TEXT:Go TAKAHASHI
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第49回は、改めてバイクの楽しみ方についてと、おじさんローリング族にひと言。
釣りとバイクを融合したイベントなどを企画してみたい!
モナコでもじわじわと新型コロナウイルス感染者が増えていて、現時点では午後7時以降は外出禁止です。レストランの食事も距離の確保など厳しい制限が課せられていますが、こればかりは仕方ないですよね……。僕も昨年末にモナコに帰ってきてからほとんど出かけていませんし、ドゥカティ・スクランブラーにも乗れていません。
でも、腐っていても始まりませんよね! コロナ禍が終わった時にすぐに動き出せるように、僕は日々、今年挑戦したいこと、やりたいことを考えているんです。目標を立てていた方が前向きな気持ちになります。
まず最初の目標は、魚をさばけるようになること!(笑)これ、半分冗談ですが、半分本気です。去年から本格的に始めたばかりの船釣りですが、自分でも想像以上にハマッてしまい、YouTubeでも釣りの動画をたくさん観ています。魚をさばく動画もあって、見応えがあるんですよ。
僕の場合は、釣った魚はおいしくいただきたい派なので、どうせならちゃんと自分でさばけるようになりたい! そして船釣りとツーリングをうまく組み合わせて新しい遊びができないかな、ということも考えています。
例えばですが、午前中にツーリングしながら船宿まで行き、午後は船釣り。釣った魚を持って近くのキャンプ場に行って、BBQしながらお酒を飲んでたっぷりと語り合い、翌日はまたツーリングしながら帰る……といった1泊ツーリングなんか、かなり面白そうじゃないですか?
2年ほど前、気の合うバイク仕事仲間たちと西伊豆に1泊ツーリングに行きました。その時はツーリングして宿に行き、みんなで飲んだくれて翌日帰る、というめちゃくちゃシンプルなものでしたが(笑)、いろんな人たちと話をするのが大好きだし、もちろんバイクも好きなので、十分に楽しめました。でも、ここに釣りという新しい要素を加えたら、もっと話も盛り上がるだろうし、思い出にもなるんじゃないかな。
何なら釣りのプロや、魚料理の上手な船長さんなんかも巻き込んで、釣りをもっともっと深く楽しみながら、バイクの世界も広げてしまおうかな、なんてアイデアもあるんです。とりあえず今年、まずは仲間内で試してみて、面白そうだったら一般の皆さんも参加できるような企画に仕立てられたらいいな、と思っています。
ただ、僕の好みとしてできるだけこぢんまりとした形でやりたいんですよね……。50人、100人と参加者が増えてしまうと、みんなとお話できなくなってしまいます。それよりも、コンパクトでいいから全員の方たちと言葉を交わせるような、自分の目が届く形のイベントを催せたらいいな。大きいイベントをひとつやるより、小さいイベントを5つやった方が、参加してくださる方も、僕自身も充実するんじゃないか、という考え方ですね。それだけ時間も手間もかかるわけですが……(笑)。
トライアル、一生懸命練習します!
次の目標は、イーハトーブに出ること! ご存知の方も多いと思いますが、正式名称は「出光イーハトーブトライアル」で、毎年夏に岩手県を舞台に行われているツーリングトライアルイベントのことです。僕がイーハトーブのことを知ったのは4、5年前のこと。YFデザインの深澤裕司くんに聞いて、さっそくYouTubeで観たら「これは面白そうだ!」と。大自然の中をバイクで駆け巡るなんて最高ですよね。
去年はコロナ禍の影響で残念ながら中止になってしまい、今年もどうなることか分かりませんが、開催されるならぜひ参加したい! ただ、大人気イベントなので応募しても倍率はめちゃくちゃ高いそうなんですよ。日本でトライアルマシンも買ったし、これから一生懸命練習しますので、出光さんお願いします、なんとかエントリーさせてください(笑)。
釣りにしてもイーハトーブにしても、アウトドアな遊びばかりなのが我ながら意外です。というのは、僕はもともとかなりのインドア派。外に出るのは好きじゃなく、できればずっと家にいたいタイプです(笑)。でも、はっきり言って僕の人生も折り返しを過ぎてますからね。外で遊べるのもあと何年かな? 20年ぐらいでしょうか? だったら今のうちにアウトドアでの遊びを満喫しようと思っています。
ライダーに伝えるために、まだまだ学ぶことがたくさんある
そしてもうひとつの目標は、伝える力を身に付けることです。仕事でライディングについてレクチャーさせていただくことが多いんですが、我ながらまだまだボキャブラリーが足りない! もっと頑張らないと伝えたいことも伝わらないな、と思っています。それこそYouTubeでモトブロガーの方たちや一般の方たちの動画を観て、「こういう伝え方もあるのか」と参考にしているんですよ。
ひとつ難しいのは、ライディングに関しては自分が意識しなくてもできてしまっていることが多い点です。例えばブレーキングについてお伝えしたとして、自分としては「この話はスタートライン、出発点の0レベルだ」と思っていても、一般の方たちにとってはすでに7とか8とか、かなりハイレベルなことを言ってしまっている場合があるんです。ここはかなり気を付けなくちゃいけないな、と。
それでも僕は人と話すのが好きだし、自分が伝えたことがライダーの皆さんにとって何か少しでも役に立てるなら、すごくうれしいんです。だから頑張ってボキャブラリーを増やして、伝え方を工夫していこうかな、と思っています。そして僕自身は決していい生徒じゃなかった分、学校の先生ってすごいんだなぁと改めて痛感しています(笑)。
ちなみに僕は、今のところレーシングライダーたちに何かを教えることはありません(将来的には変わるかもしれませんが……)。これは自分の考え方ですが、レースで上に行くつもりなら、人に教わっている時点でもう難しいと思うんです。何をするべきかは、自分で気付かないといけない。それぐらいの興味と本気度と意欲がなければ、勝ち上がっていくことはできません。本当に厳しい世界なんですよ……。
だから僕がライディングについてレクチャーするのは、一般の方たちが対象。そして、少しでも安全に、そ少しでも長くバイクに乗ってほしいと思っています。そのためには、テクニックも大事ですが、「バイクは飛ばさなくても楽しい」ということも知ってほしい。最初に書いた「バイク+釣り」も、飛ばすこと以外にも楽しみがあるよ、と知ってもらうためのアイデアのひとつ。トライアルもスピードは遅い競技ですが、奥深くて本当に面白い。そういう「飛ばさなくても楽しいバイク」を知ってもらいながら、自制するメンタルを身に付けてもらえたらすごくうれしいですね。
先日、峠をスーパースポーツで飛ばして逮捕された「おじさんローリング族」の報道がありましたね。「サーキット走行ための練習だった」と言っていたそうですが、とんでもないことです。僕の感覚ではまったく逆。サーキットでの練習は公道走行の役に立ちますが、公道で練習してサーキット走行に役立てるなんて言語道断です。僕が「テクニックよりメンタル」と何度も繰り返し言うのは、まさにこういうことなんです。いくらテクニックが向上しても、自制できるだけのメンタルの強さが備わらなければ、こうやって世の中に迷惑をかけるだけ。
マナーのいいライダーが1万回いいことをしたとしても、たった1回こういうことがあるだけでバイクのイメージはがた落ちです。「やっぱりバイクはダメだ」と思われてしまう。矛盾しているようにも不公平なようにも思いますが、世間というのはそういうものです。自分たちが変わっていくしかありません。僕も伝える力をもっと身に付けて、微力ながら役に立てればと思っています。
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