BMW G310Rをスーパースポーツに変身させるという『ヤングマシン』本誌企画から始まった「YM-LAB特装 G310SSプロジェクト」。カウリングメーカー・エーテックとのコラボにより、2018年夏に実車が公開されると、日本のみならず世界でも大きな反響を呼んだ。そんなG310SSが2019年夏の「もてぎオープン7時間耐久ロードレース(もて耐)」に大挙してエントリー。並みいる国産車勢の中で、見事13位のリザルトを獲得し、その実力を遺憾なく発揮した。
YM-LAB特装 G310SSプロジェクト
『ヤングマシン』本誌が描いた妄想CGが現実の世界へ──。BMW G310Rのフルカウル仕様を世に送り出そうというこのプロジェクト、編集部がCGで考案したフルカウル仕様「G310SS」を外装パーツで有名なエーテックが製作し、そのプロトタイプが完成したのが2018年夏のことであった。
本誌が描いた妄想CGが現実へ──。BMW・G310Rのフルカウル仕様を製作するプロジェクトが大きく前進し、ついにプロトタイプが完成した。 まるで"純正モデル?!"な見事な仕上がり パッと見て「S100[…]
もて耐総合13位!国産車勢にひけを取らない実力を見せつけたG310SS
このプロジェクトの集大成として、スポーティなカウルをまとったG310R=G310SSが、2019年8月に開催された「もてぎオープン7時間耐久ロードレース(もて耐)」に5台エントリーを果たした。
もともとネイキッドスタイルのG310Rは、S1000RRルックのフルカウルを装着することで、戦闘力が大幅にアップ。クラスのトップ2台が前年のもて耐ネオスタンダードG310Rクラスのベストタイムを更新しただけでなく、出場したG310Rの中でトップリザルトを獲得した「B.S.C with YOUNG MACHINE」が総合13位を獲得するなど、その実力の高さを証明し、多くのエントラントの関心を集めていた。
「自分の進歩を感じられるマシンになったと思う」
今回出走したG310Rの中でトップリザルトを獲得した「B.S.C with YOUNG MACHINE」のG310SS。BMWモトラッドのエリアマネージャーを務める武藤昇さんがマシンオーナーで、エーテックの宮崎代表にレース用カウルの制作を依頼したことで、このG310SSレーサーが実現した。
ストレートでライダーが伏せた姿勢を取りやすいように、タンクやシートカウルの形状を小変更。スクリーンにはS1000RR同様のスリットを大会中に入れるなど、レーサーとして細かなモディファイが施されてきた。
武藤さんはもて耐のほか、ツインリンクもてぎと鈴鹿サーキットで開催されている、ネオスタンダードG310Rクラスにもこのマシンで参戦している。「ノーマルのときには、もてぎで2分40秒前後だったタイムが、33秒、30秒、28秒と速くなりました。このG310SSは、もっと速く走ってみようという気持ちになれるし、自分の進歩を感じられるバイクだと思います」
カウルと足まわりのモディファイにより、もて耐での戦闘力を獲得
では、武藤さんが手がけた細かなモディファイについて見てみよう。
S1000RRをイメージしたアッパーカウルは、風防効果が効きすぎてヘルメットのシールドが曇ることが判明したため、急きょスクリーンの左右縁にS1000RR同様の穴を開けて換気を促すようにした。またタンクカバーにはポジションを改善するためのストッパーを追加し、ライダーの着座位置を後ろへ。これによってリヤタイヤのトラクションを稼ぐことができる。シートについてはオリジナルは純正シートだがレース用カウルではFRP製のシートベースを使用。テールカウルは座面を平らにしたうえで、#135号車は約2cm後ろに下げて固定している。
ブレーキディスクは、リジットタイプのノーマルに対して、サンスター製のフローティングタイプに換装。ブレーキパッドには特注したメタリカのSpec03を使っている。ジップモータープロ製のステップは、ノーマルステップに対して50~62mmバック、38~50mmアップという、レーシーなポジションだ。またリヤサスペンションユニットは、MHプロダクツに特注したピギーバックタイプのショックユニット&スプリングを使用し、公式練習と予選日でセッティングを行った。排気系はジップモータープロのフルエキゾースト。サイレンサーはmotoGPのYZF-M1も手掛けているサクラ工業のチームがワンオフ制作のスペシャルパーツだ。
「スタイルと同時に走りもスーパースポーツになった」
「ノーマルに比べて旋回性が向上したことが、タイムアップにつながった」
そう語るのは、B.S.C with YOUNG MACHINEの第1ライダー・小川順司さん。今回のもて耐でレコードラップタイムを記録したライダーだ。フルカウル化と同時にハンドルがクリップオンタイプとなったことで、ライダーの前傾が強くなり、フロント荷重が増加。「パイプハンドルだとどうしても コーナーでアウトにはらんで行ってしまう」というネガを解決することができたという。
また、フルカウルの風防効果はトップスピードの向上にも貢献。その効果はストレートで伏せるとヘルメットのシールドが曇るほどで、小川さんの感覚ではトップスピードで同じ単気筒のCBR250Rより数km/hは速いと言う。
もちろんカウルと同時にピレリタイヤのグリップによるところも大きい。とはいえ、元のスタイルが想像できないほど大幅にスタイルが変わったG310SSは、そのスタイルだけでなく、走りの実力も「スーパースポーツになった」(小川さん)と言う。
活躍の場を広げるG310SSに期待
もともとは『ヤングマシン』本誌が描いた妄想CGがきっかけで、そこから多くの関係者の尽力により現実の世へと羽ばたいた「G310SS」。それがこのような形でどんどん活躍の場を広げていることに、編集部としては嬉しいという以外に言葉が見つからない。
今回のもて耐に限らず、シリーズ戦のネオスタンダードG310Rのレースでも、このG310SSカウルのユーザーが急増中とのことで、今後サーキットでG310SSの勇姿を目にする機会がますます増えることは間違いないだろう。
●文:八百山ゆーすけ ●写真:佐藤寿/真弓悟史
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