ヤンチャさと安心感が同居! ヤマハMT-09/SP試乗インプレッション【言うことを聞く暴れん坊】

ヤマハMT-09/SP試乗インプレッション

官能トルクの新機軸エンジンでモーターサイクルの世界に旋風を巻き起こしたヤマハMTシリーズが、さらに魅力を増したユーロ5時代対応の第3世代に進化して登場。3気筒ネイキッドのMT-09と上級版SPは、扱いやすい低中回転に対し、ひとたび高回転まで回すと豹変するヤンチャぶりが魅力だったが、新型となってどう変わったのか? テスター丸山浩氏が全開でテスト開始!


●文:ヤングマシン編集部(宮田健一/中村友彦) ●写真:長谷川徹/真弓悟史

【テスター:丸山浩】今回のテストを行うのは、ヤングマシンでおなじみウィズミー会長・丸山浩氏。弾けるような3気筒エンジンの楽しさに、取材当日の気分はこれまでになくハイ。おかげでプロフィール写真もいつもより高く飛び跳ねた!

“言うことを聞かせられる暴れん坊”新型MT-09!

MT-09は、3気筒エンジンの弾けるような楽しさを見せるために、初代はわざとバランスを崩して過激で暴れん坊な部分を前面に演出したマシンだった。さすがにやりすぎ感があったのか、2代目ではサスペンションを煮詰めてピッチング方向の動きに落ち着きを出し、トラクションコントロールも装備して、過激さはなくさずにコントロール性を向上していた。

3代目となった今回もこの路線を踏襲し、より魅力的なグレードアップを果たしている。エンジンはユーロ5に適合するとともに、ストロークを延ばして排気量43cc&4psをプラスすることにより、パワー感をさらにアップ。その一方でフレームは完全新設計とし車重全体では4kg減と、基本スペックだけとって見ても着実に進化していることがうかがえる。新フレームは剛性の強化なども行わているが、他にスピンフォージド製法の新ホイールも目を引いた。ホイールの外側を軽くして慣性マスを軽量化しているのだが、こうした様々な部分の積み重ねで、暴れん坊ぶりを発揮した後のコントロール性を良くしようとした努力が感じられる。

【YAMAHA MT-09/SP】●色:灰 青 暗灰/黒 ●価格:110万円/126万5000円

【軽いから不安も少ない】ライディングポジションは自由度が高く、足着きは親指の付け根が接地するかたち。つま先ツンツンだった派生車トレーサー9GTよりも良好で、車重が31kgも軽いので、取り回しや引き起こしは随分と楽に感じられる。[身長168cm/体重61kg]

そんなわけで、歴代MT-09に乗ってきた私がやることと言えば、まずウイリー(笑) 元気なこのマシンに跨ると、どうしてもやりたくなってしまう。クローズドな場所でしっかり試してみたところ、新型になったらますます楽しくなっているのを実感できた。トラクションコントロールをオフにしてスロットルをガバっと開いて発進。まず当たり前のようにフロントホイールが浮き上がる。速度が乗りフロントが落ちてくるところで2速にシフトアップ。するとまた浮き上がる。3速にアップしてもまた浮き上がる。もう止めどもなくフロントを上げ続けていられる。これこそが私の思うMTの面白さそのものと言っていい。新型では排気量アップとロングストローク化によるトルクアップで、このウイリーコントロールがさらにしやすくなっていた。

持ち味だった暴れん坊ぶりに少し言うことを聞かせられるようになったというか、より元気なライディングに挑戦したくさせてくれる。加えてトラクションコントロールの進化もすごかった。私が最初にトライした時はオフにしていたけど、これがトラクションコントロールのモード1だともっと簡単にハーフウイリーを続けることができる。今まで苦労して暴れん坊を手なずけていたハードルがしっかり下がっていた。

もっとも、誰もが激しい走りをしなければならないということはない。MTの3気筒は、5000rpmぐらいまでの低速域では2気筒のMTに非常に似ている従順さとパルス感を見せて、驚くほど扱いやすい。そして5000〜7000rpmにかけては次第に3気筒らしいパワーの盛り上がっていくさまを楽しむことができる。普通に走っている場合は、このあたりの領域でほとんどまかなえて十分に楽しく走ることができる。パッキーンと脳に響くようなパンチ力で一気に突き抜けていくのは7000rpm以上。そこからはマニアックな上級ライダーに向けて用意された領域だ。

フロントにKYB製、リヤにオーリンズ製のハイグレードサスを装備した上級版の「SP」は、今回も引き続き設定される。SPのサスセッティングはSTDより硬めな設定で、乗り心地の良さで言ったらSTDの方がいい。しかし、純粋に暴れん坊ぶりを楽しむだけならSTDでも十分だが、それをコントロールしきろうと思うベテランライダーならば断然SPの方がオススメだ。対応できるスピード域がグンと上がってくる。ダンパー性能に優れたSPのサスペンションは、ドカンと加速してフッとサスが伸びた状態から今度はハードブレーキで一気に縮めるような場面でも奥でしっかり踏ん張り、よりハイペースなコーナリングでGをかけても耐えてくれ、ギャップがあってもダダダと路面からのショックは感じるものの、前後タイヤの表面はけっして路面から離さないといったマシンの意志が伝わってくる。SPはサスが硬めとはいえ足着き性自体はSTDと変わらず、車重も1kg増に収めているのもポイントが高い。

低中回転域なら普通の乗り方もできるが、やっぱりいかにこの暴れん坊ぶりを楽しむかがこのマシンの本質だと思う。そんな激しいマシンを誰が欲しいんだろうと思う人もいるだろうけど、そういうのが好きな人がちゃんといるのだ。正直、パワーを使い切るのは難しいが、そこにこそ魅力が詰まっている。

純粋に暴れん坊ぶりを味わうだけならSTDでも十分。それを手なずけて、さらなる速度域での走りを極めたいなら迷わずSPを選ぶべし。

セカンドオピニオン:タイムを削る走りならSPのほうが確実に有利

【2ndテスター:中村友彦】旧車から最新モデルまでオールマイティなフリーライター。タイヤへの造詣も深い。

このセカンドオピニオンは、ヤマハが開催したサーキット試乗会の報告である。あくまでも個人的な印象だが、既存のMT-09はサーキットを走って楽しいバイクではなかった。その原因は、スロットルとブレーキ操作に対する車体の反応で、過剰と言うのかラフと言うのか、いずれにしても友好的ではなくて、僕の腕ではどうにも御しにくかったのである。

しかしながら、フルモデルチェンジを受けた’21年型はそういった問題を見事に解消していた。と言っても、単にマイルドな特性に仕立てたのではなく、高回転高速域のやんちゃさとアグレッシブさは相変わらず。でも、迂闊な操作をすると予想以上に車体姿勢が変化してしまうため、恐る恐るの操作になりがちだった従来型とは異なり、あらゆる要素が洗練された新型は乗り手に絶大な安心感と自信を与えてくれて、MT-09ならではのやんちゃさとアグレッシブさを思いのほか気軽に楽しめてしまうのだ。

より印象が強かったのは、足まわりの動きがしっとりしているSPだ。一方のSTDは、従来型の特徴だったスーパーモタードテイストがSPより多めに残されるようで、その特性に好感を持つ人はいると思う。とはいえ、サーキットではSPの方が確実にタイムを削れるだろう。


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