MotoGPパドックも、自分も、シーズンの準備をする時期

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.74「おじさんになった証拠でしょうか?」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第74回は、シーズンに向けてテストが始まったMotoGPの話題を中心に。


TEXT: Go TAKAHASHI

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ディフェンディングチャンピオンのヤマハは苦戦しそう?

エンジンに不満を漏らすディフェンディングチャンピオンの#20 ファビオ・クアルタラロ選手。

MotoGPのマレーシア公式テストが行われましたね! ’22シーズンが動き出した感じがして、わくわくしている方も多いのではないでしょうか。僕も連日しっかりとテストの様子をチェックしました。

1回のテストではまだ分からないことだらけですが、ちょっと気がかりなのはトップスピードが伸びないヤマハです。最高速は計測ポイントやライディングスタイルによって誤差が出やすいもの。それにしても、ファビオ・クアルタラロの最高速327.2km/hは、最速のドゥカティに比べて約8km/h低く、見逃せない差になっています。

同じ直4エンジンのスズキはジョアン・ミルもアレックス・リンスも330km/hを越えている一方で、ヤマハは全員が320km/h台。クアルタラロはさっそくエンジンに不満の声を挙げていますが、エンジン開発が凍結されている現状では、今から大幅な性能向上はなかなか望めないでしょう。最高速は一瞬のことなのでひとつの目安に過ぎず、結局はトータルパフォーマンスがものを言いますが、ヤマハはちょっと苦戦しそうですね……。

きっちり330km/hを超えてきたスズキ(#36 ジョアン・ミル選手)と、やはり最高速でトップになったドゥカティの2台(#43 ジャックミラー選手/#63 フランセスコ・バニャイア選手)。事前テストでは本シーズンと異なるヘルメットカラーなども楽しみのひとつ。

ちなみにライダーによって最高速を出すのが得意、不得意があるんですよ。僕の現役時代で言えば、マックス・ビアッジは最高速を出せるライダーでした。体の伏せ方や、体そのものの形状も関係あるんでしょうね。

僕は普通。ロリス・カピロッシはあまり得意じゃありませんでした(笑)。アプリリア時代、ロリスが「テツヤだけ最高速が伸びるのはおかしい。エンジンを取り替えてくれ」と言ったことがありました。「仕方ないな」とエンジンを交換したところ、ロリスのエンジンで走った僕の方が最高速が上回ったんです。「また取り替えろ」という話になりましたが、さすがにそれは拒否しました(笑)。

Moto2のマシンがMotoGPマシンに近付いている

マレーシア公式テストを見ていて思ったのは、新人勢が最初から速いこと。今年はラウル・フェルナンデス、ダリン・ビンダー、ファビオ・ディ・ジャンアントニオ、マルコ・ベゼッキ、レミー・ガードナーの5人がMotoGPにステップアップしてきます。タイムシートでは新人勢最高位のベゼッキで16番手ですが、トップからのタイム差は1秒以内。新人勢がすごい一方で、今のMotoGPマシンは相当乗りやすくなっているんだろうな、とも思います。Moto2マシンとの差もだいぶ近付いてますよね。

豪快な走りで知られたワイン・ガードナー選手。写真は1987年だ。

昔話をするのもナンですが、僕が現役だった2スト時代は、250ccと500ccではまったくの別物で、重さもスピードもパワーもすべてが倍、という感じでした。2スト500ccマシンで不用意にスロットルを開けるとあっという間に後輪が滑り出し、スライドが止まったと思ったらパカッと前輪が浮いてしまうといった具合。電子制御なんてないから剥き出しのパワーと向き合わなければならず、もうとんでもないジャジャ馬でした。

今のMotoGPライダーが楽をしているとはまったく思いません。ワンメイクタイヤ、共通ECUなど多くの足かせがあり、マシンの性能差が接近している中でライバルに打ち勝たなくてはいけないのは、本当にシビアで難しい戦いだと思います。でも、電子制御の搭載やトータルバランスの向上で、ライダーの腕の差が出にくくなっているのも確か。マシンがイマイチなのにライダーの腕で勝ってしまう、なんていう劇的な大どんでん返しはすっかり見られなくなりました。

これは決して良し悪しの話ではなく、時代の流れだと思います。四輪でいえばF1がすっかりシステマチックになりましたが、二輪のMotoGPも同じ方向に向いているように感じます。ただやっぱり、2スト500ccマシンをテクニックで乗りこなしていた時代のライダーたち、ウェイン・レイニーとかケビン・シュワンツとかワイン・ガードナーたちは本当にすごかったと思います。

最新のMotoGPマシンはレース中にエンジンマッピングを変え、ライドハイトアジャスターを操作し……と、やることがたくさんあるようです。タイヤを保たせるために考えなくちゃならないことも多い。マシンを操るというより、どれだけうまくレースマネージメントをするかが勝負の鍵を握っています。ライダーはマシンについて深く理解しなければならないし、電子制御も使いこなさなくてはなりません。

でも、かつてレーシングライダーとして電子制御のない時代を走った身としては、すべての制御を取っ払ってライダーの腕だけでの勝負を見たい気もするんです。300ps近い馬力を出している今のMotoGPマシンから電子制御をなくしたらタイムは落ちるでしょうしハイサイドも続発するでしょう。でも、必ずコントロールし切る人も出てくるはず。そういう分かりやすいすごさにも触れたいな、と思うのは、おじさんになった証拠でしょうか(笑)。

続けざまにインドネシアで公式テストが行われるMotoGP。初開催となるマンダリカサーキットでMotoGPライダーがどんな走りを見せるか、こちらも注目したいと思います。

今年からウエアはダイネーゼに。タイヤはミシュラン・ロード6がお気に入り

モナコは意外にもかなり暖かいです。16〜7℃あって、半袖Tシャツでも過ごせるぐらい。でもミストラル(フランス地中海沿岸を中心に吹く冷たい北風)が強く、風に当たるとちょっと肌寒いかな……。それでも少しずつ春の到来を感じます。

本格的なバイクシーズン到来前に、走る準備を整えよう……ということで、今年からウエア類のお世話になることになったダイネーゼのショップに出向き、レーシングスーツ用の採寸をしてきました。ショップはモナコから500kmほど離れたイタリア・ヴィチェンツァの街にあるんですが、とにかく大きくて立派。ケニー・ロバーツやエディー・ローソンなど往年の名ライダーたちのレーシングスーツが飾ってあったり、見所もたくさんありました。

お店が大きいだけでなく、ミュージアムも凄かったダイネーゼ。

タイヤも何を履こうかな、といろいろ考えていますが、今、気に入っているのはミシュランの新製品、ロード6です。昨年末に日本でロード5、ロード6の乗り比べをしましたが、ロード6はすごく軽快。バイクは「早寝早起き」という僕のライディングスタイルにはぴったりでした。ビッグバイクのハンドリングも軽やかになるので、重さに悩んでいる人にはオススメです。

ただ、試乗会でいろんな方と意見交換しましたが、好みはまちまち。僕にはまったりしているように感じるロード5の方が安心できる、という方もいたし、僕と同意見の方もいました。ミシュランではロード5も継続して販売するそうなので、好みで選べるのがいいですよね。選択肢が増えるのはとてもいいことだと思います。

僕は常日頃から、タイヤこそ最重要カスタムパーツだと考えています。春になり、冬の間眠らせていたバイクを久しぶりに走らせる方は、ぜひ一度タイヤのコンディションをチェックしてみてくださいね。

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