MotoGP ’20シーズン開幕直前

’19 MotoGPを振り返る【元GPライダー・青木宣篤の目:ホンダ編】

ホンダRC213V×マルク・マルケスが圧倒的な強さを見せつける形となった’19シーズンのMotoGP。ヤングマシン本誌連載「上毛GP新聞」でおなじみのマニアックGP解説者・青木宣篤が、独自の視点で今シーズンのホンダチームを振り返る。


●文:高橋剛 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

青木宣篤

青木 宣篤(あおき・のぶあつ):ヤングマシン本誌「上毛GP新聞」でおなじみのマニアックGP解説者。’90年代半ばから’00年代始めにかけてGPで活躍。ブリヂストンやスズキ・モトGPマシンの開発ライダーも。鈴鹿8耐に参戦を続けている”現役”だ。

ホンダから感じるのは、ド根性だ。新しいことへのトライは、常にいいところ・悪いところがあって、机上の計算だけでは分からない。データ上は「ヨシ」でも、ライダーが「ダメ」を出すことなどザラだ。

ではどうするか。やってみるしかないのだ。ホンダは実際にモノを作ってのトライ(当然お金も手間もかかる)ができている。そういう体制だからこそ、ヘッドパイプに穴を空けるという大胆な開発に挑戦できたのだろう。

穴が空けば、当然剛性は落ちる。それを別の部分で補うわけだが、どこでどう補えばどういうフィーリングになるかは、やってみなけりゃ分からない。机上の剛性値は元通りに揃えられたとしても、走ってOKの状態にするのは相当な手間がかかったはずだ。

それでも、フロントまわりはかなり硬い印象がある。ロレンソが苦戦したことを考えれば、フロントからのインフォメーションはかなり希薄なのだろう。ブレーキングしてもたわみ感が少なく、マルケス以外のライダーはうまく乗りこなせなかったに違いない。

マルケス? 彼は別次元だから(笑)。リヤを滑らせる走りで乗りこなしたが、何より彼の1秒は常人より長いのだ。来季はクアルタラロが追いつくか、追いつけるのか…。

ラクショーどころか実は薄氷だった!? 困難なエンジン開発

最強ペアと謳われるRC213V+マルケスだが、それでも転倒リタイヤが(アメリカGPの1戦だけとはいえ)あったり、2位になるレースがあったりする。イギリスGPではスズキのリンスとのつばぜり合いになったが、コーナーによってはライダーの予測のつかないスライドが起き、「オオッ!」となってタイムロスしている様子が見て取れた。ホンダの開発者たちは「苦しいシーズンだった」と言ったそうだが、あながちウソではないのだろうと思う。パワーアップを果たしながらドライバビリティを高めることの難しさが改めてよく分かる。

【’19 HONDA RC213V】インレットダクトのレイアウトを極力ストレート化したことで、ヘッドパイプまわりに穴を空けるなど、フレームに大変更が施された。

穴空きフレームのRC213Vはカブリオレ説

インレットダクトをストレートにして吸気効率を高めるため、ヘッドパイプに穴を空けたRC213V。これがいかにスゴイかわかりやすく言えば、自動車のハードトップとカブリオレぐらいの違い。オープンカーのカブリオレは、各部に補強を施し、普通のハードトップと同程度の剛性値を出しているはずだが、実際の乗り味はかなり違う。同じこと以上の事態が、穴空きフレームでは起きているはずだ。というのはバイクの場合、荷重がさまざまな方向からかかってくるので、非常に複雑。まさにやってみなけりゃ分からない世界だ。フレームへの穴空けなんて、本当に難作業なのだ。

ロレンソの引退……

才能あるライダーが、MotoGPを去ることになった。ホルヘ・ロレンソは’06年と’07年には250ccクラスのチャンピオンで獲得。’08年、ヤマハからMotoGPにステップすると、10年、12年、15年と3度タイトルを獲得した。

’17〜’18年はドゥカティで走り、19年に2年契約でホンダに移籍。マルケスと合わせ、チャンピオン経験者が同一チームに所属することになり、大いに活躍が期待された。しかしマシンとのマッチングに苦戦。負傷の影響もあり、成績は振るわなかった。

オランダGPで胸椎骨折を負う大きな転倒を喫した時、「もう十分だ…」と心中で引退を決意。シーズン終了と同時に、2年契約の半ばで引退を表明した。

(その後、かねてからの噂通り、ロレンソはヤマハのテストライダーとして復帰することが発表された)

フロント依存度が高いロレンソの走りと、RC213Vの基本特性は合わなかったか…。32歳、早すぎる引退となった。

中上貴晶は来年もっと速くなる?

モトGPでの2シーズン目を終えた中上は、まだまだ発展途上にいる。

「モトGPはものすごくハイレベル。フィジカル、メンタル、インテリジェンスとすべてが整わなければトップグループを走ることはできない。想像以上に緻密で、わずかなミスも許されない世界」と語った参戦初年度の’18年は、最高位が6位。シングルフィニッシュはその1度だけで、ランキング20位だった。

2シーズン目の’19年は、6レースでシングルフィニッシュを果たす。最上位も5位と前年度を上回り、終盤の3戦を負傷の治療のため欠場しながらもランキングは13位となった。

「自分の強みを生かす乗り方になり、確実な成長を感じる。レース終盤の踏ん張りが効くようになれば、ファクトリーライダーを食う勢いがあるのではないか」と、HRC桒田氏。

万全の体調で3シーズン目に臨むことができれば、常にトップ10圏内に食い込む活躍に期待できそうだ。

中上貴晶(LCR HONDA IDEMITSU)

元GPライダーにしてマニアックGP解説者・ノブ青木による’19 MotoGPの振り返り。ホンダ編に引き続き、次ページではヤマハ/スズキ/欧州勢をまとめて解説する。

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