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今年のモトGPと8耐の開催を祈りつつ……

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.73「メカニック/エンジニアとの信頼関係がなければ」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第73回は、レースが信頼で成り立つチームスポーツだ、ということについて。 ※タイトル写真は2001年オランダGP

TEXT: Go TAKAHASHI 

「パパ、挟まれてるよ」

新型コロナウイルス、オミクロン株が猛威を振るっていますね。こちらヨーロッパでは新規感染者数は多いものの、いろいろな規制がどんどん解除されてきています。経済を回す方向にシフトしてますね。日本ではまん延防止等重点措置が実施されているようですが、小さな飲食店など持ちこたえられるのか……。難しいバランス取りですね……。

こちらモナコは外出制限もなく、ほぼ普通の生活が送れていますが、僕は用心のため最小限の外出に留めています。それでも先日、ロリス(カピロッシ)と食事して、モトGPの情報を収集しました。モトGPは、テストも含めておおむね予定通り行われるようです。マレーシア公式テストも特例措置のもとで開催されると聞きました。

相手が新型コロナウイルスなのでいろいろ流動的ですが、徐々に日常が戻ってきているのも確か。モトGPも早く通常通りに開催してほしいし、今のところカレンダーの9月25日に記載されている日本GPも無事に開催されることを祈っています。鈴鹿8耐も開催してほしいな……。

モータースポーツもあちこちから開幕の声が聞こえてきました。モナコでは先日、WRC(世界ラリー選手権)第1戦・モンテカルロラリーが行われました。先週の火曜日、PCR検査と予防接種がてら、少しだけ準備中のパドックを観て歩きましたが、ラリーもいいものですよね。

昨日は長女を学校までクルマで送っていったんですが、「パパ、挟まれてるよ」と。見たら、前後ともラリーカー。普通に街中を走るんです。ただ、バリバリ音は普通じゃありませんでしたが(笑)。モンテカルロラリー開催期間中もあまり家を出なかったので盛り上がっていたのかは分かりませんが、セバスチャン・ローブが史上最年長の47歳で優勝したのは本当にすごいと思います。

WRCは過去に何度か現地観戦したことがありますが、WRCドライバーは完全に頭のネジが吹っ飛んでますね(笑)。ドライバーとコドライバー(※助手席でペースノートを読み上げる)で下見をしているとは言え、猛烈なスピードでドリフトしながら中速コーナーを駆け抜けていく姿はしびれます。

頭のネジが……と言いましたが、ドライバーとコドライバーが厚い信頼関係で結ばれているからこそのドライビングです。ドライバーはコドライバーの読み上げるノートの情報を信じてアクセルを踏んでいく。長年ずっと同じペアを組むことが多い、というのも分かる気がします。

レースは信頼関係で成り立つチームスポーツ

イタルトランスレーシングチーム。中央がジョアさん。→ご本人のInstagram [写真タップで拡大]

僕が現役時代、アプリリアではずっとジョア(ジョバンニ・サンディ)がチーフメカニックを務めてくれました。大ベテランで、今もモト2のイタルトランスレーシングチームでチーフメカニックをやっています。彼はイタリア語しか話さず、僕はヤマハから移籍した当時はイタリア語がまったく話せなかったので言葉の面では苦労しましたが、最初から信頼関係が結べていました。

チーフメカニックは、走行直後のライダーからコメントを聞き、その情報を整理したうえでマシンセッティングの方向性を決めていくという、非常に重要な役割を果たす人です。ライダーのコメントの中でどこが重要なのかを正確に読み取って、課題を解消するためにどこをどうセットアップするかを決める人ですからね。チーフメカニックとライダーの間に信頼関係がなければ、レースはうまくはかどりません。

そしてさらに、チーフメカニックと、その下で働くメカニックとの間の信頼関係も大事です。チーフメカニックが指示を出し、メカニックが実作業を行いますので、ちょっとでも認識がずれていたらうまくいかないんです。特にセッティングはものすごく繊細なので、ライダーのコメントをチーフメカニックが正確に読み取り、チーフメカニックが正しい指示を出し、メカニックがその指示に正確に従う必要があります。

ちなみにアプリリアでは、チーフメカニックが絶対的。チーフメカニックとライダーが話している時にメカニックが口を出すことは一切ないし、チーフメカニックが指示を出す前にメカニックが作業することもありませんでした。指示があったら、指示通りに作業する。指揮系統はものすごく明確で、徹底していましたね。これは今のGPチームも同じじゃないかと思います。

チーフメカニックのさらに上には、チーフエンジニアがいます。僕の時はジジ(ダッリーリャ)でした。今はドゥカティのモトGPチームを束ねていますから、ご存じの方も多いと思います。ジジはとにかく冷静で頭がいい。全体をよく見渡しながら、方向性を決められる人ですね。レースに限らず、いろんなことをよく知っています。今のモトGPマシンではドゥカティが1歩先を行っていますが、ジジのアイデアが大きく影響していると思います。

2001年バレンシアGPにて。右端がジョアさん、後ろで立っているのがジジさん、そして左端が原田さんだ。 [写真タップで拡大]

チーフメカニックのジョアも、チーフエンジニアのジジも、ライダーである僕にはとにかく優しかったですね(笑)。トラブルが発生して走れなくなりピットに戻ってくると、ライダーはカッカきていて、罵声を浴びせるようなこともあるわけです。でも彼らは、まずは静かに話を聞いてくれる。反論なんて一切しません。

そしてライダーがさんざん怒鳴り散らしてトーンダウンしてから、「……で、どうだったの?」と優しく聞いてくれる。この「間」がまた、絶妙なんですよ(笑)。人格も経験も問われる、相当大変な仕事だと思います。

現役時代は、「ちょっと言い過ぎちゃったかな」とか、「もっと優しく接しておけばよかったな」なんて、まったく思いませんでした。まぁ、今となってはちょっと思いますが……(笑)。でも現役で走っている時というのは、ちょっとしたトラブルでもライダーは命懸けですし、何よりも勝つためにレースしていて、真剣だからです。だから何事にも本気で当たる。

そしてもうひとつ大事なのは、チームをとことん信頼している、ということです。「この人たちなら絶対に何とかしてくれるはずだ」「もっとよくなるはずだ」と信じているからこそ、ライダーも声を荒げる。そして声を荒げるからには、問題が解決した時にはキッチリと成績で応えるんです。マシンの乗り手は少しでもいい成績を出そうとして、マシンの作り手は少しでもいいものを作ろうとする。お互いにリスペクトし合っていてからこその、プロの現場です。

こういう信頼関係の上に成り立っていると、なかなか新しい人を入れるのが難しいのも確かです。アプリリアも人選にはすごく慎重でした。誰かが入ったことでバランスが崩れてしまったり、今までうまく行っていたものがうまく行かなくなったりする可能性があるから。例えばものすごく優秀な人がひとり入ったとしても、他の人とコミュニケーションが取れないようでは、チームとして機能しなくなってしまう。

走っているライダーが目立つレースですが、徹底してチームプレーだと思っています。僕はチームスタッフをめちゃくちゃ大事にしていたし、チームスタッフも僕をめちゃくちゃ大事にしてくれました。先日、ロリスがアプリリアのファクトリーに行ったら、ズラリと並ぶマシンの一番先頭に僕が乗っていたアプリリアの500ccマシンが置いてあったそうです。「テツヤのマシンが1番目立ってたぞ!」とロリスに言われて、ちょっとうれしかったですね。

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