い味方になっているのだ。

【カスタムの可能性を示すクロスロードのデモ車兼代車】クロスロードのデモ車兼代車として活躍しているFZ750は、足まわりパーツの多くを’87~’88年型FZR1000(2GH)用に換装。フロントブレーキはサンスターφ320mmカスタムディスク+ヤマハ純正ブレンボで、同店のオリジナルマフラーにはセラコートが施されている。もちろんエンジンはOH済み。

20台以上のベース車両と豊富な補修パーツを準備

クロスロードを訪れたら、誰もが驚くに違いないのは、販売を前提としたベース車両の数。20台以上のFZ750がズラリと並ぶ姿は圧巻のひと言で、こんな光景が見られるショップは、世界で唯一、同店だけだと思う。

ちなみに、ほとんどのベース車両にはプライスタグが付いていて、最も安いEランクの車両は15万円前後(整備履歴が不明で外観に問題アリ。走行距離は4万km以上か不明)。もちろん、そういった車両のレストアには相当な手間とコストがかかるから、購入してすぐにFZ750の世界を堪能したい人は、AランクかBランク(無事故で機関と外観のコンディションが良好。走行距離は、Aが1万km以内で、Bは2万5000km以内)、価格が60万円以上の車両を選ぶべきだろう。

クロスロードの店内は、FZ750博物館? と言いたくなる雰囲気。2階のストックヤードには、エンジンから車体、外装に至るまで、多種多様な純正部品が整然と並んでいる。

エンジンのフルOHは同店にとっては日常茶飯事。お客さんの希望に迅速に対応するため、外観にセラコートを施したOH済みのエンジンも準備している。

【貴重な純正外装を豊富にストック】外装部品はすべて欠品で、ネットオークションでは’00年にワイズギアが販売した復刻セットが高値で取り引きされている。そういった事情を考慮して、クロスロードではさまざまなコンディションの外装を準備。日本ではオプション設定だったシングルシートカバーの在庫も豊富。

【取材協力:クロスロード】’85年に創業したクロスロードは、もともとは2輪用品店だったものの、今から15年ほど前にFZ750専門店にスイッチ。代表の山田將人さんが自分自身のために補修用パーツを集めていたら、いつの間にか膨大な数になり、さらには数多くの車両が持ち込まれるようになったため、専門店としての活動を決意したと言う。 ■兵庫県三木市細川町西字東山650-8 ●TEL:0794-86-2635


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