バイクを愛して止まないコアなベテランライダーたちのために、あえて少量生産を前提にしたこれまでにない手法で送り出した新機軸ロードスポーツ。それがホーク11だ。本記事では、開発陣への個別インタビューと座談会を通じて、ホンダが本機に込めた思いを探る。
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:ホンダ ●外部リンク:ホンダ
‘22 ホンダ ホーク11 概要
ホンダ ホーク11 開発者座談会
吉田昌弘氏:ホーク11開発責任者代行完成車開発部アシスタントチーフエンジニア
倉澤侑史氏:パワーユニット開発部動力設計指導員
三木聡介氏:完成車開発部アシスタントチーフエンジニア
櫻田啓太氏:完成車開発部アシスタントチーフエンジニア
斎藤隼人氏:パワーユニット開発部スタッフエンジニア
大和風馬氏:完成車開発部
八重樫裕郁氏:本田技術研究所デザインセンターチーフエンジニアモデラー
YM―あらためてコンセプトからお聞かせください。
吉田氏―「速くない、でも少し速い」。ホーク11はグローバルな市場トレンドなどを基にした通常の企画プロセスとは異なり、社内提案活動から生まれた商品アイデアをASP=アーキテクチャーシリーズプロジェクト(フレーム/エンジン/足まわりなど既存のアーキテクチャーを活用しながら現行ラインナップとは異なる位置づけの派生車種展開として、市場規模/設定台数に対応した造り方などの検討成果も取り入れた開発方法)として具現化した日本専用モデルです。
きっかけは「アフリカツインのエンジンでワインディングを楽しみたい」という社内の人間の思いでした。造りたかったのは「凄いバイク」ではなく、バイクを乗り継いできた大人がつかの間の至福を大事にするために半日の自由を見つけて出掛けて楽しいバイク。心地よいアフリカツインエンジン/ロードスポーツモデル/ロケットカウルという三条件は提案時から決まっており、革ジャン姿が似合うようなスポーツモデルをイメージしました。そんな思いをASPによって巨大市場を狙わなくても良い生産方法が選択できるため、開発者やデザイナーの思いをよりストレートに反映できたのです。特にロケットカウルはホンダ車としてはRC30以来のFRP製とすることができ、通常の金型製作ではできない曲面構成や継ぎ目のない美しい一体成型を実現することができました。
倉澤氏―ロケットカウルは従来どおりの金型製法だと折り返し部分などが抜けないため、5分割くらいにしないといけなかったですね。この他にも専用設計のエアクリーナーボックスにASPだからできる製造方法を取り入れたりしています。
大和氏―バックミラーもロケットカウルの雰囲気を崩さないために、あの位置にしました。どうせなら取り付け用の穴も開けたくない。どうしたら解決するかテストチームや製造チームからの提案も交えて検討した結果、ステーに取り付けることとしました。もちろん、見やすさなど社内基準には合格しています。
三木氏―スクリーンの留め方もビスではなくスタッドを使ってこだわりました。そうしたホーク11ならではの細かいところも味わってほしいですね。
YM―ロケットカウルと言えば’16ミラノショーで発表されたコンセプトモデルのCB4インターセプターがありましたが、あちらとの関係は?
八重樫裕郁氏―あちらはヨーロッパスタッフが進めた企画のため、直接のつながりはありません。デザイン中も一時はスーパースポーツのように見えてきたのを納得できずに直したりなどの連続でした。
YM―走りの面では具体的にどんなことを行ったのでしょうか
吉田氏―フレームを前に2.5度傾けキャスター角を立て、寸法的にホイールベースも短縮、マフラーもNT1100のパーツを流用しながら取付角度をハネ上げてバンク角を確保するなど、より思うようにワインディングを駆け抜けたいという要求に応えられるようにしました。その一方でライディングポジションを前傾姿勢にしつつも’08 CBR1000RRよりハンドルの高さを103mm上げるなど、大人が気持ちよく楽しめる設定としました。
倉澤氏―エンジンはハード的にはアフリカツインと一緒ですが、スロットル開度設定の調整やエンジンブレーキを多少強めとすることで、よりダイレクトなスポーツ感を与えました。
吉田氏―走りの面でも思い描いた通りのマシンを作ることができました。大人の週末をこれで楽しんでほしいですね。
吉田昌弘氏(ホーク11開発責任者代行完成車開発部アシスタントチーフエンジニア)
本年5月で定年退職を迎えた本モデル開発責任者である後藤悌四郎の後を受けました。後藤が示した“シンプル/集中/スピード”、決めたら突っ走るの開発姿勢をASPを活かすことにより当初のコンセプトからブレることなく完成したのがホーク11です。ASPのテストケースとして、これからのホンダのバイク造りに新しい道を刻むことができました。
倉澤侑史氏(パワーユニット開発部動力設計指導員)
燃料タンクを低くするためにエアクリーナーボックスは専用開発です。その際、ブロー成形を採用するなど少量生産に対応したASPに則った作り方にここでも挑戦いたしました。
三木聡介氏(完成車開発部アシスタントチーフエンジニア)
コクピット演出としてFRPの裏がキレイに見えるよう配線処理など細部に至るまでこだわりました。ロケットカウルは一体成型ながら塗り分けているところも見どころです。
櫻田啓太氏(完成車開発部アシスタントチーフエンジニア)
耐久性を担当しました。リヤフレームをスッキリさせるためにエンドピース部を鋳造材からプレス材としましたが、しっかり強度を持たせるよう、どこも一切妥協していません。
斎藤隼人氏(パワーユニット開発部スタッフエンジニア)
既存部品が多いなかで専用設計のエアクリーナーボックスや前から取り入れる吸気ダクト位置などを工夫することで吸気音による演出を高めました。音圧も大きくなっています。
大和風馬氏(完成車開発部)
ロケットカウルも空力的にハンドリングへ影響する部分ですが、絶対に決めたカタチは崩さないと、ラジエターカバーなど他の部分の形状で調整するなどチーム一丸で頑張りました。
八重樫裕郁氏(本田技術研究所デザインセンターチーフエンジニアモデラー)
横から見てボディ前後にわたる水平ラインとピボット後端からタンク、シートを分ける垂直ラインの大胆な交差を基調としました。FRP製法のおかげで自由度が高まりました。
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