トヨタ自動車の豊田章男社長は、政府が「2050年のカーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」と宣言したことを受け、再生可能エネルギーの選択肢を増やすべく、水素を燃焼させる内燃機関を搭載した水素カローラでスーパー耐久に参戦。参戦2戦目となるオートポリスでは、川崎重工と大林組が仲間に加わって会見が行われた。
●素材提供:トヨタ自動車
スーパー耐久シリーズ、第4戦を前にトヨタ×川崎重工×大林組が会見
トヨタは、5月21日~22日富士スピードウェイで行われたスーパー耐久シリーズ2021第3戦「富士SUPER TEC 24時間レース」に水素エンジン、つまり水素をガソリンの代わりに燃やす内燃機関で走るカローラ『ORC ROOKIE Corolla H2 concept(以下、水素カローラ)』で出場。これに続き、8月1日に決勝が行われた同シリーズ第4戦「スーパー耐久レース in オートポリス」では、1戦目で明らかになった課題を改良、カイゼンし、ストレートの加速性能を9%程度上昇、さらに大量に積載された計測機器の軽量化を40kgほど行い、レースで戦える車両として進化した水素カローラを持ち込んだ。
富士スピードウェイでは度重なるトラブルに悩まされながらも24時間を完走。オートポリスでも、改良を加えた水素カローラでST-Qクラス2位(表彰なし)でゴールしている。
この第4戦オートポリスの決勝に先立ち、7月31日には我々バイク系メディアにとっても興味深い会見が行われた。というのも、川崎重工が参加していたのだ。さらに、大手建設会社の大林組も列席した。
つくる、運ぶ、使うの実証実験にモータースポーツを!
太陽光や地熱などの再生可能エネルギーで発電し、その電気をもとに電気分解によって生成されるグリーン水素は、次期グリーンエネルギーのひとつとして期待されているもの。燃料電池や、ドライ低NOx水素専焼ガスタービン(川崎重工が2020年5月に技術実証実験開始)などの発電機で、主に電気を生み出すことを念頭に置いた利用法が多い。つまり何らかの手段で発電したエネルギーを水素に変換して貯蔵し、これを使用することで再び電気を発生させるというサイクルだ。いわば形を変えた蓄電池と言えないこともないが、こうした用途に使われる水素については“キャリア”と呼称し、エネルギー運搬の手段として捉える考え方もある。ただし、危険物として取り扱われる液体水素にして貯蔵~運搬することもあってインフラの構築などが課題になっている。
一方、モリゾウ選手こと豊田章男社長が「カーボンニュートラルの敵は炭素であり、内燃機関ではない!」と熱を込めるように、今まではガソリンや軽油などを燃やして動力を得てきた内燃機関=エンジンは、カーボンニュートラル構想において目の敵にされている。欧州自動車メーカーでは、一部のブランドなど早いものでは2030年以降に電動ビークル(EV)に切り替えると発表するなど、ガソリン車はおろかハイブリッド車すら生き残りが難しいと考えられてきた。
そこにトヨタが投入したのが水素カローラだ。搭載される水素エンジンは、ガソリンの代わりに水素を用いることで、内燃機関の基本構造を生かしたまま有害な排出ガスを大幅に減らすことができるというもの。というか、基本的に二酸化炭素は排出せず、燃焼によって水素と酸素が結びつくことで発生するのはH2O、つまり水である。空気中には窒素が含まれているためNOx(窒素酸化物)は発生してしまうが、これは追々対策がなされていくだろう。
トヨタの狙いは、この水素エンジンをモータースポーツに用いることで、未だ利用方法がハッキリとは定まっていない水素に“使う”という出口を与え、これをペースメーカーとした“つくる”“運ぶ”の全ての流れを含めた実証実験を行うこと。さらに、内燃機関にも未来を切り拓く可能性はあるのだ、ということをユーザーや国に対してアピールする意味もある。
これらを踏まえ、一定の納期=レース決勝を守るために水素を製造し、サーキットまで運び、水素カローラを走らせるために使うという、再生可能エネルギーの製造から運搬、使用までのプロセスが出来たわけだ。また、モータースポーツを軸とすることで、充電/充填時間を短くしたい、燃費を上げたいといった技術的課題もわかりやすくなるのがメリットになる。
豊田章男社長によれば、政府などが発表している○○年までに再生可能エネルギーを○%に、というのはほぼ太陽光発電の話だといい、最初に参戦した富士スピードウェイでは太陽光発電由来のグリーン水素を使用。ただ、太陽光発電ができるのは24時間のうち半分くらいで、残り半分は火力に頼らざるを得ない。そこで、再生可能エネルギーの選択肢を広げる狙いから、今回は日本で豊富に得られる地熱による発電を利用したとしている。
トヨタが“仲間”とする大林組は、オートポリスから近い大分県九重町で地熱発電およびグリーン水素製造の実証プラントを完成させており、これを、トヨタ自動車九州の工場にも供給する。トヨタ自動車九州は自社でも太陽光発電で水素をつくって工場で運用しており、FCVフォークリフトや定置型燃料電池を駆動。そうした水素エネルギーへの理解や縁もあって、水素カローラでこの水素を使えないかと話が進んだという。
水素カローラのサウンド!
川崎重工は製造と運搬のエキスパート
では、カワサキはどのように関わっていくのか。まずスーパー耐久シリーズ2021第5戦SUZUKA S耐への参戦で地産地消の水素供給に協力するようだが、その先に見据えるのはオーストラリアで製造した褐炭由来の水素を船で日本へ運び、それをトヨタが利用するというサプライチェーンの構築だ。
前述のように川崎重工は大林組と共同で、川崎重工が開発した「マイクロミックス燃焼」技術を活用したドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験を2020年5月に開始し、エネルギーインフラの将来に向けて貢献していくとしている。それだけでなく、川崎重工はカワサキブランドでコンシューマ向けにバイクを生産、ほかにも船舶用エンジンや発電タービンなど、本業の中でも水素には未来があるとして、2020年に事業の軸として掲げていた。
そしてカンファレンス会場では、改めてバイク、航空機、ガスタービンに水素を用いることについても、その可能性を“仲間”とともに検討していきたいと力強く語ってくれたのだ。
これについてトヨタGRレーシング代表の佐藤氏は、エンジンは過渡の部分をつくっていくのが難しく、トヨタとカワサキがお互いに持っているノウハウを基にディスカッションしていけたらと期待を寄せる。
豊田章男社長は、川崎重工が持つロケット製造の歴史やマイナス約253℃の液体水素の保管技術などを高く評価するとともに、日本企業のさまざまな技術の蓄積に言及。目標だけを決めてあとはよろしく、という態度ではなく、現場で頑張っている民間企業を後押ししていく政策や国のリーダーシップ、そして産学官の協力が不可欠と訴えた。
ヤングマシンらしく、水素のニンジャH2に期待!!
我々バイクファンとしては、水素エンジンという新たな内燃機関の選択肢が登場したことにより、エンジンで走るバイクが生き残る光明が見えてきたことを歓迎したい。
そしてヤングマシンらしく先走りの予言的妄想もしておこう。他メーカーももちろんだが、まずカワサキが実現するとしたらどんなバイクか……。そう、その名にH2(水素)が含まれるニンジャH2なんかはどうだろうか!(ドヤ顔)
もちろんガソリンの代わりに水素を燃焼させるエンジンは、プレイグニッション(自己着火/異常燃焼の一種)が課題となることから、高出力化には難題が山積していることだろう。スーパーチャージャー搭載ともなれば、難度はさらに上がるかもしれない。
となれば、ニンジャZX-14Rの水素版なんかはどうだろう。大排気量自然吸気ゆえのスムーズかつ雄大なトルク、新幹線グリーン車のような乗り心地が水素エンジンでも実現できるのか、実に興味深い。いや、それよりもZ900RSやメグロK3みたいな……。
えー、妄想にキリがなくなってきたのでこのあたりで。最後に豊田章男社長のメッセージで締めくくりたい。
豊田章男社長
「国に期待するのは3点。1つめは、仲間を増やしましょうよ。2つめは、カーボンニュートラルを正しく理解いただきたい。そして3つめは、達成への道のりの順番を間違えないでいただきたい。これに尽きます。カーボンニュートラルを正しく理解すること、それはカーボンニュートラルの敵は炭素だということです。内燃機関ではありません。内燃機関をやめさせようという動きが見られるが、あくまでも敵は炭素。達成への道のりについては、これが正解ですというのは未だ見つかっていません。そんな段階で選択肢を狭め、これがあたかも正解かのごとく持っていくやり方ではなく、今は多くの選択肢を与え、その選択肢のどこに可能性が出てくるかわからないので、そのサポートをお願いしたい。……本当はもっと言いたいけど」
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