最新バイクでは、大排気量車にとどまらず250ccクラスにも採用されつつある電子制御の統合技術が“ライディングモード”だ。古くはスズキのSDMSから始まり、ドゥカティのムルティストラーダが掲げた「4 bikes in 1」など進化を経て「一発で走りを変える」モードへと発展している。
●文:山下剛
パワー特性の変化を基本に、さらなる統合制御へと進化
大排気量のスポーツバイクやアドベンチャーツアラーでは、ここ数年で必須装備となっているひとつがライディングモードだ。
基本的な概念としては、ライダーのスロットル操作が一定であってもモードによってエンジン出力が変更される機能のことで、一般的にライディングモードや走行モード、パワーモード、エンジン出力モードと呼ばれるが、その呼称はメーカーによって異なるし、モデルによっても違っている。
たとえば、カワサキ・Ninja ZX-10R SEではパワーモード、ホンダ・CBR1000RR-R FIREBLADEではパワーセレクター、ヤマハ・YZF-R1やMT-09ではD-MODE、スズキ・GSX-R1000ではSDMS(Suzuki Drive Mode Selector)としているが、いずれもエンジン出力特性が異なるモードをユーザーが任意に選択できるものだ。
これはスロットルバイワイヤ(ライドバイワイヤともいう)という技術によって実現した機能だ。従来はワイヤー(ケーブル)で物理的に接続されていたスロットルとスロットルバルブ(混合気=ガソリンと空気を調節するための弁)を、電気的に接続する技術がスロットルバイワイヤである。
ごく簡単にいうと、スロットルとスロットルバルブの開度とを0から10までの11段階に分けるとしよう。ワイヤー式の場合は、スロットル開度が5ならバルブ開度も5である。スロットルバイワイヤでは、スロットル開度が5でもバルブ開度を3や6にすることができるのだ。これはスロットルとスロットルバルブの間に介在しているECU(Engine Control Unit)が調整機能を果たすことで実現している。
出力特性をどのように変更させるかはモデルによって異なるのでいちがいにいえないものの、低・中・高のような3段階のエンジン出力特性が設定され、レイン・ストリート・スポーツなどのモード名が当てはめられる。アドベンチャーツアラーの場合は、オフロード走行用モードが追加されることも多い。
レインモードを選択した場合、スロットルの開けはじめの出力が低くなり、濡れて滑りやすくなっている路面でのスリップを抑制する。スポーツモードの場合は、スロットルの開けはじめから高い出力を発生して鋭い加速を生み出す。つまりレインモードではスロットルをラフに操作してもバイクの挙動が乱れにくく、安定して走れるようになる。雨天走行時に有効なのはもちろん、たとえばタイヤを新品に交換した直後や、砂利の道路や駐車場などでも効果を発揮するのだ。
これを応用した機能はほかにもあり、ウィリーコントロールやローンチコントロールなどがそうだ。ウィリーコントロールは前輪が浮き上がるようなスロットル操作をした際、たとえスロットルを戻さなくてもECUが燃料をカットするなどで出力を下げ、前輪を接地させる。これにはIMU(Inertial Measurement Unit=慣性計測装置)が検知した車両状態のデータも使われる。ローンチコントロールはスーパースポーツに搭載される制御技術で、スロットルを全開にしても一定以上の速度が出ないようにする機能だ。
最新スーパースポーツやアドベンチャーツアラーのライディングモードでは、エンジン出力特性だけでなく、ABS、トラクションコントロール、エンジンブレーキコントロール、サスペンションダンピングなどを同時に変更し、より快適で安全な走行を実現するようになっている。それぞれを個別に設定して自分好みのパターンを記憶させておく機能もあり、これまで以上に愛車のセッティング(チューニング)を楽しめるよう進化しているのだ。
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