バイクを愛して止まないコアなベテランライダーたちのために、あえて少量生産を前提にしたこれまでにない開発手法で送り出した新機軸ロードスポーツ。それがホーク11だ。峠にもたらされる大人の走りの空間を、丸山浩が試乗してチェックした。
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダ
ライディングポジションはレーシーだがラクチンだ!
「速くない、でも少し速い」だって…? 開発者がプレゼンテーションで提示してきたキャッチフレーズは、なかなか挑戦的だ。しかも、人生の大半をずっと乗り続けてきた50代/60代のベテランライダーたちが最後の1台として選びたくなる「上がりバイク」を目指したという。マスプロメーカーのホンダらしからぬニッチなところを攻めてきているが、販売台数含めてそれを承知の上で作ったというから面白い。スタイリングについては賛否両論あるだろうが、少量生産を逆手にとってFRP一体成型のロケットカウルを採用するなど、思い切った作り方が印象的だ。私としては「まだまだ上がりバイクなんか乗るものか」と思ったりもしたのだが、はたしてホンダが思い描く「上がりバイク」像とはどういったものか? 興味津々で試乗に挑戦してみた。
まずは跨った感じからインプレしていこう。トップブリッジの下にマウントされたハンドルやカウルの裏にのぞくFRP素材の雰囲気は、カフェーレーサーらしくなかなかにレーシー。だが、その雰囲気と裏腹に前傾姿勢そのものは比較的ラクチン。たしかに伏せはするのだが半日くらいの距離だったら、そう疲れないだろうなと予感させる。足着きも身長168㎝の私でかかとが少々浮く程度と良好だ。そして前後が長めで大型車としての雰囲気をしっかりと出しつつも、引き起こしが軽い。走りだした後にも気付かされるのだが、この疲れないイージーさとスポーツバイクとしてのちゃんとした完成度が両立しているところが、ホーク11の大きな特徴となっている。
ハンドリングもなかなか考えられている。スーパースポーツのようなブレーキを引きずってフロントサスを縮めグイグイとインに入っていくような旋回の仕方ではなく、長めのホイールベースとキャスター角25度の設定もあり旋回力自体は緩やか。しかし、その分だけ旋回中の安定感が高く、ピタッと路面に吸い付いているような気持ちよさがある。しかもバンク角はけっこうあるので、マシンはしっかりと寝る。したがって一瞬で曲がるよりも、寝かして曲がっている時間を長く楽しませてくれる=タイムを削るような走りではなく速さにとらわれずに思い描いたラインを走り抜ける爽快感を味わわせてくれるキャラクターとなっていた。
ブレーキもしっかり利きつつ唐突さのない実に扱いやすいものだったが、エンジンのゆとりもあり、ブレーキを多用せずアクセルオンオフのみのワンギヤで走れる緩さまで見せてくれる。また車重の軽さもマシンをワインディングで操るうえでこの疲れなさに大きく貢献していた。たしかにこれなら、イケイケの走りはもう十分だが、疲れずにスポーツライディング自体はしたいというライダーにピッタリだ。
ちなみにライディングモードはスポーツ/スタンダード/レイン/ユーザーの4段階があるが、「スポーツ」はそこそこ元気でアクセルのツキやエンジンブレーキは強め。トラクションコントロールオフならフロントも浮かせられる。ホーク11らしい走りは「スタンダード」がベスト設定だった。
街中や高速道での性能もチェックだ
街中の使い勝手でいうと、セパレートハンドルということもあり切れ角はそこそこ。だからUターンや小回りは得意というわけにはいかないものの、車重が軽いために取り回しや駐輪場での押し引きも含めて相対的に見ると、やはりイージーな部類。エンジンは下から使えるから、これももちろんイージーだ。特徴的なバックミラーも見るのに慣れが必要ではあるが視界確保そのものは優秀で、しっかりと後方の様子をうかがうことができた。カフェレーサースタイルではバーエンドミラーという手もあっただろうが、横幅が増えて狭いところで面倒になることを思えば、こちらの方が使い勝手はいいかも。
高速道路ではロケットカウルの防風性能を見てみたが、風を避けようとすると自然と強めに伏せる前傾姿勢に。面白かったのはタンクの高さで、伏せるとちょうどいい位置にお腹を乗せることができ絶妙に疲れないようになっていた。防風性能自体は上半身はいいものの膝まわりを中心に下半身には結構風が当たってしまう。開発者によると半日程度を楽しむことが前提となるマシンということで、長距離ツーリングよりも軽さを大事にショートトリップでのスポーツライディングを優先したといった感じだ。長距離性能を優先したいならNT1100があるしね。
総評:「上がりバイク」ではもったいない、予想以上に楽しいバイクだ!
ホーク11は、疲れや緊張感を持たせないのにしっかりとスポーツの楽しみそのものは与えてくれるという性格で、数々のマシンを乗り継いだ末に選ぶ最後の1台に見事な出来栄えとなっていた。だが走り終えてみると、このキャラクターは単に「上がりバイク」で終わらせるにはもったいない気もしてきた。私としてはタンクやシートカウルもロケットカウルに合わせてもっと丸い形状の方が琴線に触れるのだが、そこは人によって好みが変わる。あえてレトロそのものではないスタイリングも含めて、このホーク11は30代くらいの若い世代にも受ける要素が十分にあるのではないだろうか。
アフリカツインの兄弟車はこれで4ジャンル揃い、心地よいエンジンを好みのバイクライフスタイルで楽しめるようになった。その中でもホーク11は価格面でも良心的な印象だ。少量生産前提だとはいうが、今後の発展に期待してしまう私だった。
その際に要望したいのはオプションでも用意されていないクイックシフターの採用だ。せっかくここまで疲れないバイクになったのだ。ここは彼らにぜひともクイックシフターのラクチンさも知ってもらいたいと思うのだ。
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