以前の記事でホンダCBR1000RR-Rのフルテストを担当したヤングマシンテスター・丸山浩が何度も発した「振動が少なくてスムーズ」という言葉。ではなぜ、RR-Rのエンジンは振動が少なく感じるのか。ライダーが感じるフィーリング、それをもたらす技術について考察する。
ライダーの感じる「回転上昇の軽さ」とは?
以前実施した丸山浩さんのインプレやテスト結果から、RR-Rのエンジン性能は相当高いと想像できます。それはどのような技術や作り込みがもたらしているのでしょうか?
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丸山さんは「まず感動したのはエンジンのスムーズさ。回転上昇が軽く、振動が少なく、それでいてパワー感がある」と言っています。この「回転上昇の軽さ」は空吹かしならクランク系の慣性モーメント(イナーシャ)とフリクションの大きさ、スロットルバルブの開き方などが、走行中であれば馬力と減速比、車重が大きく影響します。
丸山さんは「ギヤ比はロング気味」と言っていますので、ショートレシオだからヒュンヒュン吹けるのではなさそうです。ですから私の推測は「フリクションが少なく、全回転域でトルクが豊富にあるからスロットルレスポンスが良いのでは?」となります。
さらに「回転上昇が軽い」というのはライダーの感覚ですから、加速度の大きさだけでなく、音や振動の大きさや質とも相関があると考えられます。つまり「振動が少なくスムーズ」なのが「回転上昇が軽く」感じる要因にもなっているのだろうと。さらにRR-Rが出力測定する動画を見ましたら、排気音が非常に澄んでいて綺麗(これは私の感覚)なので、これも回転上昇を軽く感じさせているかもしれません。
「回転上昇が軽い」という一言に対しこれだけ書きましたのは、この記事を通じ、読者の皆さんに技術を掘り下げる面白さを伝えたいからです。少々くどいかもしれませんが、お付き合いいただけたらと思います。
チタンコンロッドがもたらす絶大なる効果
「振動が少ない」ことを実現する技術で重要なのは、もちろんエンジン側の加振力が小さいことです。しかし、実際にライダーが触れているのはハンドルやシート、ステップといった車体の部品ですから、フレームがエンジンに加振されても振動しにくいことも重要になります。最近は様々な解析技術が実用化され、ホンダはその分野も最先端を行っているでしょうから、振動面も深く作り込まれているはずです。
話をエンジンに戻して、RR-Rのスペックや画像を見るかぎり、バランサーのような積極的に振動を低減する技術は使われていなさそうです。ではなぜRR-Rは振動が少ないのでしょうか。一番大きなポイントはチタンコンロッドの採用だと考えられます。ホンダはその重量軽減率を50%と言っていますが、往復部分の慣性質量はコンロッドの往復相当部分とピストン/ピストンピンなどの質量の合計ですから、トータルで往復慣性質量を考えた場合、コンロッドのチタン化による軽量効果は10数%程度かもしれません。しかしこれはドでかい効果で、かなりの振動低減になるとともに、メカロスも相当低減され、高出力化にも大きく貢献していると思います。
ショートストローク化も一般的には振動面が良くなると言われますが、RR-Rはボアが大きくなっているのでピストンが重くなりやすいですし、大きくなると強度を保つのも難しく、振動低減効果はあまり得られません。したがってピストンの軽量化が重要ですが、ホンダはコンロッドとともに、ピストンもオリジナルの材料で軽量化しているようです。解析技術もフル活用しているでしょうが、材料から開発できるのは流石! 日の丸を背負って立つ”世界のホンダ”という感じがします。
【”ホンダ製チタン”のコンロッド】ホンダの市販二輪車では’86年のRC30、’92年のNR、’15年のRC213V-Sに次ぐ4例目のチタンコンロッド。驚くのはコンロッドボルトのクロモリ材を含め、チタン材そのものを独自開発していること。これが可能なのは二輪メーカーではホンダだけだろう。
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